企業と賃上げ 格差縮める任を果たせ(東京新聞・社説)
安倍政権も企業の潤沢な資金の存在に気づいたのだろう。賃上げした企業の法人税負担を和らげる税制の導入を決めた。企業が貯蓄に励み、設備投資も賃上げも躊躇(ちゅうちょ)していてはデフレ脱却は危うい。
人件費を増やした企業は、その最大一割を法人税から差し引く。与党の自民、公明両党がまとめた二〇一三年度税制改正大綱に、企業の税負担を緩和する新たな制度が盛り込まれた。企業の手元に積み上がっている巨額の内部留保を眠らせることなく、勤労者に移し替えて内需を盛り上げる。デフレ脱却に対する安倍政権の意図が込められている。
だが、経団連の春闘方針「経営労働政策委員会報告」は、賃上げを「実施の余地はない」と一蹴、年齢などに応じて給与を引き上げる定期昇給も延期や凍結があり得るとほのめかしている。法人税軽減というニンジンを見せられても、減税が時限措置ゆえに、やすやすとは応じられないと冷淡だ。
日本の経営者は一九九〇年代からの「失われた二十年」にうろたえ、すっかり内向きになってしまったようだ。分厚い手元資金に安心を求め、賃上げはおろか、設備投資さえためらっている。日銀統計によると、企業が抱える現預金は二百十五兆円にも膨らんだ。
経済界は「アジアの成長を取り込む」と勇んではいるが、海外子会社からの年三兆円に上る受取配当なども有効に活用しているか疑わしい。日本経済をむしばんでいる原因の一つは、十五~六十四歳の生産年齢人口減少に伴う内需縮小であり、企業はとりわけ消費性向が高い子育て世代にお金を回し、内需拡大に転じることが求められていると言うべきだ。
経団連の企業行動憲章は「従業員のゆとりと豊かさを実現する」とうたっている。円高などの六重苦を嘆いてばかりいないで、日本再生への自助努力を受け入れる度量をしっかりと示すべきだ。
オバマ米大統領は二期目の就任演説で、米国の成功は復興しつつある中間層に支えられるべきだ-と訴えた。「なぜ1%が金持ちで、99%が貧乏なのか」を合言葉とした金融の中枢、ウォール街占拠への回答でもある。
購買力のある中間層の復活は日本も重い課題だ。格差拡大の原因にもなった製造業への派遣就労拡大を法制化したのは、かつての自民党政権ではなかったか。税制で賃上げを促そうとする安倍政権には、中間層復活に向け、経済界に協力を強く求める責務がある。
そういや、当時の菅首相が法人実効税率を下げる代わりに雇用増大を求めたにもかかわらず、米倉経団連会長は木で鼻をくくったかのような顔をして「無視していた」な。
そもそも、大企業に対しては、バブル崩壊後より、株価安定工作ともいえる「PKO」などや、小渕内閣時代の「バラマキ政策」にはじまり、近時も、ありとあらゆる減税措置を講じており、政府が大企業に対してどれだけの税金をつきこんだかしれない。これに対して、大企業はそれにみあった「働き」をしてきたかというと、明らかに?だろう。
法人税を下げれば税収が増える、なんてバカなことをいったフリードマンかぶれの学者の話を鵜呑みにしたところ、それがうまくいったのはせいぜい郵政選挙後の小泉内閣時代ぐらいなもの。また、法人税を下げなければ海外へ逃げる、という話も「嘘」で、経産省がアンケートを取ったところ、企業が海外に出る主だった理由は、「そこに需要があるから」が最も多く、次いで「労働賃金の安さ」と続いた。対して、法人税引き下げはせいぜい4番目か5番目ぐらい。率にすると10%もなかったようだ。
それでも、経団連や同友会、日商の連中が「法人税を下げろ」としつこく言うのは、結局、それぐらいしか政府に対して、「話すネタがない」からだ。言い換えると、日本を代表するであろう企業の連中は、「スーパーでの買い物は1円でも安く」といった、専業主婦みたいなことしか言ってないわけだ。
だから、内部留保が積みあがっても、彼らはある意味「ヘソクリ」程度にしか思ってないのだろう。
ということは、政治家は明らかに財界に「舐められている」。
一方、米倉経団連会長は安倍首相のことを過小評価していたにもかかわらず、株価上昇、円安基調に推移すると、コロッと態度が180度転換した。ま、かつての経団連(日経連等を含めて)会長で、このような「軽薄な人物」をこれまで見たことがないな。
ところで、小沢元自治大臣は民主党幹事長時代、「第二経団連構想」を水面下で画策し、現在の経団連を「骨抜き」にしようとしていた話は有名だが、その構想が出たとたん、鳩山内閣は普天間移転問題等により崩壊を余儀なくされた。これで息を吹き返した財界3団体は、菅、野田の両首相に対しては徹底して「強気」に出て、効果があるようには思えない法人税減税や消費税増税法案を通させ、揚句にはTPP参加まで強要した。
だが、そうした「おねだり作戦」ばかり続けていると、企業そのものの足腰が弱ってくることを、財界の連中は考えていないのかねぇ。
前にも述べたけど、日本の輸出が弱いのは、世界共通対応というものを無視した商品を販売していることに起因することが多い。俗に、「
ガラパゴス」と呼ばれる商品の多くはそうした背景が原因だ。
加えて、家電では特にオーバースペック商品が目立ち、商品そのもののコストは高い上に、使い勝手が悪く、消費者から敬遠される傾向にある。技術があれば売れる、などという「妄信」が、大した技術力などないはずの韓国メーカーなどに「歯が立たない」原因にもなっている。
要するに、日本の大企業が、「法人税を下げないと国際競争力がつかない」というのは大部分が「嘘」である。
そうした背景を、政治家も「分かっている」はずだったら、財界トップと渡り合えるだけの理論武装を備えるべきではないか。さもないと今のままでは、いつまで経っても政治家は舐められたまま。国際会合の舞台で世界首脳と渡り合う、という以前に、国内の財界や官僚を「抑え込める」だけの論戦力を備えるほうが先ではないか。