子供のころ、
北海道で過ごした。
近所に、
男らしいオッサンが住んでいて、
食堂をやっていた。
普段から、威勢もよく、
男性ホルモンがいっぱいという感じだった。
頭は完全にはげていたので、
50歳くらいだったと思う。
彼はある春の日、
仕事の用事があって、
スーパーをやっている我が家に来て、
茶の間で、いろいろ話をしていた。
たまたま、テレビでは、
北海道代表の高校野球チームが、
甲子園で、試合をしていた。
しかも、その年にかぎって、
北海道勢は調子よく、
北海高校は、
準決勝まで進んでいた。
しかも、相手は、早稲田実業であった。
ちょっと考えただけで、
勝つのは無理・・・と思って当然だ。
昔は、北海道勢は、
すごく弱かったからだ。
ところが、なんと、
8回に、大逆転をし、
8-7で勝ったのだ。
この試合を見ていたオッサンは、
感動のあまり、
号泣するのだった。
涙を、いっぱい出して、
しきりに目をぬぐっていた。
12歳くらいの俺は、
信じられなかった。
男の中の男のオッサンが、
たかが高校野球の試合を見て、
泣くとは!
あまりに驚いた俺は、
オッサンの様子を
じっと凝視していた。
すると、目が合った。
彼は、真っ赤になった目で、
ちょっと恥ずかしそうな顔をした。
「いやん、見ちゃいや」
という表情であった。
その後、しばしば気づいたことがあった。
人間を先入観で見ちゃいけない・・・って。
ペテン師・佐村河内守や
号泣男・野々村竜太郎の例を持ち出すまでもなく、
そもそも人間って、わけのわからないものだ。
どんな人間も、
追い込まれたら、
ウソをつくし、
お世話になった人だって、
裏切る。
不条理な存在
・・・これが人間の真実なのだ。