日曜日、学校は休みで、のんびりしようとしていた矢先、母に言われた友樹が家の前を掃いていると、偶然、幼馴染(おさななじみ)の幸弘が自転車で通りかかって停止した。
「そら…あそこの獄城(たけしろ)さんが亡くなったって、知ってるかい?」
「いや、…そうなんだ」
「さっき、霊柩車が火葬場へ向かったところさ」
「ふ~ん。そりゃ、お悪いことができて…」
「ごめん、悪いこと聞かせたな」
「謝ることじゃないけどさ。よく知らない人だから…。僕は人に悪い話はしないんだ…。聞いた方は余り気分よくないだろうし…」
友樹は掃く手を止めて、そう言った。
「ああ、そうだね…」
幸弘は友樹に合わせた視線を落として地面を見た。
「子供の僕が言うのもなんだけど、どうせ、短い一生。せっかく出会ってさ、お互い、少しでも気分よくなりたいじゃないか。そうは思わない?」
「話す内容か…。確かに、そうかもな」
「世の中よくするのは、そんな些細(ささい)なことかも知れないよ」
友樹は笑顔で幸弘を一瞥(いちべつ)すると、ふたたび家の前を掃き始めた。その瞬間、雲の切れ目から日が微(かす)かに射し、辺りは明るくなった。数日ぶりの日の光だった。
「そういや、親しい中にも礼儀あり! って言うな。僕も次から、明るい話をするようにするよ」
「するように・・じゃなく、することに・・で頼みたい。ははは…明るくする会!」
掃き終わった友樹は手を止めて笑った。釣られて幸弘も笑った。
「ははは…じゃあな」
「ああ…」
幸弘が自転車で去る後ろ姿を見ながら友樹は思った。どうせ無理だろうけど、ささやかなレジスタンスだと…。
THE END