
【詳しく】トランプ氏とゼレンスキー氏 激しい口論 合意至らず NHK 2025年3月1日 19時18分
アメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談で激しい口論となり、予定していた鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名が見送られる異例の展開となりました。ウクライナでの停戦に向けた交渉への影響は避けられないものと見られます。
アメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談は28日、日本時間の1日未明にホワイトハウスで行われました。
会談の冒頭は報道陣に公開され、ロシアへの外交姿勢や停戦に向けた立場をめぐり、同席していたバンス副大統領も加わる形で激しい口論に発展しました。
この中で、トランプ大統領が「あなたは何百万人もの命を使って賭けをしている。第3次世界大戦をめぐって賭けをしている」などとゼレンスキー大統領を非難しました。
一方で、ゼレンスキー大統領は「われわれは単に停戦だけを受け入れることは決してない。安全の保証がなければ機能しない」と強調しました。
そして予定していた鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名が見送られ、共同記者会見も中止となりました。
トランプ大統領は数日前までは、鉱物資源の権益をめぐる協議でウクライナと合意にいたらないことに不満を示し、ゼレンスキー大統領のことを「独裁者」と呼んで非難していました。
今回の首脳会談を通じて双方はぎくしゃくした関係の改善につなげたい考えでしたが、かえって対立が深まる異例の事態となり、ウクライナでの停戦に向けた交渉への影響は避けられないものと見られます。
トランプ大統領 “和平を望む人物ではなかった”
トランプ大統領は、会談のあとSNSで「彼はアメリカの重要な大統領執務室でアメリカへの敬意を欠いた。平和への準備ができたら戻って来ることができる」と批判しました。
また、ホワイトハウスで記者団に対し「会談はすばらしいものではなかった」と述べました。
そして「ゼレンスキー大統領はいますぐに戻ってきたいだろうが、私はそうはできない」と述べました。
ゼレンスキー大統領については「彼は戦い続けることを望んでいる。戦い、戦いだ。私やあなたが見たのは、和平を望む人物ではなかった」と述べました。
さらに「彼はプーチン大統領についてあれこれネガティブなことを言う必要はない。彼が言うべきことは『平和を望む。これ以上戦争をしたくない』ということだ」と述べました。
記者団から、プーチン大統領とゼレンスキー大統領のどちらをより信頼するかと聞かれたのに対し「私は誰に対する信頼も不信もない。ただ、取り引きを成立させたいだけだ」と述べました。
ゼレンスキー大統領「強い立場に立たなければならない」
ゼレンスキー大統領も会談のあとSNSに投稿し「アメリカ、ありがとう。アメリカの支援と今回の訪問に感謝する。トランプ大統領にも、議会にも、アメリカ国民にも感謝する。ウクライナには公正で永続的な平和が必要で、われわれはまさにそのために取り組んでいる」としています。
また、ゼレンスキー大統領は2月28日、FOXニュースのインタビューに対し「今回の交渉では、ウクライナとロシアは戦争の当事者であり、アメリカとヨーロッパもそうあるべきだ。われわれは平和への準備はできているが、強い立場に立たなければならない」と訴えました。
ゼレンスキー大統領は、キャスターからトランプ大統領に謝罪すべきかと問われたことに対して、謝罪はしないとした上で「私たちはオープンで正直でなければならない。私たちが何か悪いことをしたとは思えない」と述べました。
鉱物資源の権益をめぐる合意文書の署名については「この取り引きをアメリカはとても望んでいた。私たちは反対していたわけではないが、安全の保証の中のどの部分が今回の取り引きにあたるのか、次のステップが何になるのかなどを理解したかった」と述べ、食い違いがあったことを認めました。
そして「両国は署名しなければならない。いつアメリカが署名するかわからないが、彼ら次第だ」と述べ、あくまでアメリカ側の判断になるという考えを示しました。
また、トランプ大統領が会談後、記者団に「彼は平和を求めている人間ではなかった」と発言したことなどを念頭に、キャスターが「戦い続けたいか?平和を求めているか?」と問うと、ゼレンスキー大統領は「私たちは平和を望んでいる。だからトランプ大統領を訪ねたのだ。安全を保証する最初の一歩となる、鉱物資源に関する合意というのは、平和か、平和に近い状態を意味する」と述べました。
さらに「トランプ大統領との関係は修復可能だと思うか」と問われると、ゼレンスキー大統領は「もちろんだ。歴史的な関係や国民どうしの強い関係があるからだ。私たちは非常に緊密な関係を築くことを望み、そうするだろう」と述べ、関係の修復に取り組む考えを示しました。
トランプ大統領の同行記者団によりますと、このインタビューをトランプ大統領も視聴したということです。
会談が物別れに終わったことについて、ロシア外務省のザハロワ報道官は28日、テレビ番組で、ゼレンスキー大統領について「何が起きているのかの見極めができない人物で、誰に対しても無礼で、暴言を吐き、餌をくれた手にかみつく」と述べて、批判しました。
さらにロシア安全保障会議のメドベージェフ副議長もSNSに「これは有益だが、まだ足りない」と投稿し、ウクライナへの軍事支援の停止につなげるべきだと主張しました。
一方、ゼレンスキー大統領は、アメリカをたち、イギリスに向かったと伝えられていて、2日にロンドンで開かれるウクライナの防衛をめぐるヨーロッパ各国の首脳らの会合に参加するとみられ、今後のヨーロッパの対応も焦点となります。
専門家「トランプ政権の外交を否定したと捉えられた」
ロシアの外交・安全保障政策に詳しい笹川平和財団の畔蒜泰助上席研究員は「ウクライナ側とアメリカ側との間で合意文書の取り扱い、その目的に対する大きなギャップがあった」と指摘しました。
そのうえで、「バンス副大統領がバイデン前政権の外交を批判し、トランプ大統領なら外交で平和を早期に実現できると言ったことにゼレンスキー大統領が『外交とは何ですか』とロシアとはまともな外交はできないと否定してしまった。トランプ政権のウクライナ外交を否定したと捉えられてしまった」と述べました。
また、合意文章の署名が見送られた影響については「合意されればウクライナとトランプ政権の関係も改善に向かうと期待感があったが、決裂に至ってしまい両国の関係はさらに悪化する可能性が高い。アメリカではウクライナに対する支援を大幅に削減あるいは停止して行くべきではないかという議論が始まる可能性がある」と述べ、両国の関係が非常に厳しい状況にあると指摘しました。
そのうえで、停戦に向けた行方については「ロシアはそれほど停戦を急いでおらず、アメリカとの関係回復を進めつつ戦争を継続する選択肢が生まれてくる。アメリカはウクライナやヨーロッパを停戦に向けた交渉の流れに巻き込めていないので、トランプ政権が目指す早期の停戦は、会談の失敗を受けて遠のいた」と述べ、停戦に向けた動きにも大きな影響を与えるとの見方を示しました。
トランプ大統領は2月28日、日本時間の3月1日午前1時20分ごろ、ホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領を出迎えました。
両首脳は握手を交わしたあと、ホワイトハウスの建物の中に入りました。
トランプ大統領 冒頭 “戦闘の停止を試み 実現させる”
トランプ大統領は会談の冒頭「ロシアとは非常によい議論ができた。プーチン大統領と話した。ゼレンスキー大統領もプーチン大統領も望んでいるように、(戦闘の)停止を試み、実現させるつもりだ。交渉の必要はあるが、その枠組みについてはすでに動き始めていて、何かが起きる可能性はあると思う」と述べ、仲介に前向きな考えを示しました。
ゼレンスキー大統領 冒頭「本当に頼りにしている」
ゼレンスキー大統領は、会談の冒頭で「今回の文書が安全保障が守られる最初の一歩となることを願っている。そして、アメリカが支援を停止しないことも期待している。ウクライナにとっては支援が継続されることがとても大切だ。トランプ大統領がプーチン大統領を止めるために強い立場をとっていることを本当に頼りにしている。あなたは『戦争はもうたくさんだ』と言った。私はこれがとても大切だと思っている」と述べました。
ゼレンスキー大統領 “米大統領は誰もプーチン大統領を止めず”
会談の中でゼレンスキー大統領は「2014年にプーチン大統領がウクライナ東部の一部とクリミアを占領した。その間、オバマ、トランプ、バイデン、そして今は再びトランプ大統領と、アメリカの大統領は何度もかわったが、誰も彼を止めなかった」と述べました。
途中から激しい口論に
会談は冒頭からおよそ50分間、記者に公開される形で続き、途中から激しい口論となりました。
注目
口論に発展したやりとりは
会談が始まっておよそ40分ほど経過したあと、トランプ大統領は記者から「プーチン大統領に近すぎるのではないかという懸念も出ているが」と質問されました。
トランプ大統領は「双方に歩み寄らなければ合意は得られない」などと答え、同席していたバンス副大統領が「平和と繁栄への道は外交に取り組むことかもしれない」と述べました。
これにゼレンスキー大統領は「私たちはこれまでプーチン大統領と多くの対話をし、署名をしてきた。停戦の協定にも署名した。全員が私に『プーチン大統領は決してもう戦争をしない』と言った。しかし彼は停戦を破り、私たちの国民を殺し、捕虜の交換にも応じなかった」と説明しました。
その上で「どんな外交だ?バンス副大統領、あなたは何のことを言っているのだ」と述べました。
バンス副大統領は反発し「あなたの国の破壊を終わらせるための外交のことを言っている。大統領、アメリカメディアの前で論争するために執務室に来ることは敬意を欠いている」とゼレンスキー大統領を批判しました。
その後、トランプ大統領も「あなたは何百万人もの命を使って賭けをしている。第3次世界大戦をめぐって賭けをしている。あなたがしていることは、この国に対し非常に敬意を欠くことだ」と強い口調で述べて、ゼレンスキー大統領を批判しました。
トランプ大統領「アメリカなしではタフでいられない」
そして、トランプ大統領は「問題は、あなたがタフな男になれるよう私が力を与えたということだ。アメリカなしではタフではいられないだろう。あなたは取り引きをするか、アメリカが身を引くかのどちらかだ。われわれがいなくなれば、あなたたちは戦い抜くことになる」と述べました。
トランプ大統領「あなたたちにはカードがない」
さらにトランプ大統領は「あなたたちにはカードがない。われわれが合意に署名すれば、あなたたちははるかに有利な立場になる。しかし、あなたは全く感謝の気持ちを示していない。それはよいことではない」と述べた上で、記者団に執務室を出るよう告げ、会談の公開部分を終えました。
共同会見中止 ゼレンスキー大統領 ホワイトハウスをあとに
トランプ大統領と会談したゼレンスキー大統領は、日本時間の午前3時40分過ぎ、車に乗り込みホワイトハウスをあとにしました。記者団からの質問には答えませんでした。
当初の予定ではトランプ大統領と昼食をとったあと、共同記者会見を行うことになっていました。
ゼレンスキー大統領はホワイトハウスでの会談後、28日午後に首都ワシントンのシンクタンク「ハドソン研究所」で演説を予定していましたが、ハドソン研究所によりますと演説は中止になったということです。
「安全の保証」めぐっても 立場の隔たり 浮き彫りに
トランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談では、ウクライナが求める「安全の保証」をめぐっても立場の隔たりが浮き彫りになりました。
会談の冒頭でトランプ大統領は「われわれは石油やガスは豊富にあるが、レアアースは持っていない。合意が成立すれば、再び戦争に戻ることはないと思う」と述べ、鉱物資源の権益をめぐる合意によってアメリカの経済的関与が深まれば、ロシアの行動を思いとどまらせ、ウクライナの安全の保証につながるという考えを示しました。
またウクライナへの兵器の供与について、今後も供与は続けるとしながらも「大量の兵器を送るつもりはない」と述べ、消極的な姿勢を示しました。
さらにトランプ大統領は「ヨーロッパ各国はもっと関与を強めなければならない。彼らはわれわれよりもはるかに少ない関与しかしていないからだ」と述べ、ヨーロッパ各国がウクライナへの安全の保証の責任を負うべきだという考えを強調しました。
これに対し、ゼレンスキー大統領は「われわれはただ単に停戦だけを受け入れることは決してない。安全の保証がなければ機能しない。この合意文書だけでは十分ではない」と述べ、ウクライナへの安全の保証をめぐって合意文書の内容に不満を示し、双方の立場の隔たりが浮き彫りになりました。
ホワイトハウスが声明 会談での発言の主張を正当化
アメリカのホワイトハウスは会談後に声明を発表し「トランプ大統領とバンス副大統領は、アメリカ国民と世界のなかでアメリカの立場を尊重する人々の利益のために常に立ち上がる。アメリカ国民が利用されることは決して許さない」としています。
ただ、ウクライナ国内の鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名を見送ったことや、当初予定されていた共同記者会見を中止したことには触れていません。
代わりに、トランプ大統領とバンス副大統領の会談での発言について、データなどを挙げて補足しています。
このうち「第3次世界大戦をめぐって賭けをしている」という発言について「ゼレンスキー大統領自身も、ウクライナの状況が第3次世界大戦につながりかねないこと、アメリカの支援がなければウクライナが敗北することを認めている」としています。
また「あなたたちにカードはない」との発言については、去年11月の世論調査でウクライナ人の52%が戦争の早期の終結を望み、平和の引き換えに領土の一部を割譲することも考慮すべきと答えたことや、提供された兵器を扱う人材の不足や脱走兵の増加などを挙げて、主張を正当化しています。
ルビオ国務長官「合意大失敗 謝罪すべき」
会談に同席したアメリカのルビオ国務長官は28日、CNNテレビに出演しました。
この中でルビオ長官は、鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名は5日前に実現可能だったものの、ウクライナ側が首都ワシントンに来ることにこだわったと主張しました。
そして、ゼレンスキー大統領について「合意が大失敗に終わってしまったことを謝罪するべきだ。彼があの場で敵対的になる必要はなかった」と述べ、厳しく非難しました。
そのうえで「人々はゼレンスキー氏が和平に向けた合意を望んでいないのかもしれないと感じ始めている」と述べ、ゼレンスキー大統領の停戦の実現に向けた姿勢を疑問視しました。
アメリカ 与党・共和党からはトランプ大統領支持の声
このうちウクライナ支援に消極的な意見が根強い共和党内で、ウクライナを支持し、支援の必要性を訴えてきたグラム上院議員は、記者団に対し「完全な大惨事だ。大統領執務室で目にしたのは敬意に欠ける態度だった。われわれがゼレンスキー大統領と再び仕事ができるかはわからない」と述べてゼレンスキー大統領を批判しました。
そして「ゼレンスキー大統領は辞任して、われわれと一緒に仕事ができる人物を送るか、自分自身を変える必要がある」と述べました。
また、これまでウクライナ支援に反対してきた共和党議員からは「もう1セントたりとも支払う必要はない」とか「独裁者のゼレンスキー」などと一斉に強い反発の声が上がっています。
アメリカ 野党・民主党からはトランプ大統領批判も
一方、野党・民主党からは、トランプ大統領はロシアではなくウクライナ寄りの立場をとるよう求める声が上がっています。
民主党の議会上院トップのシューマー院内総務は、SNSに「トランプとバンスはプーチンのきたない仕事をやっている。上院の民主党は自由と民主主義のために戦い続ける」と投稿し、トランプ大統領がロシアのプーチン大統領寄りの対応をとっていると批判しました。
また、民主党の下院トップのジェフリーズ院内総務も、声明で「ホワイトハウスでの会談はひどいもので、残忍な独裁者であるプーチンをさらにつけあがらせるだけだ。勝利が得られるまで、ウクライナとともに立ち向かうべきだ」と強調しました。
ウクライナ側「わが国の利益守る大統領を支持する」
会談に同席したウクライナのイエルマク大統領府長官は、SNSに「大統領は、わが国のため、そして公正で永続的な平和を求めるすべての人々のために戦っている。私は、わが国の利益を守る大統領を支持する。どのような状況にあっても」と投稿しました。
その上で「私たちとともにいてくれる人々に、ウクライナが単なる地図上の点ではないと理解してくれる人々に、感謝する。アメリカ国民の支援に深く感謝する」と述べました。
また、ウクライナのシビハ外相はSNSで「ゼレンスキー大統領は正しいことのために立ち上がる勇気と強さを持っている。彼はウクライナの公正で永続的な平和という目標のために立ち上がっているのだ」と投稿し、ゼレンスキー大統領を支持する姿勢を示しました。
その上で「私たちはこれまでも、そしてこれからも、アメリカの支援に感謝し続ける」としています。
ウクライナ市民の受け止めは
ゼレンスキー大統領とトランプ大統領との会談について、ウクライナ西部のリビウで市民に話を聞きました。
26歳の男性
「ニュースを聞いて悲しかった。トランプ大統領は私たちのパートナーというよりロシアのパートナーのようにみえる」
兵士として戦闘に加わっていたという男性
「大統領がアメリカに行く前から期待はしていなかった。ゼレンスキー大統領はやるべきことをやったと思う」
31歳の男性
「トランプ氏が言おうとしているのは、ヨーロッパが自分たちで解決しろということだ。ヨーロッパの国々が経済的にも軍事的にもウクライナへの支援にもっと積極的になってくれると信じている」
アメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談で激しい口論となり、予定していた鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名が見送られる異例の展開となりました。ウクライナでの停戦に向けた交渉への影響は避けられないものと見られます。
アメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領の会談は28日、日本時間の1日未明にホワイトハウスで行われました。
会談の冒頭は報道陣に公開され、ロシアへの外交姿勢や停戦に向けた立場をめぐり、同席していたバンス副大統領も加わる形で激しい口論に発展しました。
この中で、トランプ大統領が「あなたは何百万人もの命を使って賭けをしている。第3次世界大戦をめぐって賭けをしている」などとゼレンスキー大統領を非難しました。
一方で、ゼレンスキー大統領は「われわれは単に停戦だけを受け入れることは決してない。安全の保証がなければ機能しない」と強調しました。
そして予定していた鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名が見送られ、共同記者会見も中止となりました。
トランプ大統領は数日前までは、鉱物資源の権益をめぐる協議でウクライナと合意にいたらないことに不満を示し、ゼレンスキー大統領のことを「独裁者」と呼んで非難していました。
今回の首脳会談を通じて双方はぎくしゃくした関係の改善につなげたい考えでしたが、かえって対立が深まる異例の事態となり、ウクライナでの停戦に向けた交渉への影響は避けられないものと見られます。
トランプ大統領 “和平を望む人物ではなかった”
トランプ大統領は、会談のあとSNSで「彼はアメリカの重要な大統領執務室でアメリカへの敬意を欠いた。平和への準備ができたら戻って来ることができる」と批判しました。
また、ホワイトハウスで記者団に対し「会談はすばらしいものではなかった」と述べました。
そして「ゼレンスキー大統領はいますぐに戻ってきたいだろうが、私はそうはできない」と述べました。
ゼレンスキー大統領については「彼は戦い続けることを望んでいる。戦い、戦いだ。私やあなたが見たのは、和平を望む人物ではなかった」と述べました。
さらに「彼はプーチン大統領についてあれこれネガティブなことを言う必要はない。彼が言うべきことは『平和を望む。これ以上戦争をしたくない』ということだ」と述べました。
記者団から、プーチン大統領とゼレンスキー大統領のどちらをより信頼するかと聞かれたのに対し「私は誰に対する信頼も不信もない。ただ、取り引きを成立させたいだけだ」と述べました。
ゼレンスキー大統領「強い立場に立たなければならない」
ゼレンスキー大統領も会談のあとSNSに投稿し「アメリカ、ありがとう。アメリカの支援と今回の訪問に感謝する。トランプ大統領にも、議会にも、アメリカ国民にも感謝する。ウクライナには公正で永続的な平和が必要で、われわれはまさにそのために取り組んでいる」としています。
また、ゼレンスキー大統領は2月28日、FOXニュースのインタビューに対し「今回の交渉では、ウクライナとロシアは戦争の当事者であり、アメリカとヨーロッパもそうあるべきだ。われわれは平和への準備はできているが、強い立場に立たなければならない」と訴えました。
ゼレンスキー大統領は、キャスターからトランプ大統領に謝罪すべきかと問われたことに対して、謝罪はしないとした上で「私たちはオープンで正直でなければならない。私たちが何か悪いことをしたとは思えない」と述べました。
鉱物資源の権益をめぐる合意文書の署名については「この取り引きをアメリカはとても望んでいた。私たちは反対していたわけではないが、安全の保証の中のどの部分が今回の取り引きにあたるのか、次のステップが何になるのかなどを理解したかった」と述べ、食い違いがあったことを認めました。
そして「両国は署名しなければならない。いつアメリカが署名するかわからないが、彼ら次第だ」と述べ、あくまでアメリカ側の判断になるという考えを示しました。
また、トランプ大統領が会談後、記者団に「彼は平和を求めている人間ではなかった」と発言したことなどを念頭に、キャスターが「戦い続けたいか?平和を求めているか?」と問うと、ゼレンスキー大統領は「私たちは平和を望んでいる。だからトランプ大統領を訪ねたのだ。安全を保証する最初の一歩となる、鉱物資源に関する合意というのは、平和か、平和に近い状態を意味する」と述べました。
さらに「トランプ大統領との関係は修復可能だと思うか」と問われると、ゼレンスキー大統領は「もちろんだ。歴史的な関係や国民どうしの強い関係があるからだ。私たちは非常に緊密な関係を築くことを望み、そうするだろう」と述べ、関係の修復に取り組む考えを示しました。
トランプ大統領の同行記者団によりますと、このインタビューをトランプ大統領も視聴したということです。
会談が物別れに終わったことについて、ロシア外務省のザハロワ報道官は28日、テレビ番組で、ゼレンスキー大統領について「何が起きているのかの見極めができない人物で、誰に対しても無礼で、暴言を吐き、餌をくれた手にかみつく」と述べて、批判しました。
さらにロシア安全保障会議のメドベージェフ副議長もSNSに「これは有益だが、まだ足りない」と投稿し、ウクライナへの軍事支援の停止につなげるべきだと主張しました。
一方、ゼレンスキー大統領は、アメリカをたち、イギリスに向かったと伝えられていて、2日にロンドンで開かれるウクライナの防衛をめぐるヨーロッパ各国の首脳らの会合に参加するとみられ、今後のヨーロッパの対応も焦点となります。
専門家「トランプ政権の外交を否定したと捉えられた」
ロシアの外交・安全保障政策に詳しい笹川平和財団の畔蒜泰助上席研究員は「ウクライナ側とアメリカ側との間で合意文書の取り扱い、その目的に対する大きなギャップがあった」と指摘しました。
そのうえで、「バンス副大統領がバイデン前政権の外交を批判し、トランプ大統領なら外交で平和を早期に実現できると言ったことにゼレンスキー大統領が『外交とは何ですか』とロシアとはまともな外交はできないと否定してしまった。トランプ政権のウクライナ外交を否定したと捉えられてしまった」と述べました。
また、合意文章の署名が見送られた影響については「合意されればウクライナとトランプ政権の関係も改善に向かうと期待感があったが、決裂に至ってしまい両国の関係はさらに悪化する可能性が高い。アメリカではウクライナに対する支援を大幅に削減あるいは停止して行くべきではないかという議論が始まる可能性がある」と述べ、両国の関係が非常に厳しい状況にあると指摘しました。
そのうえで、停戦に向けた行方については「ロシアはそれほど停戦を急いでおらず、アメリカとの関係回復を進めつつ戦争を継続する選択肢が生まれてくる。アメリカはウクライナやヨーロッパを停戦に向けた交渉の流れに巻き込めていないので、トランプ政権が目指す早期の停戦は、会談の失敗を受けて遠のいた」と述べ、停戦に向けた動きにも大きな影響を与えるとの見方を示しました。
トランプ大統領は2月28日、日本時間の3月1日午前1時20分ごろ、ホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領を出迎えました。
両首脳は握手を交わしたあと、ホワイトハウスの建物の中に入りました。
トランプ大統領 冒頭 “戦闘の停止を試み 実現させる”
トランプ大統領は会談の冒頭「ロシアとは非常によい議論ができた。プーチン大統領と話した。ゼレンスキー大統領もプーチン大統領も望んでいるように、(戦闘の)停止を試み、実現させるつもりだ。交渉の必要はあるが、その枠組みについてはすでに動き始めていて、何かが起きる可能性はあると思う」と述べ、仲介に前向きな考えを示しました。
ゼレンスキー大統領 冒頭「本当に頼りにしている」
ゼレンスキー大統領は、会談の冒頭で「今回の文書が安全保障が守られる最初の一歩となることを願っている。そして、アメリカが支援を停止しないことも期待している。ウクライナにとっては支援が継続されることがとても大切だ。トランプ大統領がプーチン大統領を止めるために強い立場をとっていることを本当に頼りにしている。あなたは『戦争はもうたくさんだ』と言った。私はこれがとても大切だと思っている」と述べました。
ゼレンスキー大統領 “米大統領は誰もプーチン大統領を止めず”
会談の中でゼレンスキー大統領は「2014年にプーチン大統領がウクライナ東部の一部とクリミアを占領した。その間、オバマ、トランプ、バイデン、そして今は再びトランプ大統領と、アメリカの大統領は何度もかわったが、誰も彼を止めなかった」と述べました。
途中から激しい口論に
会談は冒頭からおよそ50分間、記者に公開される形で続き、途中から激しい口論となりました。
注目
口論に発展したやりとりは
会談が始まっておよそ40分ほど経過したあと、トランプ大統領は記者から「プーチン大統領に近すぎるのではないかという懸念も出ているが」と質問されました。
トランプ大統領は「双方に歩み寄らなければ合意は得られない」などと答え、同席していたバンス副大統領が「平和と繁栄への道は外交に取り組むことかもしれない」と述べました。
これにゼレンスキー大統領は「私たちはこれまでプーチン大統領と多くの対話をし、署名をしてきた。停戦の協定にも署名した。全員が私に『プーチン大統領は決してもう戦争をしない』と言った。しかし彼は停戦を破り、私たちの国民を殺し、捕虜の交換にも応じなかった」と説明しました。
その上で「どんな外交だ?バンス副大統領、あなたは何のことを言っているのだ」と述べました。
バンス副大統領は反発し「あなたの国の破壊を終わらせるための外交のことを言っている。大統領、アメリカメディアの前で論争するために執務室に来ることは敬意を欠いている」とゼレンスキー大統領を批判しました。
その後、トランプ大統領も「あなたは何百万人もの命を使って賭けをしている。第3次世界大戦をめぐって賭けをしている。あなたがしていることは、この国に対し非常に敬意を欠くことだ」と強い口調で述べて、ゼレンスキー大統領を批判しました。
トランプ大統領「アメリカなしではタフでいられない」
そして、トランプ大統領は「問題は、あなたがタフな男になれるよう私が力を与えたということだ。アメリカなしではタフではいられないだろう。あなたは取り引きをするか、アメリカが身を引くかのどちらかだ。われわれがいなくなれば、あなたたちは戦い抜くことになる」と述べました。
トランプ大統領「あなたたちにはカードがない」
さらにトランプ大統領は「あなたたちにはカードがない。われわれが合意に署名すれば、あなたたちははるかに有利な立場になる。しかし、あなたは全く感謝の気持ちを示していない。それはよいことではない」と述べた上で、記者団に執務室を出るよう告げ、会談の公開部分を終えました。
共同会見中止 ゼレンスキー大統領 ホワイトハウスをあとに
トランプ大統領と会談したゼレンスキー大統領は、日本時間の午前3時40分過ぎ、車に乗り込みホワイトハウスをあとにしました。記者団からの質問には答えませんでした。
当初の予定ではトランプ大統領と昼食をとったあと、共同記者会見を行うことになっていました。
ゼレンスキー大統領はホワイトハウスでの会談後、28日午後に首都ワシントンのシンクタンク「ハドソン研究所」で演説を予定していましたが、ハドソン研究所によりますと演説は中止になったということです。
「安全の保証」めぐっても 立場の隔たり 浮き彫りに
トランプ大統領とゼレンスキー大統領の会談では、ウクライナが求める「安全の保証」をめぐっても立場の隔たりが浮き彫りになりました。
会談の冒頭でトランプ大統領は「われわれは石油やガスは豊富にあるが、レアアースは持っていない。合意が成立すれば、再び戦争に戻ることはないと思う」と述べ、鉱物資源の権益をめぐる合意によってアメリカの経済的関与が深まれば、ロシアの行動を思いとどまらせ、ウクライナの安全の保証につながるという考えを示しました。
またウクライナへの兵器の供与について、今後も供与は続けるとしながらも「大量の兵器を送るつもりはない」と述べ、消極的な姿勢を示しました。
さらにトランプ大統領は「ヨーロッパ各国はもっと関与を強めなければならない。彼らはわれわれよりもはるかに少ない関与しかしていないからだ」と述べ、ヨーロッパ各国がウクライナへの安全の保証の責任を負うべきだという考えを強調しました。
これに対し、ゼレンスキー大統領は「われわれはただ単に停戦だけを受け入れることは決してない。安全の保証がなければ機能しない。この合意文書だけでは十分ではない」と述べ、ウクライナへの安全の保証をめぐって合意文書の内容に不満を示し、双方の立場の隔たりが浮き彫りになりました。
ホワイトハウスが声明 会談での発言の主張を正当化
アメリカのホワイトハウスは会談後に声明を発表し「トランプ大統領とバンス副大統領は、アメリカ国民と世界のなかでアメリカの立場を尊重する人々の利益のために常に立ち上がる。アメリカ国民が利用されることは決して許さない」としています。
ただ、ウクライナ国内の鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名を見送ったことや、当初予定されていた共同記者会見を中止したことには触れていません。
代わりに、トランプ大統領とバンス副大統領の会談での発言について、データなどを挙げて補足しています。
このうち「第3次世界大戦をめぐって賭けをしている」という発言について「ゼレンスキー大統領自身も、ウクライナの状況が第3次世界大戦につながりかねないこと、アメリカの支援がなければウクライナが敗北することを認めている」としています。
また「あなたたちにカードはない」との発言については、去年11月の世論調査でウクライナ人の52%が戦争の早期の終結を望み、平和の引き換えに領土の一部を割譲することも考慮すべきと答えたことや、提供された兵器を扱う人材の不足や脱走兵の増加などを挙げて、主張を正当化しています。
ルビオ国務長官「合意大失敗 謝罪すべき」
会談に同席したアメリカのルビオ国務長官は28日、CNNテレビに出演しました。
この中でルビオ長官は、鉱物資源の権益をめぐる合意文書への署名は5日前に実現可能だったものの、ウクライナ側が首都ワシントンに来ることにこだわったと主張しました。
そして、ゼレンスキー大統領について「合意が大失敗に終わってしまったことを謝罪するべきだ。彼があの場で敵対的になる必要はなかった」と述べ、厳しく非難しました。
そのうえで「人々はゼレンスキー氏が和平に向けた合意を望んでいないのかもしれないと感じ始めている」と述べ、ゼレンスキー大統領の停戦の実現に向けた姿勢を疑問視しました。
アメリカ 与党・共和党からはトランプ大統領支持の声
このうちウクライナ支援に消極的な意見が根強い共和党内で、ウクライナを支持し、支援の必要性を訴えてきたグラム上院議員は、記者団に対し「完全な大惨事だ。大統領執務室で目にしたのは敬意に欠ける態度だった。われわれがゼレンスキー大統領と再び仕事ができるかはわからない」と述べてゼレンスキー大統領を批判しました。
そして「ゼレンスキー大統領は辞任して、われわれと一緒に仕事ができる人物を送るか、自分自身を変える必要がある」と述べました。
また、これまでウクライナ支援に反対してきた共和党議員からは「もう1セントたりとも支払う必要はない」とか「独裁者のゼレンスキー」などと一斉に強い反発の声が上がっています。
アメリカ 野党・民主党からはトランプ大統領批判も
一方、野党・民主党からは、トランプ大統領はロシアではなくウクライナ寄りの立場をとるよう求める声が上がっています。
民主党の議会上院トップのシューマー院内総務は、SNSに「トランプとバンスはプーチンのきたない仕事をやっている。上院の民主党は自由と民主主義のために戦い続ける」と投稿し、トランプ大統領がロシアのプーチン大統領寄りの対応をとっていると批判しました。
また、民主党の下院トップのジェフリーズ院内総務も、声明で「ホワイトハウスでの会談はひどいもので、残忍な独裁者であるプーチンをさらにつけあがらせるだけだ。勝利が得られるまで、ウクライナとともに立ち向かうべきだ」と強調しました。
ウクライナ側「わが国の利益守る大統領を支持する」
会談に同席したウクライナのイエルマク大統領府長官は、SNSに「大統領は、わが国のため、そして公正で永続的な平和を求めるすべての人々のために戦っている。私は、わが国の利益を守る大統領を支持する。どのような状況にあっても」と投稿しました。
その上で「私たちとともにいてくれる人々に、ウクライナが単なる地図上の点ではないと理解してくれる人々に、感謝する。アメリカ国民の支援に深く感謝する」と述べました。
また、ウクライナのシビハ外相はSNSで「ゼレンスキー大統領は正しいことのために立ち上がる勇気と強さを持っている。彼はウクライナの公正で永続的な平和という目標のために立ち上がっているのだ」と投稿し、ゼレンスキー大統領を支持する姿勢を示しました。
その上で「私たちはこれまでも、そしてこれからも、アメリカの支援に感謝し続ける」としています。
ウクライナ市民の受け止めは
ゼレンスキー大統領とトランプ大統領との会談について、ウクライナ西部のリビウで市民に話を聞きました。
26歳の男性
「ニュースを聞いて悲しかった。トランプ大統領は私たちのパートナーというよりロシアのパートナーのようにみえる」
兵士として戦闘に加わっていたという男性
「大統領がアメリカに行く前から期待はしていなかった。ゼレンスキー大統領はやるべきことをやったと思う」
31歳の男性
「トランプ氏が言おうとしているのは、ヨーロッパが自分たちで解決しろということだ。ヨーロッパの国々が経済的にも軍事的にもウクライナへの支援にもっと積極的になってくれると信じている」