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もう一つの春 26

2007-01-05 04:38:18 | 残雪
「ねえ、叔父さんから結構お小遣い貰ってきたので、今夜は高層ホテルに泊まらない?一度眺めのいい部屋に泊まって、部屋に食事やお酒を運んで貰う、そういう経験してみたかったの」
「で、でもかなり高いんじゃない」
寺井は、春子のあまりの積極さに驚き、たじろいでいた。
「心配しなくていいの、今回は任せて、だっていつも修さんにご馳走になりっぱなしだもの、ほんのお返しよ」
急にくだけて打ち解けてきたので面食らってしまった。
一番最初に出来た高層ホテルの上階の予約が取れた。
「泊まってみたかったんだ、いいわあ、一番好きな誰かさんと景色のいい部屋で過ごす、最後の晩餐ね」
「最後の晩餐?」
「あはは、冗談よ、好きなもの何でも頼んでね、二人でパーティを開きましょう」
春子はいやにはしゃいでいる。
「食事代は僕が持つよ」
「どうでもいいのよ、そんな事」
冷蔵庫からビールを取り出しもう飲み始めている。寺井にはウーロン茶を持ってきて、
「修さんをいまから酔わしたら私つまらないから」
と平然と言うのである。
スペイン料理か地中海料理かそんな風な、オリーブオイルとニンニクを使ったムール貝の料理とイカ墨スパゲッティ、魚介類を混ぜた炊き込みご飯、それを食べる間にワインを飲み、寺井は顔が真っ赤になってきたが、春子はいつもと全く変らない。
「何だか体が元気になる料理だね」
「ええ、ニンニクやワインの効果かしら」
「体の芯から熱くなってくるので、これじゃ寝られそうもない」
「あら、寝る必要ないんじゃなくって?」
「まいったなあ、春子さん大人になったね」
「何か言った私、酔ってるからよく分からないの」
酔ってる様には見えないが、本当に大胆で奔放だ。
ワイン、ブランデーと飲んできて、寺井はもうできあがってしまった。
「修さん、すこし休んだら、私もう少し飲んでるから」
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