クヨクヨと一喜一憂(いっきいちゆう)するのは考えものである。物事が逆転した運びとなり、スンナリいかなくなる場合が多いからだ。だいたい、クヨクヨすること自体が問題で、余りよくない心理状態なのである。仏教の煩悩(ぼんのう)とかいう小難(こむずか)しい言葉に似通(にかよ)っている。
「やあ! 橘(たちばな)さん。どうされました、頭(あたま)? 薄くなられましたな…」
「これはこれは広瀬(ひろせ)さん。そう言われるあなたも真っ白じゃないですかっ、ははは…」
二人は偶然、同じ職場で出会い、いつも交(か)わす湾曲(わんきょく)的な嫌味(いやみ)を大げさに展開し始めた。これは対立して・・という訳ではなく、互いに慰め合っているように誰の目にも見えた。
「ははは…そうなんですよ、一喜一憂ですわっ!」
「いや、実は私も、です。ははは…」
二人は傷(いた)めた傷口を舐(な)め合った。
「一喜一憂しても仕方ないですかな?」
「ははは…そうかも、ですな」
「返って…」
「そうそう! 益々(ますます)ということに…」
「行雲流水(こううんりゅうすい)ということで…」
「ほう! 雲水ですか? これも修行(しゅぎょう)ですかな?」
「そのようです、ははは…」
二人は逆転に気づき、それ以降、頭髪(とうはつ)を気にしなくなった。
一喜一憂するのは逆転の結果を招(まね)きやすいから、やめた方がいい・・というお話だ。禿(はげ)るか白髪(しらが)か、どちらかハッキリしろっ!! と切れる方もいる・・というのが逆転現象の一つである。
完