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並木の丘 34

2007-08-16 21:14:21 | 並木の丘
女将の表情が生きいきとしてくる。
「この旅館は、私が嫁いだ頃の形をできるだけ変えずに残そうとしてきたのです」
「年月の重みを感じますね、学校の友達にもメールを送っておこう、写真も入れて」
弥生は携帯のカメラで何回もシャッターを押している。
夕食は女将を入れ久美子の部屋で摂る事にして、用意ができるまで二人で内湯に浸かった。
「美ヶ原高原美術館、どうだった」
「よかったわ、空気が涼しいの、北アルプスが見えて大パノラマよ」
「私も学生時代に一度行ったのよ、楽しかったわ」
「ボーイフレンドと一緒に」
「グループで行ったのよ、男子も半分いたけど」
上がってみると、特注らしい豪華な食事の用意が整っていた。
女将が少し遅れてきて、三人の楽しい宴会が始まった。
「ここは10室しかない小さな旅館だけど、久美子さんからみてどうですか、また来たくなりますか」
「ええ、私はとっても気に入っています、いまは少人数や女性の一人旅も盛んですから、合っているのではないかしら」
「弥生さんの感想は?」
「建物は古いけど、清潔感があって落ち着いたよい所だと思います」
「それは良かったわ、息子はね、商売の拡大ばかり考えて大きな旅館に建て替えなければもったいない、とかそんな話ばかりで私もうがっかりしているのよ」
「心のこもったおもてなし、という意味ではこの位の規模が丁度いいという事ですか」
「久美子さん、その通りよ、大きなホテルや旅館と違って、ここはゆっくり寛いで頂く為にずっと変えない良さを続けて今があるの」
「私、ここだったら長期滞在したいな」
「弥生さん、学校を卒業したらこちらにいらっしゃい、就職も結婚も全部面倒みてあげますよ」
「女将さん本当ですか、私本気にしちゃいますよ」
「あら本当よ、久美子さんだってここに引っ越してくるかもよ」
「叔母さん、本当?」

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