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東京の人 72

2014-12-03 09:05:42 | 残雪
「常連さんでね、新潟のひとなんだけど、いろいろ詳しいのよ」
かおりはこの頃夢を見るようになっていた。それも同じ夢で、自分の知らない人が会いに来る、向こうは知っていて親しげにしているが、全く覚えのないひとばかりが来る。これが何日か続くと、さすがに精神が病んでいるのではと不安になってきた。
健康診断も随分やってないから、いい機会だと近くの病院に予約を入れておいた。
土曜日の午前中に全部済ませ、これから何をしようか迷っていると、寺井からのメールが届いた。
一緒に行って貰いたい所があるから近くに居てくれといっている。
市川の茶店で待つことにした。今時珍しい落ち着いた西洋風の家の様な店だった。
「健康診断どうだった?」
「結果待ちだけど、内科は問題ないみたいよ」
「疲れが出ているんだよ、今度旅行にいこうか」
「旅行ってどこに行くの?」
「長野だけど」
「知り合いでもいるの?」
「以前親戚が新潟の妙高高原にいてね、善光寺にも連れてってくれたけど、また行ってみたくなったんだ」
かおりはあまり気乗りがしなかったが、故郷と違って気楽だからいいと思い直した。

善光寺は都心から行きやすいので訪れるひとも多いが、参道の店は蔵を改装した
レストランができていたり、様変わりも見せている。
かおりは故郷の温泉地にいたころは、ほとんど外出したことがなく、旅行に行った記憶はなかった。
寺井と2人で歩いてみると、中途半端な気持ちが増すばかりで憂鬱になってきた。
お参りを済ませ野菜専門のレストランで昼食を取ると、もう帰りたい気持ちが強くなり、寺井の話を聞き流していると、母の言葉が浮かんできた。
「お世話になっているひとを大事に、うまくつき合いなさい」
父の顔を知らないかおりは、いつも母が違う男に気を使って生きてきたのを、あたりまえにみて育った。
「これからどうするの」
「直江津までいってみないか?」

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