本日11月20日は、中国国民政府が南京から重慶への遷都を宣言した日で、岩波書店が岩波新書の刊行を開始した日で、ニュルンベルク裁判が始まった日で、文化大革命を指導した四人組の裁判が始まった日です。
本日の倉敷は曇りのち晴れでありましたよ。
最高気温は十度。最低気温は四度でありました。
明日は予報では倉敷は晴れとなっております。
若い嬢の命を取る事も真つ白な張の有る体を目茶目茶にする事でも平気な顔でやつてのける力を持つた刀でさえ錦の袋に入った大店の御娘子と云うなよやかな袋に包まれて末喜の様な心もその厚い地布の影には潜んで何十年の昔から死に変り生き変わりした美くしい男女の夢から生れた様な艶やかさばかりを輝かせて育つた我が友である女の名は其の美しさに似ず勇ましい名である。
友の心の底にちらつと怪しい光りもののあるのを私は見附けた。
其の光りものの大きくなつた時に起る事も私は想像する事が出来た。
友の心の中に棲む光りものの細やかに物凄い煌めきを見るにつけて天が人に与えるものについて考えさせられた。
友の心に住む光りものの広がる毎に其の美くしさは増して昔から御話にある様な美くしさと氣持を持つて居るのを知つたのは私きりではなかった。
粋な模様の裾長い着物に好きでかつら下地にばかり結つて居た様子は其の御白粉気のない透き通るほどの白さと重そうに好い髪とで同じ学級の者がこぞつて附文をする程の美くしさをもつて居た。
或る時、自分の名が勇ましい名であることに笑つて「私は大好き。良いねえ……」と云つていた。
「女は柔しい名の方がどれだけよいか……。名のあまり凄い女は嫌がられるもの……」と彼女の母親は云つた。
「そう。咲くかと思えば直に萎んで散つてしまう花。直に年寄りになる様な御花なんて名が良いのでしやうか? でも私は自分の名が好きなんだもの。龍があの黒雲に乗つて口を刮と開いて火を吹く所なんかは堪らなく良いけども、まあ只の蛇が真つ青に鱗を光らして口から赤い舌をぺろりぺろりと出す事なんかも私は大好き。良いよね……」
其の凄く光る瞳を憧れる様に見はつて友は斯う云つて母親が顔色を青くしたのを真つ黒な瞳の隅から見て居た。
細工ものの箱に役者の絵葉書に講談本のある筈の室には、壁いつぱいに地獄の絵が貼りつけてあり畳の上には古い虫ばんだ黄表紙だの美くしく顎が尖つた男達が睦む本が散らばつて真つ赫に塗つた箱の中には勝れた羽色を持つた蝶が針に刺されて入つて居た。
そんな事も母親に何とはなしに涙ぐませるには十分な事だつた。
友は家業を手伝つていたが、仕事を教わる際には気儘に教わつて居たけれども教える任にあたつた者は友人の冷たい美くしさに自分の氣の狂うのを畏れて成る丈は避けて居た。
友は男が鉛筆を握つて居る自分の横顔を見つめてぼ~つとと顔を赫くしたり小さな溜息を吐いたりして居るのを見ては、其れが面白さに分るものをわざと間違えて癇癪を起したふりをして弱い男のおどおどしてただ情けなそうに俯く様子を見ては満足の薄笑いをして自分の部屋に入るのが常だつた。惡い奴である。
今も彼女の氷のやうな美貌と共に恐ろしくも冷たくも美しい内面と煌びやかな才が頭に浮かぶ。
でももう彼女は居ない。
彼女は恐らく笑いながら此の世界から去つていつた。
全ての人を嘲笑いながら彼岸へと旅立つてしまつた。
あいつは莫迦だ。底なしの莫迦だ。
でももう居ない。
だからあいつに直接文句も言えない。
その事は私をとてもとても寂しい氣持ちにさせてしまうのだ。