水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

短編小説集(39)病院旅行<再掲>

2024年09月20日 00時00分00秒 | #小説

 父と息子はバスから降りると、テクテクと歩き始めた。空は雲ひとつない秋の青空が広がっている。爽快に吹き渡る風も二人には心地よかった。
「いい天気だ! こりゃ、いい旅になったな、まさる」
「うん! あそこの病院も、なかなかよさそうだよ。この前、友達から聞いた。お母さんが薬もらいで通院しているんだって」
「ふ~ん、そうか…。ああ、あの建物か。なかなかいい風情の病院そうだ」
「聞いたとおりだよ」
「病院は、なんといっても人情に厚く、美味しく、風情がないとな」
「なんか寛(くつろ)げないよね」
「ああ…」
 そんなことを話している内に、二人はその病院へ着いた。病院の表門には[寒天堂大学病院]と書かれている。
「寒天堂大学病院か…。なかなかの病院みたいだ」
「さっき巡った再入会病院もよかったよ。売店の自動販売機のきつねうどんは美味(おい)しかった」
「ああ…揚げが甘く染みてたな。そのひとつ前の猫の門病院も風情があったな」
「うん! あそこの売店のコーヒーは、値打ちもんだったね」
「ああ、美味(うま)かった…普通の喫茶店並みだ。どれどれ、ここは…」
 病院エントランスへ入った二人はグルリと病院内を巡った。
「あの中庭の竹林は、いい!」
「父ちゃん、ほら、あそこにベンチがあるよ」
 二人はベンチに近づくと、腰を下ろした。
「自動販売機もあるな…。よし、今度は紅茶を味わってみよう」
「そろそろ昼どきだよ、おなかが減った」
 まさるは辺りを見回した。
「あっ! あそこに売店がある。父ちゃん、僕、おにぎり買ってくるよ」
「よし! じゃあ、紅茶はあとにして、熱い茶を先に買おう。いい旅になったな、まさる」
「うん!」
 二人は、ふたたび立つと楽しそうに動き始めた。

                  THE END


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