

春闘 集中回答日 満額回答相次ぐ 各社の賃上げ状況【詳しく】 NHK 2025年3月12日 19時30分
ことしの春闘は12日が集中回答日で、自動車や電機などの大手では満額を含む高い水準の回答が相次ぎ、中には組合側の要求額を上回るケースもありました。
今後は、その賃上げの流れが中小企業に波及して、格差是正につながるかが焦点となってきます。
自動車メーカー
▼トヨタは賃上げとボーナスの要求について総額を満額回答しました。満額回答は5年連続です。組合側は「職種別」や「資格別」に賃上げの要求額を示し、最も高いケースで月額2万4450円の賃上げになります。
また、▼ダイハツ工業は、ベースアップ相当分と定期昇給分を含めた総額で月額2万1200円の賃上げ要求に対し、満額回答しました。
▼マツダはベースアップと昇給や昇格を含めた総額で、組合側の要求通り月額1万8000円の満額で回答しました。満額での回答は4年連続でいまの人事制度になった2003年以降で最大の賃上げです。
さらに▼スズキは、組合がベースアップ相当分と定期昇給分も含めた総額で平均1万9000円の賃上げを要求したのに対して、要求を上回る2万1600円で回答しました。
このほか、▼ホンダは組合がベースアップと昇給や昇格を含めた総額で月額1万9500円の賃上げを 要求したのに対し、1万5000円で回答しました。物価上昇が本格化した過去2年間、高い水準でベースアップを行ってきたことから今回は満額回答ではありませんでした。
▼日産自動車は、組合がベースアップ相当分と定期昇給分も含めた総額で前の年と同額の月額1万8000円の賃上げを要求していましたが、会社は1万6500円の賃上げで回答しました。業績の悪化を背景に満額回答にはなりませんでしたが、賃上げ率は4.5%で前の年の5%に次ぐ高い水準となっています。
▼三菱自動車工業は、組合側がベースアップと昇給や昇格を含めた総額で、月額1万9000円の賃上げを要求したのに対し、足元の経営環境を踏まえ、1万7000円の賃上げで回答しました。賃上げ率は5%にあたります。
一方、▼SUBARUは、職務内容や職責に応じて月額3300円から3万9900円の賃上げで回答しました。
飲料・食品・外食業界
▼サントリーホールディングスは月額1万2000円のベースアップを含む平均でおよそ7%の賃上げをすることで労働組合と妥結したほか、▼サッポロビールも月額1万5000円のベースアップを含めた6.4%の賃上げで労働組合と合意したということです。
▼味の素は、3年連続で6%程度の賃上げをすることで妥結し、このうちベースアップとして月額1万6000円を引き上げるということです。
▼牛丼チェーンの「すき家」などを運営するゼンショーホールディングスが月額3万2000円余りのベースアップと、定期昇給をあわせた平均で11.2%の賃上げをすることで妥結したほか、▼ハンバーガーチェーンのモスフードサービスは、ベースアップを含めた平均5%の賃上げを行うと発表しました。
大手電機メーカー
▼NECはベースアップ相当分として組合側の要求どおり月額1万7000円の賃上げで満額回答しました。満額回答は4年連続で、要求がいまの方式になった1998年以降で最も高いとしています。ベースアップ相当分と定期昇給を含む賃上げ率は6.5%でした。
▼日立製作所は組合側の要求どおりベースアップ相当分として月額1万7000円の賃上げで満額回答しました。1998年以降で最も高い水準となり、満額回答は4年連続となりました。ベースアップ相当分と定期昇給を合わせた賃上げ率は平均で6.2%だということです。
▼富士通は、組合側の要求どおりベースアップ相当分として月額1万7000円の賃上げで満額回答しました。1998年以降で過去最高の水準で、満額回答は3年連続です。
▼三菱電機は、ベースアップ相当分として月額1万5000円の賃上げを回答しました。組合側が要求した1万7000円を下回りましたが、1998年以降で過去最高の水準だとしています。ベースアップと定期昇給の相当分を含めた賃上げ率は6.42%だとしています。
▼東芝はベースアップ相当分として月額1万4000円の賃上げを回答しました。組合側が要求した1万7000円を下回りましたが、1998年以降で過去最高の水準だとしています。ベースアップ相当分と定期昇給を合わせた賃上げ率は5.6%だとしています。
▼パナソニックホールディングスは、ベースアップ相当分として、月額1万3000円の賃上げで妥結しました。組合側の要求額、1万7000円は下回りましたが、1998年以降では、去年に続き、最も高い賃上げになるとしています。ベースアップと定期昇給の相当分を含めた平均の賃上げ率は、5.4%になるということです。
▼シャープは、経営側は妥結額を明らかにしませんでしたが、組合側によりますと、ベースアップ相当分として、月額1万2000円の賃上げで 妥結したということです。組合側が要求した1万7000円には届きませんでしたが、去年の妥結額の1万円を上回りました。
電機大手の労働組合は、ベースアップ相当分について月額1万7000円の賃上げを求めることで足並みをそろえましたが、経営側の回答は業績などに応じて違いが出た形となりました。
大手機械メーカーなど
▼三菱重工業▼川崎重工業▼IHIは、いずれもベースアップに相当する月額1万5000円の賃上げでそれぞれ満額回答しました。満額回答は3年連続です。賃上げ率は、▼IHIが定期昇給分を含めて6.7%▼川崎重工が5.8%となっています。
このほか、化学メーカー大手の▼三菱ケミカルは組合の要求を上回り、ベースアップに定期昇給分をあわせると月額平均で2万6005円の回答となりました。
鉄鋼大手
▼日本製鉄は組合がベースアップ相当分として月額1万5000円の賃上げを要求したのに対して、1万2000円で回答しました。定期昇給を含めた平均の賃上げ率はおよそ6%と高い水準となっています。ただ、去年のベースアップ相当分は、組合の要求を上回る過去最高の3万5000円で回答していて、この水準は下回った形です。
▼JFEスチールは組合側の要求どおり月額1万5000円のベースアップで満額回答しました。定期昇給を含めた平均の賃上げ率は、6.6%となります。
▼神戸製鋼所は組合側の要求どおり月額1万5000円のベースアップで満額回答しました。定期昇給を含めた平均の賃上げ率は6.9%となります。
金属労協 平均1万4566円 去年並の高水準
「金属労協」は経営側からの回答について、12日午後1時の時点で集計し、主要な大手企業の50組合での平均の賃上げ額はベースアップ相当分で月額1万4566円になったと発表しました。
2024年は54組合の平均賃上げ額が月額1万4638円で、2014年以降、最も高かったということで、金属労協はことしは去年とほぼ同じ高い水準だと評価しています。
記者会見で、金属労協の金子晃浩 議長は「交渉の中で、経営側は国際の情勢など先行きの不透明感をもとに、最終盤まで大変厳しい姿勢を崩すことはなかった。一方で、われわれが実感している生活負担や、産業や企業の魅力を高めていかなくてはいけないという考えについては理解を示した」と述べました。
そして「今後、交渉が続く組合についてはきょうまでのいい流れをしっかり受け止め自らの要求にこだわり、産業や企業の魅力向上につながる賃上げを強く求めていただきたい」と述べたうえで、金属労協として交渉を支援するため、賃上げの原資となる価格転嫁の実現など大幅な賃上げのための環境整備に向けて取り組んでいきたいと話していました。
また、会見に出席した労働団体の連合の仁平章 総合政策推進局長は「いいスタートが切れたのではないかと思っている。中小企業については『先行している組合の結果に追いつき、追い越せ』という意気込みで、納得できるまで徹底して交渉していくと思っているし、連合は産業別労働組合と力を合わせて良い流れを作れるよう全力で取り組んでいきたい」と話していました。
春闘って何?ことしのポイントは?【Q&A】
各企業の受け止めは
【ゼンショーHD】
都内の牛丼チェーンの店舗で正社員として働く4年目の作田千佳さんは「給料が上がることで自分に使えるお金が増えるので、仕事のモチベーションにつながると思っています。賃上げするのは社員に期待してもらっている面もあると思うので、お客様の満足度を上げられるように仕事を頑張っていきたい」と話していました。
ゼンショーホールディングス広報室の山本哲也 室長は「単年度の賃上げでは、将来に不安が残ってしまうので、継続的な賃上げを行うことで社員の不安を取り除きたい。人への投資を通じて国内外の優秀な人材を確保して、企業の成長を加速させたい」と話していました。
【トヨタ】
トヨタの東崇徳 総務・人事本部長は会見で「働いているメンバーの実質賃金をしっかり守って不安なく働いてほしいという思いを満額回答に込めた。物価上昇に直面している組合員を含めた働く人の不安を解消し、世の中のブレーキ役になってはいけないという思いだ」と述べました。
そのうえで「賃金は根雪のように将来にわたって影響を及ぼすので、これを稼ぎ出すにはひとりひとりが働き方と意識を変えないといけない。将来に向けた覚悟を問い、我々の働き方がその投資を回収できる見込みがあるかという話し合いをした」と述べました。
一方、トヨタ自動車労働組合の鬼頭圭介 執行委員長も12日午後に記者会見し「組合員の1年間の努力を会社に評価いただいたと思う。組合員も時代にあわせて変わらないといけない。変わっていくことへの期待と責任があるという意味での満額回答だと思う。安どというよりこれからしっかりやらないといけない」と述べました。
【マツダ】
マツダの竹内都美子執行役員は「自動車業界全体の先行きは不透明で、きわめて大きな逆風に直面している。会社の未来を切り開く原動力は 人であると強く考えており、一丸となって難局に取り組んでいく会社の姿勢として組合の要求に対して回答した」と話しています。
【日立】
日立製作所の人事担当の瀧本晋さんは「地政学リスクが高まり、物価の上昇が継続する中で、デフレからの完全脱却を目指す日本経済にとって賃上げのモメンタムを定着させるということでは、非常に重要な年だった」と述べました。
そのうえでベースアップ相当分で組合側からの要求に満額回答した理由について「組合員からの賃金への期待が強かったと感じた。中期経営計画もおおむね達成する見込みなので従業員へ還元するとともに不透明感が高まる環境の中、それをはねかえして会社として強くなるためには人に投資しようという考え方だ」と説明しました。
【住友電工】
「住友電気工業」の労使交渉は、組合側が、基本給を引き上げるベースアップに相当する分として月額で平均1万5000円の賃上げを求めていました。これに対して経営側は、組合の要求を受け入れると回答し、交渉は妥結しました。
住友電気工業の太田垣宏 人事部長は「物価高が続く中で従業員の足もとの生活や将来への不安を払拭して、やりがいを持って頑張ってもらったり、人材確保への競争力を向上させたりするために、賃金の引き上げを継続的にやっていきたい」と話していました。
一方、30代の社員の男性は「日頃の努力が報われて素直にうれしいです。生活にかかるコストが上昇し続ける中、安心して業務に取り組めます。賃金が上がった分は、新しく子どもが出来たので、子育てに使いたいです」と話していました。
経団連 十倉会長「賃上げ“定着”が“確信”に」
経団連の十倉会長はことしの春闘での各社の回答状況について、福岡市内で開いた会見で「満額回答のほか、去年の結果を上回る企業も多く、ベースアップを重視して企業も回答しているので上々のスタートだ。大手だけで言えば3年連続でいい数字になるだろう。『賃上げの定着を』と言ってきたが、定着しそうだなと確信に変わってきた」と評価しました。
一方で「問題はおよそ7割の従業員を雇用する中小企業で、この結果を見てみないと春闘の総括はできない。原資がないと中小企業は持続的な賃上げができないし、これまで人手不足のために無理して賃上げしてきたというデータもある」と述べました。
その上で、十倉会長は「一番大事なことは価格転嫁だ。価格転嫁は大企業対中小企業の上下の関係だけでなく、中小同士、中小対消費者もあるので、いいモノ、いいサービスには対価を払う。30年間、私たちはそのことを忘れているのでそうした世界を取り戻す」と述べて、価格転嫁の取り組みを加速させ、これから本格化する中小企業の労使交渉でも賃上げの勢いを波及させることが最大の課題だと強調しました。
電機連合 神保会長「高い水準の賃上げ 評価」
大手電機メーカーなどの労働組合でつくる「電機連合」は記者会見を開き、神保政史 会長が「去年の春闘を大幅に上回る水準の賃上げを要求し、交渉してきたが、『人への投資』の重要性や必要性は労使で認識を共有できたと思う。使用者側が慎重な姿勢を示す場もあったがそれぞれの企業の状況を踏まえて議論が重ねられ、高い水準の賃上げとなったことは高く評価できる」と述べました。
そして、神保会長は、12日の結果を最大限、中小企業に波及させるための交渉を続けていきたいとした上で、賃上げに伴い企業では人件費などの固定費が増えることを踏まえ「今後も持続的な賃上げを実現するためには企業でスキルアップや生産性向上を、特に中小企業では価格転嫁を進めていく必要がある」と話していました。
春闘 なぜ始まった?
春闘とは多くの企業にとって新年度が始まる4月に向けて、労働組合が経営側と交渉をすることで、1956年ごろに始まったとされています。
昭和37年(1962年)の春闘 東京 日比谷で撮影
賃金の引き上げや労働時間の短縮、育児や介護をしながらも働きやすい仕組みづくりなど、労働条件や職場の環境改善について労使で話し合って決定します。
大企業を中心に労働組合が要求書を提出するのが毎年2月ごろで、企業からの回答が3月ごろであるため春闘と呼ばれています。
春闘では連合のほか自動車や電機などの産業別労働組合が要求方針を掲げて経営側と交渉を進め、大企業を中心に回答を一斉に引き出す「集中回答日」を迎えます。
12日の「集中回答日」の結果を参考としながら、今後は中小企業でも交渉が進んでいきます。
春闘の結果は労働組合がない企業でも賃上げの参考にすることが多く、さらに、毎年夏に行われる、最低賃金の引き上げをめぐる議論にも影響を与えるため注目されます。
賃上げ率の推移は
厚生労働省は、主要な民間企業を対象に春闘の妥結状況について1965年から集計を行っています。
春闘は1956年ごろから始まり、高い経済成長を背景に1975年までの賃上げ率は10%を超えました。
(集計対象:資本金10億円以上かつ従業員1000人以上の労働組合がある企業)
経済成長が鈍るなか賃上げ率も低下傾向となり、バブルの崩壊や経済の停滞、デフレの長期化でさらに低下し、2002年以降の賃上げ率は12年連続で1%台で推移しました。
その後、政府が経済界に対して賃上げを求めるいわゆる「官製春闘」などを背景に2020年まで7年連続で賃上げ率は2%台となりました。
その翌年の2021年は、新型コロナウイルスの影響などで1.86%でしたが、2023年はコロナ禍からの経済回復などで3.60%、2024年は物価高の影響もあり、33年ぶりに5%を超えました。
2025年の「春闘」焦点は?
ことしの春闘の焦点は、2023年と2024年の賃上げの勢いを定着させられるかや、大手と中小企業の格差を是正できるかどうかです。
【焦点1】賃上げの勢い定着
この2年の春闘での賃上げ率は、2024年が5%台,2023年は3%台とおよそ30年ぶりの高い水準となりました。ただ、物価の高騰でその変動分を反映した実質賃金は2024年まで3年連続でマイナスです。これを継続的なプラスとする賃金と物価の上昇の好循環につながる賃上げが求められています。
そこで、ことしの春闘で労働団体の連合は、去年に続き定期昇給分を含めて5%以上の賃上げを目標に掲げています。連合に加盟する2900あまりの労働組合の平均の賃上げ要求は、3月3日時点で6.09%と32年ぶりに6%を超え、大企業の間では「集中回答日」を待たずに高い水準で交渉が決着する動きが出ていました。
【焦点2】格差是正
連合の集計では去年の春闘の賃上げ率は全体では5.1%でしたが、中小企業に限ると4.45%と、0.65ポイントの開きがありました。この開きは連合が集計を開始した1989年以降で最も大きくなっています。
連合は格差の是正に向けてことしの春闘での目標を全体では5%以上としたうえで、中小企業については6%以上、月額1万8000円以上の要求を掲げています。連合が中小企業に向けてさらに高い要求を掲げるのは2014年以来、11年ぶりです。
連合が3月3日時点でまとめたところ、加盟する組合員300人未満の中小の1800余りの組合について、平均の要求額は月額1万7667円、率にして6.57%でした。中小企業で労働組合がどのような回答を引き出すことができるか、注目されます。
専門家「中小企業は二極化広がる」
春闘に詳しい日本総研の山田久 客員研究員は大手企業での妥結の状況について「ある程度、賃上げの流れが定着してきている。特にことしは、積極的に賃上げの姿勢を示して若い人材に来てもらおうというスタンスがかなり強まっている」と述べました。
その一方で、中小企業については「業績が悪くても賃上げしないと人が集まらないので、ちょっと無理をしても上げているところも多い。いろいろなコストが上がり、賃上げどころではないという企業もあり、二極化が広がっている」と指摘しています。
その上で「中小企業どうしや中堅と中小の間の価格転嫁がなかなか進んでおらず、春闘の場で価格転嫁の流れを社会全体で広げていくことが重要だ」と述べ、価格転嫁を通じて中小企業にも賃上げの余力を作っていくことが必要だとしています。
林官房長官「大幅賃上げできるよう労使と協力」
林官房長官は12日午後の記者会見で「政府として多くの中小や小規模の企業の賃上げにつながるよう適切な価格転嫁や生産性の向上、経営基盤を強化する事業承継やM&Aを後押しする。大幅な賃上げが実現できるよう引き続き労使とも協力していきたい」と述べました。