それから一月。
勢は三条の元に嫁しこした。
これで、因縁通り越せるか?
勢を懐妊を待つ。
待つは無論。悪童丸との結果である。
だが、思わぬ落とし穴があった。
これが勢をくるしめた。
はよう。あからさまになれ。
あれから、障りが無い。
おくれておるだけか?
はらんだか?
勢がいかほどに焦るのも無理は無い。
「澄明:。この苦しさも因縁か?これもとおりこせというか?」
懐妊への不安ではない。
三条の心がくるしい。
『かなえが主膳をおもうたおもいか?』
かなえになるというた。
いうたが、かほどに因縁は想いをくりかえさせるか?
『勢』
嫁しこした姫を抱いた三条の手が震える。
心が震える。
勢はすでに男を知っていた。
どういうことだ?
穿たれる憎しみがくやしい。
しっておったからこそ、主膳は婚をせいたか?
主膳にたばかれたか?
勢は主膳をも、たばいてみせたか?
口惜しい。
勢の身体を嘗めた男が憎い。
三条の手の中で喘ぐ勢がどれ程情交をかさねつくしたか。
如実に明かす女の身体がある。
憎い。くやしい。
もっと、口惜しいのはそれでも勢を赦す自分である。
僅かの蠢きに声を漏らす女が開花している。
その勢を求めずに置けない。
口惜しい、口惜しい。
そして、まして、いとおしい。
『勢』
その男とのことなぞ、三条がぬりかえてみせてやる。
出来ぬはずはない。
既に三条に酔う勢がみえる。
よえるはずだから、
その男の事なぞ忘れられるからここにきたのであろう?
憎むまい。うらむまい。
勢は今確かに三条のものなのだから。
瞳を開き、勢は三条を見詰る。
その瞳が潤み、厚ぼったい妖艶な秋波が滲む。
その瞳は三条にほだされているとうったえていた。
堪えきれず勢は瞳をとじようとする。
が、いとしい人の姿を見つめるために
勢は瞳をひらきあげる。
『勢。かわ・・ゆい』
三条のものになる女がかわいい。
三条の姿を映そうとする勢が、瞳を閉じないのは、
悪童丸をおっているせいである。
悪童丸は三条の姿で現れる事があった。
その時、勢は瞳を固く閉じて悪童丸の心を追った。
いま、三条にだかれると、勢は逆に三条の姿に
悪童丸を追うために目を見開いた。
勢を抱いているのは三条の姿をした悪童丸だ。
勢は錯覚を現といいきかせた。
「あ」
あがってくる快感は勢の心が悪童丸を想うからだ。
勢は既に女である自分を隠さなかった。
そして、この女が求める者が悪童丸だとその女に教えられてもいた。
「だれが・・・だれが・・おまえを・・」
三条のつぶやきがもれた。
即刻に去り状が来ると思った勢の目論見は外れた。
それでも・・恋しい。
三条の本音が夜毎にくりかえされた。
『澄明。これが因縁をとおりこすということか?』
むごい。
三条の想いが伝わる度に身が引ききれそうな済まなさにうちのめされる。
父主膳もかなえ一筋の人だった。
主膳の思いがときにかなえをささえたことであろう。
だが、悪童丸への心が定まっているいま。
三条との行為よりも、
かくもひたむきに思いを寄せられるという事の方がよほど辛い。
思いもしなかったことであった。
『かなえのくるしみを解せという事か?これが通るということか?』
かなえのおもいがかなしい。
童子を思い続けたかったかなえは
それでも、きっと、主膳の心をうけとめてやりたかっただろう。
心底、主膳のものになってやりたかったろう。
三条に寄せられる思いがかなえのくるしみをしらせる。
ひょっとすると。
かなえはくるしさのはてに自分の思いを投げ出そうと
仕掛けていたのかもしれない。
主膳のものになる。
つまり、光来童子への恋をなくす。
それが・・・いやで・・。
それをなくすまいとかなえはとんだ?
あせてくる前に
なくしてしまう前に
かなえはたちもどった。
死をかけて、光来童子への恋に舞った?
主膳に八重があらわれ、
悪童丸の出生は勢も光来の子とあかした。
かなえには何の心残りもなかった。
ただ、主膳の思いに答え始めている心がこわかった?
そして、かなえは自分の心のままに生きる事をつかんだ。
これも因縁?
死ぬることがではない。
三条に寄せられる思いに苦しむことが、だ。
このまま、おれば・・・。
いきてゆけば、心も三条のものに成る?
はらんでおってくれ。
勢を穿つ三条の蠢きに瞳をとじるまい。
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