毎週小説

一週間ペースで小説を進めて行きたいと思います

武蔵野物語 12

2007-11-05 21:14:33 | 武蔵野物語
近頃の季候は、10月まで夏日の気温が残ることも多く、その分紅葉の見頃が短くなっている。少しづつ変化していくからこそ四季の微妙な変化が潤いを与えている、とゆりこは思っているのだが、そういう意味では味気ない時代になってきたのだろうか。最も誠二とあの夜を過ごした時から、燃える秋になってきたとの実感がある。明け方家に戻り、すぐ出勤したが、父は見てみぬ振りをしているのか何も言わなかった。
二人の関係が深まるにつれ、お互いの自宅近くで会うのは慎重にならざるを得なくなっている。
そうした折、敦子が一旦退院する事になった。
彼女の父は亡くなっているが、母は中野に住んでおり、本人の希望で母と二人の生活になる。誠二に今の姿を見せたくないらしい。
誠二は電話をして、了解を得てから会いに行くのだが、30分も居ると話がなくなり、早々に退散するのである。病院見舞いに行くのと変らない。
帰りに立川でゆりこと会うのが日課になっていた。
「奥さんはあまり会いたがらないの?」
「そうみたいだ、僕だけでなく、他の人達にもね」
「でも誠二さんは、旦那さんでしょ」
「彼女はそういう気持ちも少ないんだよ」
「夫婦じゃないわね」
「同居生活だったんだ」
「父親は大分前に亡くなっているの?」
「確か結婚する数年前の筈だから、もう10年にはなってるね」
「若い頃に亡くなってるのね」
「そうだね」
「病気だったの?」
「いや、聞いてない、何も話はなかったな」
「喋りたくないのかしら」
「そう言えば、家族の話題は何となく避けているところはあったよ」
「父親と、親戚関係も知っておく必要があるかもね」
誠二は相手の家庭を殆ど知らなかったが、別に知りたいとも思わなかった。
それは、彼が中学校3年の時、両親を交通事故で失っている影響で、よその家庭を避けようとする意識があったのかも知れない。