矢嶋武弘・Takehiroの部屋

われ発信す 故に われ在り、われ在り 故に 発信す
日一日の命

江戸川乱歩の『芋虫』にショック!

2024年11月23日 03時07分22秒 | 文学・小説・戯曲・エッセイなど

<以下の文を復刻します。>

文芸評論などは滅多にしないが、江戸川乱歩の短編小説『芋虫』については何か書かざるを得ない。ショッキングな小説である。一言で云えば“グロテスク”な嗜虐(しぎゃく)趣味の極致だろうが、なかなかこんな作品は書けるものではない。乱歩だから書けたのか。
1929年(昭和4年)の作品というから、当時のエロ・グロ・ナンセンスの風潮を背景にしていたのか。それは分からないが、ミステリーと言うよりも猟奇小説、怪奇小説の類いだろう。
内容は簡単に言ってしまえば、戦争で両手両足を失い、話もできず音声も聞こえない重度の傷痍(しょうい)軍人とその妻の物語である。戦前は戦争ばかりしていたので、戦死者ばかりでなくこういう傷痍軍人も多かったのだろう。今では考えられないことだ。
この夫は視覚と触覚だけは無事だったが、あとは全身に障害を負っている。だから、妻は献身的に夫の面倒を見るのだが、まだ30歳ぐらいの彼女は単調な生活にも飽き、やがて嗜虐趣味で“芋虫”のような夫をいたぶったり、虐待するようになる。この辺がどう見てもサド・マゾ、SMの世界と言えるだろう。
あとは物語を省略するが、最後は妻が夫の大切な両眼を傷つけ悲惨な終末を迎える。興味があればぜひ小説を読んでもらいたいが、グロテスクで陰惨な物語と言えよう。ただ、私がここで指摘したいのは、こういう小説が戦前は“弾圧”されたことだ。
いわゆる「伏せ字」だらけになったり、発禁処分になった。この『芋虫』もそうである。少しでも戦争に疑問を呈するような、体制を批判するような著作は全て弾圧された。江戸川乱歩自身は左翼でも何でもないが、体制派や右翼から嫌われたのだろう。
たしかにこの物語では、軍人にとって非常に名誉な「金鵄(きんし)勲章」が馬鹿にされるような描写がある。しかし、重度の“廃人”になった元軍人から見れば、勲章や中尉といった位階がどれほどの価値があるのか。せいぜい恩給がちょっと増えるだけである。
この小説が出ると、左翼陣営から大いに賞賛されたというが、乱歩は別に左翼でも何でもない。作家として正直に感じたこと、想ったことを書いただけである。ただ何事も、迫真のものは人の心を揺り動かすのだ。そういう意味で、この小説が賞賛されたり、逆に「禁書」になったことは乱歩にとって名誉だったと言えよう。(2015年6月10日)

https://www.google.co.jp/search?q=%E6%B1%9F%E6%88%B8%E5%B7%9D%E4%B9%B1%E6%AD%A9&biw=1101&bih=601&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ved=0CI0BEIkeahUKEwjBj4a1iYTGAhUHI6YKHdMTAKM


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 電気あれこれ | トップ | 明治17年・秩父革命(9) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

文学・小説・戯曲・エッセイなど」カテゴリの最新記事