■イントロ


 

全編動画 <特別公開中!> ⇒http://iwj.co.jp/wj/open/archives/279662

  • タイトル 岩上安身による永井幸寿弁護士インタビュー
  • 日時 2015年12月19日(土)15:00〜
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

 

以下、インタビューの連投ツイートを掲載いたします。

岩上安身(以下、岩上)「国家緊急権について、日弁連災害復興支援委員会の前委員長、永井幸寿(こうじゅ)先生にお聞きします。永井先生は阪神淡路大震災で神戸の事務所が全壊。それをきっかけに災害問題に取り組んで20年です」

永井幸寿氏(以下、永井氏)「東日本大震災では、日弁連の災害対策本部の副本部長として12〜13本の被災者支援法を作り、4万件の法律相談、原発賠償や二重ローンの解決にADR(裁判外紛争解決手続)を手がけました」

岩上「東日本大震災では、地震、津波、原発と、何年たっても元の暮らしに戻れない苦しみが今も続いています。そして、来年の参議院選の最大イシューの可能性のある国家緊急権について、永井先生は大変にお詳しいと知りました」

  「最近、国家緊急権は必要だと主張する小林節氏と、永井先生との激しいディベート(2015年10月21日)がありました。結果、屈強な小林氏が永井先生の論旨に得心され、『国家緊急権は不要だ』となりました。これには感動しました」

永井氏「まず、国家緊急権導入の動き。安倍政権は憲法9条改正を切り出したが、96条改正規定を緩和させての9条改正に挫折。その後、解釈改憲を成功させたので、明文改憲(同意できる条項から改正)の後、9条改正へと進めています」

   「当初は明文改憲で、環境権、財政条項、国家緊急権が候補に上がり、環境権を入れると乱訴が増えるということで、ならば、東日本大震災の記憶が消えないうちに国家緊急権を決めてしまおうと、方針を変えたと言います」

   「国民を慣らすのが目的のお試し改憲ですが、最初にやる緊急事態条項が、むちゃくちゃ危険なのです」。岩上「緊急事態条項は、トランプのジョーカーに等しい万能カードだ、と。今の自民党は天才的詐欺師集団みたいです」

   「それまで緊急事態条項に触れなかった安倍首相が、11月の衆院予算委員会で発言。改憲の方向が明らかになりました」。 岩上「実は9月28日にも安倍首相は記者会見で明文改憲を示唆した。産経以外、大手紙はほとんど報じなかった」

   「共産党の志位委員長に、緊急事態条項阻止も訴えるべきだと言うと、『うしろ向きだ』と言われました。それくらい政治家にも危機感がない。マスコミ操作で政治意識が弛緩させられている。今、『国民緊急事態宣言』を出すべきです」

永井氏「11月13日、パリで同時多発テロ勃発。フランスが国家緊急権を発動したので、日本でも緊急権の議論がわき起こった。しかし、共産党以外の野党は反対しない。なぜなら、国家緊急権の内容がわかっていないからです」

   「憲法では国家緊急権を明確に否定しています。災害、テロのために必要なのか。(多くの人が)自民党の国家緊急権の危険性を知らない。今の憲法には国家緊急権が欠落、との指摘もあるが間違いです。ちゃんと審議をしています」

   「国家緊急権とは、戦争、内乱、恐慌、大規模な自然災害など、平時の統治機構で対処できない非常事態において、国家権力が、国家の存立を維持するため立憲的な憲法秩序(人権の保障と権力分立)を一時停止し非常措置をとる権限」

岩上「国家のために権力を集中し、国民は服従しなければいけなくなる。緊急だがファシズムです」。永井氏「その通り。基本的人権とは、人が自立的な個人として、自由と生存を確保し、尊厳を持って生きるために不可欠な利益のことです」

永井氏「人権とは、憲法や天皇に与えられたのではなく、人間ゆえに当然に有する権利(固有性)。公権力(行政・立法・司法)によって侵害されない(不可侵性)。人種、性、身分の区別なく、人間であることで当然に享有できること(普遍性)」

岩上「自民党議員には天賦人権説を否定する人もいる。対するのは王権神授説。天皇(王)が恩寵として臣民に人権を与えたというもの」。永井氏「天皇が主権者、国民の権利は与えられたものとし、法律で簡単に奪えるという考え方ですね」

永井氏「天賦人権説は、人として生まれたら、人権は憲法より上位になるというもの。憲法でも法律でも奪うことはできません。これは今まで多くの人が闘って血を流して得た権利。それを覆すことになる国家緊急権は、まさにクーデターです」

   「人は生まれながら自由かつ平等で生来の権利を持つ(基本的人権)。この権利を確実なものとするため、社会契約を結び、政府に権力の行使を委任(国家の役割)。つまり、国家とは基本的人権を実現させるために作られた機能です」

   「かつて国家権力が強大になり、権力の濫用で人権を侵害してしまったため、国家を立法、行政、司法に分離独立させ相互に牽制させた(権力分立)。その趣旨は、権力の濫用から国民の権利を守ることです」

   「非効率だが、あえて権力を分離し、摩擦を生じさせ権力濫用から救う。人は権力を握りたがり濫用する性向がある。これは人間性の深い反省、政治の現実の認識に基づく大人の制度なんです。だから、立憲主義で憲法が国家権力を縛る」

岩上「教育が影響しますね。明治憲法では国民を子どもの状態に置いて、お上は素晴らしいと信じ込ませた。お上の言うことだけを聞け、と。マッカーサーが『日本人は12歳の子ども』と指摘したのは正しかった」

永井氏「だから、学ばせないと。民主主義社会は国民が主権者だから、相当、教養がないといけない。社会や法律のあり方を知らなければならない。大学の文系をなくすなど、民主主義の基本にまったく反することです」

   「これまで説明した人権思想の真逆が、人権を制約し、権力を国家に集中させる国家緊急権です。フランス革命前の絶対主義王制と同じで、とても危険です。国家緊急権の誕生には、英米法型マーシャル・ロー(戦時法規)がある」

   「これは不文法で、国民が軍の法規命令や刑罰権に服して、通常の裁判権の排除と法の支配停止に陥ります。その元になったのは南北戦争。アメリカ自体が戦場となり、司法、立法、行政官が、司令官に帰属したことにたどり着く」

   「大陸法型では国民主権に対抗し、国王の権力を例外的に保留するために生まれた対極の制度で、支配する側から見る構造です。ワイマール憲法、大日本帝国憲法、自民党の国家緊急権が、それに当たります」

   「国家緊急権は諸刃の剣ですが、危険性の方がはるかに大きい。歴史的にも不当な目的や期間延長、過度の人権制限、司法の抑制(自主規制)など、多くの国で軍人や政治家に濫用されてきた歴史があるのです」

岩上「むき出しの権力が出た時、司法権力は萎縮しがちです。人権を制限し、反対勢力を弾圧。緊急と言いながら、恒久的なファシズムの持続も延長で可能になる。原発を抱えて戦争しようとする日本。そんなバカな目的で緊急権を濫用しかねない」

永井氏「ナチスはワイマール憲法48条で合法的に独裁権を取得。大統領が、公共の安全・秩序に重大な損害が生じる恐れがある時、人身の自由・意思表明の自由など、7ヵ条の基本権全部または一部を一時停止できる緊急大統領令を使った」

岩上「ナチスは全権委任法で独裁を確立したというが、実は、その前に緊急令で権力を手中にした。二段階で(支配を)行っていた。多くの国民は、この程度なら大丈夫だと安心していたら、二度と立ち上がれなくなってしまった」

永井氏「全権委任法とは、国会の立法権を政府に移すことですが、そんな法律は普通、議会で通らない。それを1934年2月、国会議事堂の放火を共産党の犯行とし、国家緊急権を使い、自由に制限を加え、令状なしで逮捕拘束を可能にした」

    「これによりヨーロッパで一番勢力のあった対抗野党(共産党、社会党)が壊滅。その後の選挙で共産党が81議席を得るも登院できず。だが、ナチス党も過半数を獲得できなかった。そこで全権委任法が強行採決され、独裁を確立させた」

岩上「今、参議院では11議席しか与野党の差はない。野党でも改憲勢力は多い。同時多発テロのパリでは、令状のない逮捕が何百件もあり、報道もされない。国家緊急権が決まれば、なし崩しに反対勢力を弾圧できるようになるかもしれない」

永井氏「ナチスは不当な目的で大統領令を発動、反対する政治勢力を弾圧した。全権委任法で独裁期間を延長。法律で3年と決められていたのが反故に。人身、表現の自由も束縛。大日本帝国憲法は、元々、国家権力が強大に制定されていた」

    「そこに国家緊急権が加わった。8条緊急勅令は、議会閉会中、法律に変わる勅令を発する。また閉会中、国家保持のため、緊急の需要に対応するため緊急財産処分が可能に。戒厳は天皇が宣告、統治の相当部分を軍事官憲に移行する」

    「一度も行使されなかったが、戒厳を超える非常権もあった。緊急勅令を正常時でも濫用。治安維持法の重罰化改正法案は審議末了で廃案になったが、緊急勅令で成立。戒厳は戦争や事変を要件にしていたが、災害も含むようにした」

    「内乱でもない日比谷焼打事件、2.26事件。そして自然災害の関東大震災でも適用。戒厳令があっても変えず、緊急勅令を拡大解釈して組み合わせ、関東大震災では戒厳で自警団を軍の下部組織にし、朝鮮人を殺害したんです」

    「本来、災害に使ってはいけない戒厳を実施したため、虐殺が起きた。日本国憲法を作る際、ナチスや大日本帝国憲法の経験で、あえて国家緊急権を設けなかったのです。そのかわり、災害時のために参議院の緊急集会と政令の罰則を作った」

    「衆議院解散時の災害発生の際は、内閣は参議院の緊急集会を開催でき、緊急集会で採られた措置は、次の国会開催後10日間以内に衆議院の同意なき場合は失効(憲法54条2、3項)。緊急集会もできない場合には政令で対処する」

    「政令には、法律の委任がある場合を除いて罰則を設けることができない憲法73条6号も整備した」。岩上「永田町直下地震などが起きたら、霞ヶ関の官庁も官邸も無事ではないでしょう。その時は誰が指示を出すのでしょうか」

    「国家緊急権とは、平時の統治機構で対処できない非常事態を言います。平時とは、選挙で議員を選び、国会で審議し、法律を作り、裁判所が審判することです。それが機能しない状態は、まず考えられません」

    「関東大震災でも第二次世界大戦中でも、選挙はありました。国会が壊滅することは空想に近い。過去に参議院の緊急集会は、緊急事態とは別件で2回あり、政令の罰則に基づき災害対策基本法を制定しましたが、適用はまだない」

    「憲法に設けなかった意味。昭和21年7月15日帝国憲法改正案委員会議事録・金森国務大臣答弁に、1. 民主主義。民主政治を徹底させて国民の権利を擁護するためには、非常事態に政府の一存で行う措置を防止する、と」

    「2. 立憲主義。非常という口実に、政府の自由判断を大幅に残しておくと憲法が破壊される可能性がある。3. 憲法の制度。特殊な必要があれば臨時国会を招集。衆院解散中は参議院の緊急召集で対処できる。4. 法律などによる準備」

    「特殊な事態に濫用されないよう、平時から政令制定で完備する。濫用防止のため、国家緊急権は憲法に制定しない。平常時から厳重な要件で法律を整備する、と。一度、権力を握ると、どうなるかわからないですから」

    「平成23年の憲法審査会で自民党の近藤三津枝衆議院議員は、『大災害が国政選挙の公示日直前に発生した場合、法律で選挙期日の延長と議員の任期延長ができるか』と質問しました。当時の野田佳彦首相は『できない』と応じた」

    「近藤議員は『非常事態の想定が現行憲法でなされていない』と続けた。前述したように明確な間違いで、参議院の緊急集会が求められます。参議院選挙直前では衆議院が機能し、参議院の定数の1/3がいて国会開会は可能です」

    「衆・参W選挙直前は参議院非改選議員での緊急集会が可能。衆議院任期満了の選挙直前でも(68年間で1回のみ)公選法の改正で早めに選挙を実施、任期満了と就任を同時か、衆議院が機能しない時は国会に代替する緊急集会を請求」

    「憲法は最高法規。簡単にいじってはいけない。まず、法律の運用。それでダメなら憲法解釈で対処。それでもダメなら、憲法改正をするべき。つまり、緊急時の疑問は、法律の改正または憲法の解釈で解決できるんです」

岩上「気になるのが『議員の任期延長ができるか』という件です。非常事態に国家緊急権で任期が延長できるようになれば、終身議員状態になって、永続的な緊急事態宣言になりかねない。恐ろしいことですが、いかがでしょうか」

永井氏「民主主義社会では治者と被治者は同じ、という原理。立場の交代の可能性がないとおかしい。終身議員は民主主義に反します。災害時の法律による制度はとても完備されている。非常事態の布告は内閣が行い、立法権が内閣に移ります」

    「国会閉会中や衆議院解散中、臨時会の招集及び参議院緊急集会を請求する時間がない場合、4つに限り緊急政令を制定できる。1. 生活必需物資の配給、譲渡、引渡の制限禁止。2. 物の価格、役務そのほか給付の対価の最高額の決定」

    「3. 金銭債務の支払いの延期、権利保存期間の延長。4. 被災者の支援にかかる外国からの救助の受け入れ(災害対策基本法109条の2)。政令には刑罰を付せ、直ちに国会の臨時会招集か参議院緊急集会を求め、国会承認がない時は失効」

岩上「阪神淡路大震災の時、東京は平時。東日本大震災でも関西は普段通りだった。激甚災害でも地域は限定されるのに、緊急事態法を日本全国に適用することは悪質です。被害のないところの自由まで奪ったら生産活動もうまくいきません」

永井氏「内閣総理大臣への権力集中。国民に物資をみだりに購入しないよう要求。関係指定行政機関の長、地方公共団体の長、執行機関、関係指定公共機関・地方公共団体に必要な指示の指示。防衛大臣に自衛隊法8条に規定する部隊の派遣要請」

    「警察庁長官を直接指揮監督し、一時的に警察を統制。市町村長、都道府県知事に対し、居住者避難のための立ち退き、または屋内退避のための勧告・指示をすることができる」

   「人権制限に関する法制度では、都道府県知事の強制権として、1. 医療、土木建築工事または輸送関係者を救助する業務に従事させる。罰則もある。2. 救助を要する者。その近隣の者を救助に関する業務に協力させることができる」

   「3. 病院、診療所、旅館等を管理し、土地家屋物資を使用し、物資の生産、集荷、販売、保管もしくは輸送を業とする者に物資の保管を命じ、収用できて、罰則がある」

   「4. 職員に、施設、土地、家屋、物資の所在、保管場所に立入検査させることができる。罰則あり。これは憲法18条の苦役に当たると問題になったが、政府は該当せず、とした」

岩上「原発事故の場合、個人の避難の権利はどうなるのですか」。永井氏「現実の災害では、本人の意志を尊重して同意がある場合、ということです」。岩上「地方自治体を重視するのは、非常事態はローカルなことだからでしょうか」

永井氏「そうです。被災者に一番近いところが権限を持ち、対処するのが、もっとも迅速で効果的だから。災害で一番大事なのは現場です。国には、公平性や画一性が求められます。現場に対処できるのは市町村なんです」

岩上「ますます国家緊急権は詐欺ですね。国家を疑え、という憲法の精神」。永井氏「さらに、市町村長にも強制権があります。設備物件の占有権、所有者、管理者に対して、物件の除去、保安その他必要な措置をとることができる」

永井氏「居住者に避難のための立ち退きを勧告、指示することができる。警戒区域を設定、立ち入りを制限、禁止、退去を命じることができる。他人の土地建物その他工作物を一時使用し、土木石材その他物件を一時使用もしくは収用できる」

    「災害を受けた物件の除去、その他必要な措置をとることができる。住民または現場にある者を応急措置の業務に従事させることができる。これらを考慮したら、災害時に国家緊急権は必要ない。すでに十分、検討され整備されている」

岩上「市町村長も知事もこれだけ強制権を持っている。国家が地方自治体の権限を一時的に停止したら、何の意味もなくなりますね」。永井氏「海外では明確に災害時の国家緊急権を定めた国は少ない。ドイツにはあるがシンプルです」

永井氏「駒澤大学名誉教授の西修氏は、1990~2008年制定の93ヵ国の憲法すべてに国家緊急権があるが、日本にはないと言う。しかし、日本では憲法との関係を十分審議し、実質的に災害時の国家緊急権に相当する制度を法律で制定している」

    「国家緊急権の定義に『憲法で定めた権限』とは書いていない。フランスの非常事態法は、憲法ではなく法律で発せられた権限です。災害時に国家緊急権が必要なのか。災害対策とは事前の予防措置、直後の応急対策、事後の復旧対策だ」

    「国家緊急権は、直後の応急対策のみの強権です。災害対策の原則で、準備していないことはできません。東日本大震災の双葉病院事件を例に挙げると、寝たきりの高齢者180人のうち、避難で50人が死亡しました」

    「国には防災基本計画の策定義務があり、これに従って指定行政・公共機関は行政業務計画を、地方自治体は地域防災計画、原子力事業者は防災業務計画の策定が義務づけられている。自治体の長は防災教育や訓練実施の義務がある」

    「地震で原発事故は起きない前提だったので、双葉病院では屋外に出るマニュアルしかなかった。自治体、国及び事業者らが避難ルートや高齢者・障がい者の収容避難所の確保など事前準備をしていなかった。それで双葉病院事件が起きた」

   「法律が整備されていたにもかかわらず、まったく運用されていなかった。だから、災害の後に憲法を停止しても何の意味もありません。釜石では釜石市鵜住居(うのすまい)防災センターに244人が避難、全員死亡した事件があります」

    「本来の避難場所が高台にあり、高齢者の防災訓練参加率が低かった。それで平地にある建物(危険が去った後の仮住居用)を使用し、釜石市も了承していた。市は、そこが正式な避難場所ではないことを告知していなかった」

    「不適切な訓練で多数の命が失われた悪しき例です。同じ釜石市で小中学生2921人が助かったのは、中学生が津波が来ると警告を発したから。市教育委員会が津波教育のないことに危機感を持ち、防災教育を充実させていたのです」

    「その時、教師の意識改革をした群馬大学の片田敏孝教授は、『想定にとらわれるな。最善を尽くせ。ハザードマップを信じるな。率先避難者たれ。懸命に逃げる姿が周囲の命を救う』と説いた。命を救うのは事前準備なのです」

    「民主党の山尾志桜里衆院議員は『非常事態に危機にさらされる国民の生命財産、人権を守るため、内閣総理大臣に権限を集中して人権を制約することが必要。災害では予想できない事態が生じるので、国家緊急権を導入せよ』と発言した」

    「国家緊急権は、人権を守るための制度ではなく、国家を守るために人権を制限する制度です」。岩上「災害での有事は口実で、真意は戦争のためではないでしょうか。そして、テロと国家緊急権は、どうなるのでしょう」

    「テロのために国家緊急権を創設すべきではない。テロは自然災害とは異なり、中立性の保持や平和的解決への努力によって予防できる。国家緊急権は憲法には規定せず、法整備で準備する。テロ対策は予防が重要です」

岩上「テロは自作自演もある。戦前の満鉄爆破。ベトナム戦争の引き金になった米軍のトンキン湾事件。テロは常に疑ってみるべき。国家緊急権で言論や報道を規制するなら、なおさら怪しい。これは陰謀論ではなく、歴史の事実です」

永井氏「法律は、国民保護法、武力攻撃事態国民安全保護法があり、対テロは『緊急対処事態』で準備しています。内閣総理大臣は災害対策本部長になり都道府県に措置をとる指示ができる。必要があれば防衛大臣に自衛隊の出動を求められる」

    「さらに自然災害同様、人権制限に対する強制権もある。刑罰法規も爆発物取締規則、刑法、ハイジャック防止法、テロ資金提供処罰法、組織犯罪処罰犯罪収益規制法など盛りだくさん。共謀罪の話があるがテロとは関係ありません」

    「国家緊急権はテロで発動するに当たらない。国家緊急権は、平常時では対処できない緊急時、戦争、内乱、恐慌、大規模な自然災害など『平常時の統治機構では対処できない非常事態』に。テロは犯罪で、平常時の統治機構は機能します」

岩上「米国は9.11以降、愛国者法などを作り、アフガン、イラク戦争へ突入していった。自民党改憲草案も、そういうことをする口実作りに思える。『国家・権力者の犯罪のために国家緊急権を要請する』とした方が的確ですね」

永井氏「フランスでは憲法上の国家緊急権で、ドゴール大統領が1回だけ使った大統領非常措置権と、いまだ実施のない合囲(戒厳)があるが、今回は法律による緊急状態法の適用。仏政府がテロに対して憲法を発動したと思うのは間違いです」

    「フランスの緊急状態法は、テロよりも大きな内乱や武力の衝突、暴動を対象とし、異議申し立て手続きも可能。テロでの令状なしの捜索、集会禁止の立法事実はない。人身、表現の自由の趣旨で、日本が容易に真似すべきではない」

    「フランスは軍隊を派遣したり、大統領府に要人を集めるデモンストレーションで、テロを防げなかったことをごまかそうとする意図が見え隠れします。凶悪犯罪が起こると、国民も為政者も規制側に立つが、冷静に判断すべきです」

岩上「国家緊急権は、国民を思考停止に落とし込む手段になり、とても危険です。冤罪の可能性もある。やり返した後に間違いがわかっても取り戻せない」。永井氏「テロに関して言えば、国家緊急権を発動する状態ではないということ」

永井氏「自民党の国家緊急権案は、非常事態があった時、内閣が宣言して法律に変わる政令を出せる。事後、国会承認を要するとあるが、承認が得られない場合に失効するとは書いてない。財政処分も同様。旧憲法にすら失効の記載はあったのに」

    「政令で規定できる内容の縛りもない。人権でも何でも政令で制定でき、国会の立法権を内閣に移譲するのと同じ。国家緊急権の内容を国会の過半数をもって法律で定められ、改憲の困難さを反故にし、拡大解釈で何でも追加できる」

    「閣議決定で、国民が内容を知る前に、法律に変わる政令を出せるんです。安保法制では国会審議があったので反対世論が盛り上がりました。それもなくなる。民主主義に反し、権力分立にも反します。さらに期間の制限がない」

    「100日を基準に継続を予定。あまりにも長過ぎ、かつ延長可能なのです。災害時に治安目的で戒厳も制定できる。適用範囲にも規定がないので、流言飛語を防ぐため報道規制もできる。ナチスの全権委任法にあたる独裁条項です」

岩上「私も逮捕でしょうね。自民党はナチスの手口を真似るのではなく、超えようとしていた。反戦、反原発、反安保法制デモなど、集会の自由も適用範囲にされてしまう。NHKもマスメディアも、この危険性を取り上げないわけです」

永井氏「自衛隊が海外に行って武力紛争になった時、国内で動乱がなくても戒厳を制定できます。治安出動で武器を持った自衛隊が、NPOを末端組織に加えることもあり得る。戒厳では司法の権限を、国防軍審判所に移すことも考えられます」

岩上「緊急権発動で、報道を制限して事実を覆い隠し、社会を思考停止状態にする。そういう状況下で、やみくもに戦争に突入する可能性がある。でなければ、ここまで周到に用意する必要はありません。日本は、原発を抱えて戦争です」

永井氏「これは憲法自体を破壊する行為で、9条改正より怖い。14、18、19、21条、その他の基本的人権に関する規定は最大限に尊重されなければならないと記載があるが、臨時国会も開かず憲法軽視、解釈改憲をする内閣に期待はできない」

   「緊急権の発動時に期限を決め、緊急権行使に調査権、責任追及の制度も設けるなど、厳格に要件を定めた国家緊急権にすれば立憲主義にかなうとの、意見もある。しかし、現在のように為政者がスルーすれば、すべて終わりです」

   「仮に法律を作ったとしても、裁判所が正しく機能しないでしょう。ある憲法学者は、立憲的コントロールで復元力があれば可能ではないか、と。アメリカは何度も国家緊急権を発動したが、厳格な権力分立と司法審査権は機能しています」

   「ニューディール政策では国家緊急権で、ルーズベルト大統領が議会を通さずに大統領令を作った。それに対し、連邦裁判所は片っ端から違憲判決を出した。司法権は完全に機能した。米国は立憲的コントロールによる復元力があります」

   「日本は議院内閣制で国会の多数派が政府を形成。司法の統制は、政府追認、判断回避、公共の福祉により人権制約大で、国家緊急権で統制機能は喪失する。日本は文化水準は高いが、独立や革命の歴史がありません」

   「私は愛国者で、国土、国民、文化を愛しているが、政府、議会、裁判所の国家は、愛する対象ではありません。それらは私たちのためにあるものです。災害を理由に国家緊急権制定に反対する意見表明を、17の県弁護士会が表明しました」

   「反対理由は、すでに法整備されている、国家緊急権は災害には役立たない、憲法に含める危険性などです。災害やテロをダシにして、憲法を改正してはなりません」。岩上「国家緊急権は、被災者や国民に対する大きな侮辱です」