「はいれぬ」
悪童丸の陽根を祭った小さな祭壇の周りの角に竹が埋められ
竹を結んであらなわが張られている。
ひどく簡単なひもろぎであるというのに、伽羅には入れない。
「ただの陰陽師ではない」
薊撫のいうとおりのかむはかりの者のせいか?
なれど、ほたえを放ち生を継がせる道具を
とりあぐる陰陽師のどこがかむはかりの者か?
「なにをかんがえおる」
悪童丸も舌が癒えぬものだから、何もはなし . . . 本文を読む
澄明に言われた百日目の夜である。
海老名は祭壇の前までくると、やはり、戸惑いをあらわにする。
姫の懇願に負けてここまで来たのは来たのである。
が、
「姫様」
躊躇うような海老名の声が夜のしじまに響く。
「早う、悪童丸の陽根を、わらわの手に・・」
「なれど・・・」
「海老名、今宵を逃したら。
そもじも、あの折に言うたではないか、悪しきにはせぬと、
なによりも、悪童丸はわらわの弟、 . . . 本文を読む
それから一月。
勢は三条の元に嫁しこした。
これで、因縁通り越せるか?
勢を懐妊を待つ。
待つは無論。悪童丸との結果である。
だが、思わぬ落とし穴があった。
これが勢をくるしめた。
はよう。あからさまになれ。
あれから、障りが無い。
おくれておるだけか?
はらんだか?
勢がいかほどに焦るのも無理は無い。
「澄明:。この苦しさも因縁か?これもとおりこせというか?」
懐妊への . . . 本文を読む
だが、はらんだか?
はらんでおるのか?
澄明の言葉が浮かび上がる。
―百日精を留め置かれ、膨れ上がった情念を受けながら、
それでも孕まねば、自然は三条様のものになれときこしめます―
―自然はなるがまま。これが自然―
澄明がいう。
―自然を勝る情念が味方せぬことこそ、なってはならない。
そのあかしです―
孕まぬはつまり、なってはならぬという神の意思だという。
―神 . . . 本文を読む
―勢がある―
あの勢いで恋を生き抜く。
はらむだろう。
はらむにきまっておる。
はらまずにおくものか。
あの鬼恋しさで何もかもを受け止め
己の生き路をつかみとるはげしさで、
悪童丸との運命を切り開こうとする。
その誠に天が乗る。
自然を、人を生み出した天が乗る。
なるにきまっております。
決まっておる事なぞ口にだすまい。
三条の哀れが主膳に重なって見えた。
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