荻野洋一 映画等覚書ブログ

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八百善(江戸・山谷) 4×2=8

2013-08-08 02:49:53 | アート
 左図、右から時計回りに大田南畝 、鍬形惠斎、大窪詩仏、亀田鵬斎。それぞれ狂歌師、浮世絵師、漢詩人、書家・儒学者で、江戸後期を代表する文人クァルテットである。彼らが会し、宴を催しているのは江戸・山谷の高級料亭「八百善」である。山谷というと昭和以降はドヤ街として知られたけれども、逆に江戸期においては、近隣に吉原を控えて贅沢な遊興の町として栄え、在りし日の「八百善」は洒落の分かる客相手には、締めにお茶漬けの注文を受けてから、清流に水を汲みに行くことから始め、お茶漬け一杯に現在の貨幣価値にして10万円を請求したというから面白い。
 サントリー美術館(東京・六本木)で開催中の《生誕250周年 谷文晁》《生誕250周年 谷文晁》が会期後半に入り、展示替えをおこなった。8割方展示品の交替があったため、ほぼ新しい展覧会を見に行ったに等しい。谷文晁といえば、山水を中心とする南画(文人画)が見どころの焦点となるけれども、「八百善」四代目主人・栗山善四郎の著したグルメ本『江戸流行料理通』(1822)に、鵬斎が序文を、南畝 (蜀山人)が跋文を寄せ、文晁、酒井抱一、葛飾北斎、鍬形惠斎などが挿絵を描いているのが、オールスター的な豪華さだ。左図に酒井抱一が写っていないのは、たまたまだろう。下戸だった抱一だが、もっぱら「食べる専門」係として別の絵に描かれているのを見たことがある。江戸後期に全盛を誇った「八百善」は昭和・平成に入って徐々に零落し、数年前まで新宿靍島屋や両国の江戸東京博物館に出店したりもしていたが、現在は郊外で料理教室事業のみに専念していると聞いた。
 右図は、わが少年期の最も輝けるクァルテット、スロッビング・グリッスルの3rdアルバム『20 Jazz Funk Greats』(1979)。コージー、ジェネシス・P・オリッジ、ピーター、クリスの4人組である。谷文晁の山水のなかに小さな小さな旅人と、彼のお伴をする琴持ちの少年の後ろ姿を眺めながら、スロ・グリの「Still Walking」が耳下腺内でこだましたため、こじつけで並べた。リリース当時、「新宿レコード」で英国盤を3200円くらい出して購入した記憶がある。ぼられたものだ。