荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『図書新聞』バックナンバーの拙稿をスクラップする

2015-07-07 14:38:48 | 身辺雑記
 昨夜、『図書新聞』に掲載された過去の拙稿を切りぬいてスクラップした。マルマン社製のA3変形スクラップブックを買ってきて「やろうやろう」と思いつつ、15年以上もの悠久の歳月が流れた果ての、遅すぎる懸案の完遂とあいなった。『図書新聞』の束とマルマン社製スクラップブックはそのあいだ、押し入れの中でむなしく眠りつづけ、当事者の私ですら、これが陽の目を見る前に当事者の方が先に逝くのではないかと、薄々感じていたほどである。ゆうべは区切りの感覚がそこはかとなくあったのかもしれない。
 切りぬいたのは、同紙のコラム連載〈映画の現在〉の丸2年分である。1996年1月から98年12月までだ。なお、この新作レビューのコラム連載〈映画の現在〉は、私だけのものではない。私が担当する前は、映画評論家の川口敦子さんが担当されていたし、後任を引き継いだのは、映画雑誌「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」で同人仲間だった常石史子さん(現在ウィーン在住)である。
 連載をはじめる1年半ほど前の1994年秋に、まず単独記事の原稿依頼があった。話題の新人クエンティン・タランティーノの新作『パルプ・フィクション』についての特集記事である。不肖私のほかに、松浦寿輝と黒沢清が同作について寄稿している。当時まだ20代だった私としては、「この偉大な2人に挟まれて三幅対を形成できるなんて」と得意満面であった。滑稽なものである。お二方に比して自分がどれほど劣っているか、どういうふうに克服すべきかなんてまったく考えなかった。後悔先に立たず、とはまさにこのことである。

 切りぬき作業をしながら、ほかの記事にも目を通す。1995年にはオウム真理教のサリンテロについて討議され、96年には四方田犬彦がジョイス『フィネガンズ・ウェイク』訳業の完成を絶讃し、97年には吉田司がコギャルの援助交際を真剣に論じ、98年1月には「唐突すぎる伊丹十三の死」の文字が第1面に踊っている。失礼ながら微苦笑を禁じ得ない。拙稿の上段にはいつも、〈天才ヤスケンの今週のオススメ〉という伝説の長期連載が出ていた。
 雑誌の掲載記事なら、どんなにマメな書き手でも自稿のスクラップなんてしないだろう。何ページにもわたる長文だとスクラップしづらいし、雑誌そのものを保存すればよい。しかし新聞はそうはいかない。紙がどんどん劣化して保存に向かないからである。元の自筆原稿にしても、当時すでにワープロをやめてパソコンで執筆していたとはいえ、OSとの互換性の問題で現在ではインストールすらできなくなったエルゴソフト社の「EG WORD」というアプリケーションを使用していた。バックアップをとったメディアも、現在ではまったく使われなくなった「ZIP」というディスクである。つまり、手元にある茶色に変色した新聞紙だけが、拙稿を読みなおす手立てなのである。
 私の連載が終了し、常石史子さんが引き継いでから半年経過した1999年7月、また同紙から原稿依頼があった。ヴィンセント・ギャロの『バッファロー’66』の特集記事である。2年間コラムをやらせていただき、その前後でタランティーノとギャロについて、少し長めに書かせていただいたということになる。手前味噌ながら、記事の目録を、アクチュアルな時代性の備忘として掲示させていただく(おもな上映館の名前と共に)。全部を網羅していないかもしれないが。

クエンティン・タランティーノ『パルプ・フィクション』(丸の内ルーブル) 1994.10.15(単独記事)
ジム・ジャームッシュ『デッドマン』(日比谷シャンテシネ2) 1996.1.20(連載初回)
篠崎誠『おかえり』(ユーロスペース) 1996.2.17
ケン・ローチ『ケス』(シネ・ヴィヴァン六本木) 1996.4.20
ウォン・カーウァイ『天使の涙』(シネマライズ) 1996.7.6
北野武『Kids Return』(テアトル新宿) 1996.8.10
ウォン・カーウァイ『楽園の瑕』(銀座テアトル西友) 1996.9.7
木澤雅博『33 1/3 r.p.m.』(中野武蔵野ホール) 1996.10.12
瀬々敬久『生まれ変わるとしたら』(紀伊國屋書店) 1996.11.9
矢口史靖『秘密の花園』(新宿シネマカリテ) 1996.12.7
クリスティーヌ・パスカル『不倫の公式』(新宿シネマカリテ) 1997.3.1
クレール・ドゥニ『パリ、18区、夜』(俳優座トーキーナイト) 1997.4.12
ウェス・クレイヴン『スクリーム』(シネセゾン渋谷) 1997.6.7
大西功一『とどかずの町で』(シネ・ヴィヴァン六本木) 1997.7.12
サンドリーヌ・ヴェイセ『クリスマスに雪はふるの?』(シネ・ヴィヴァン六本木) 1997.11.1
ユーセフ・シャヒーン『炎のアンダルシア』(日比谷シャンテシネ2) 1998.1.17
クエンティン・タランティーノ『ジャッキー・ブラウン』(劇場名 非掲載) 1998.1.31(単独記事)
ジョン・ウー『フェイス/オフ』(劇場名 非掲載) 1998.328
ペドロ・アルモドバル『ライブ・フレッシュ』(劇場名 非掲載) 1998.5.2
ヴェルナー・シュレーター『愛の破片』(BOX東中野) 1998.6.13
エリック・ロメール『恋の秋』(日比谷シャンテシネ2) 1998.11.21
是枝裕和『ワンダフルライフ』(シネマライズ) 1998.12.26(連載最終回)
ヴィンセント・ギャロ『バッファロー’66』(渋谷シネクイント) 1999.7.24(単独記事)