「ねえ、夫の友人に会ってみない?」
親友の田中知美から、そう言われ、
北村涼子は、とまどった。
知美はすでに結婚して、
子供もいるが、
涼子は、まだその気はない。
27歳なので、
まだまだ独身を楽しみたい気持ちがあるからだ。
でも、やはり気になる。
「どんな人?」
「一度、会ったことあるけど、すごく思いやりのある、いい男よ」
「顔は?」
「イケメンよ!」
「へえ!」
涼子は急に、乗り気になる自分に気づいた。
その様子を見て、知美は明るく続けた。
「夫とは学生時代の同級生で、
今は、証券会社に勤めているの」
「うんうん」
「お金のほうもしっかりしてて、
33歳なのに、品川に2DKのマンションをもっているの」
「へえ、すごいじゃん」
「貯金も、かなりあるみたいよ」
・・と言ってから、知美は、
涼子の顔をじっと見てから、
ちょっとクチビルを引き締め、
眉間にしわを寄せた。
涼子は何かあるなと思って尋ねた。
「何か、あるの?」
「いや・・・そうじゃないけど、
涼子さ、頭、気になる?」
「え?・・・ああ、ヤバイってこと?」
「そう。若いのに、ちょっとだけね」
「かなり来てるの?」
「いや、ウスゲ・・・って感じ」
「う~ん・・・でもさ、ウチの父親も、かなりのハゲなんで、
あんまり、私は気にしない方なの」
「そう言えば、涼子、お父さんっ子だったわね」
「うん。パパとは、今でも、ときどき食事やドライブに行くしね」
知美は笑い出した。
「そう言えば、涼子の、お父さん、かなりの波平系だったわね!
ウスゲ程度なら、楽勝よね!」
「波平系は失礼よ!」
「でも、涼子のパパを見てると、ハゲに悪人はいないって本当よね」
「確かに!パパは、頭ばっかじゃなく、心も、いつも明るいもん!ハハハハ」
二人は大笑いした。
その後、知美は、男の名前を教えてくれた。
温水孝一(ぬくみず・こういち)と言った。
宮崎県出身で、宮崎には、「温水(ぬくみず)」
という苗字があるのだという。
知美は言った。
「温水(おんすい)と書いて、ヌクミズ・・・って呼ぶの。
そうそう、愛称は、ヌックンだって!
そう言えば、涼子は、北村涼子だから、寒い感じの名前よね。
温水(おんすい)ってのは、丁度いいんじゃない?」
「ヌックンか」
涼子は、変な愛称だと思った。
「そう!ウスゲのヌックン!」
知美も笑った。
結局、涼子は、「ウスゲのヌックン!」と会うことになった。
と言っても、お見合いではなく、
クリスマスパーティのとき、一緒に食事をすることになった。
そして、知美は、
その前に、涼子に
男の写真をメールで送ってくれるということになった。
涼子は、イケメンということで、
大いに期待した。
(ウスゲのヌックンか・・・フフフフ)
そして、
一週間後、メールが届いた。
涼子は、すぐに、写真の男の頭部を見た。
思わず、叫んだ。
「う、すげっ!」
ウスゲというより、「オボロ月夜」であった。
結局、二人は結婚した。
その後、一生、仲良く、暮らしたということである。