唐木田通り ２０

今後、沢村とはどうなって行くのだろう。
いくらお互い好意を持っていても、彼には子供もいる家庭があり、奥さんと良い関係ではないにしても、それは彼の両親との問題で、それを解決さえ出来れば、奥さんは彼の元へ戻りたいのではないだろうか。
自分の方はどうだろう。もし夫が井上玲子と完全に別れ、職場を変えてでもやり直したい、と決心したら、子供は父親とも一緒に暮らしたいに決まっているのだから、その為に元に戻れるのだろうか。いまはとても無理だ。
由起子は空想していた。大学を卒業して就職、新人らしく働き、何かのきっかけで若い男性と帰りに食事をしたり、映画を観にいったり、そういう普通の付き合いの中で確かめあえる、その時間を持てばよかったと。
考えれば考える程いたたまれなくなり、稲城駅まで歩き、結局唐木田駅まで来てしまった。
駅を降り、すぐ右にまっすぐ延びているのが唐木田通りで、３分も歩けば左側に忽然とオープンカフェが現れる。入り口近くに黒人の人形が椅子に座っていて目立つ。店に入りガラス張りのカウンターに腰掛け、左右に観葉植物や季節の花木が飾られた正面に通りが見える。由起子はこの位置が好きだった。仕事の構想を練る時はいつも此処だった。オレンジジュースを飲んで休憩していると曇ってきたので、また八王子市方向に歩き出していた。
別所公園につき当たり、右に折れていく道が一番気にいっている通りだが、沢村と歩いた時は楽しかった。本当の恋人との時間とはああいう瞬間かもしれない。
良一さん、これからどうなっていくの？
並木の丘を道なりに下り、辿っていきながら、心の中で遠くの山にまで届く様な、大きな叫び声を上げていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ー第二部ー