シネ・ウインドで、トム・ムーア監督、アイルランドのアニメ映画「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」を観て来たので、感想を書いていきます。
ひとまず、予告編はこんな感じです。
と言う訳で、感想を書いていきますが、まず何と言っても、ポスターや予告編からも分かる通り、絵がものすごく美しくて可愛いなあ!ということに感動しました。
今まで観て来た数あるアニメの中でも、絵の可愛さという点においては、本当にトップと言っても過言ではないくらい、なんて素敵な絵なんだろう…と夢中になって観ているうちに、あっと言う間に映画が終わってしまったという印象です。
僕がこれまで観て来たアニメに感じる美しさにはざっくり分けると二通りあって、一つはまるで写真のように緻密に描写された絵が美しいアニメ(ジブリとか)、もう一つはアニメ的なデフォルメによってアニメならではの気持ちよさを感じさせてくれるようなアニメです(ディズニーとか)。
これはどっちが優れていると言う訳でもなくて、それぞれに魅力があると思うし、そもそもこんなに簡単に分類できるものではない(両方の魅力を兼ね備えたアニメももちろんたくさんある)とは思いますが、アニメの絵の美しさに感動するって言うと、大体この2パターンが多いのかな、と僕は勝手に思っているのです。
ただ、そう考えるとこの映画の絵の美しさは、このどちらともちょっと違うような気がしました。
リアルな描写かと言われればそうでもないので、敢えて言うならデフォルメされたアニメだとは思いますが、ただ僕が思い描いていたデフォルメされたアニメというのは、ディズニーやトムとジェリーのような海外のアニメや、または日本のいわゆるアニメ絵というもの(萌えキャラ含む)だったりしたので、それに比べると、この映画の絵の可愛さ、美しさは一体なのだろうか…?
一言で言うなら、絵本、あるいは本の挿絵のような美しさだと思うのです。
一枚一枚、心を込めて描かれ、アイディアと面白さに満ち溢れて、ページをめくる子供の心をわくわくさせるような絵本、そういう絵から放たれる、優しさ、可愛らしさ、美しさ、そういうものがすべてのシーンから感じられるようなアニメだったなあと思います。
個人的な話ですが、僕は子供の時から絵本が好きで色々な絵本に夢中になった人間なのですが、そういう子供の時の感動は、今でも自分の中の大切な部分を構成していると思っています。
だから今でも、絵本を読めば感動するし、絵本でなくても、子供の時に夢中でページをめくったあの気持ちを思い出させてくれるような作品に出会うと、僕はどうしても感動してしまうのですが、「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」は、僕にとって、まさにそんな子供の時から大好きで何度も読み返したい絵本のような感動が味わえる映画でした。
すべてのシーンが本当に絵本のように美しく可愛らしいだけでなく、先の読めない冒険のストーリーにもとてもわくわくしました。
どんなストーリーかざっくり説明すると言うと、アイルランドの神話をもとに作られたファンタジーの世界を、兄と妹の二人が冒険するファンタジーです。
基本的に難しいストーリーではないですが、ただ、元になったアイルランドの神話が、日本人の自分にとってはまったく馴染みのない初めて知るものだったので、この物語の世界を受け入れるのに少しだけ頭を使ったな、とも思いました。
しかし、逆を言えば、日本に暮らす自分にはあまり馴染みがない、と言うか、とても思い付きそうにもないアイルランドの物語は、非常に新鮮に感じられて、だからこそとてもわくわくした部分もあるなあと思います。
もうちょっと詳しくあらすじを書いていくと、この物語は、幼いベンとシアーシャの兄妹が主人公なのですが、二人の母・ブロナーはシアーシャを産んだ日に海で亡くなっていて、それからは父・コナーが一人で二人を育てています。
一家は海辺の街から少し離れたところにある、灯台のある小島に住んでいるのですが、シアーシャは生まれつき話すことが出来ず、ベンはそんな妹をうとましく思い、いじわるばかりしています。
シアーシャの誕生日(ブロナーの命日でもある)に、お祖母さんが泊まりに来るのですが、その日の夜、妹は不思議な光に導かれるがままにお母さんの形見のコートを羽織って海へと行くと、不思議なことにアザラシの姿になって自由に海を泳ぎ回ります。
しかし、妹が人間の姿に戻って浜辺に戻ってきた妹を見たお祖母さんは、突然海に一人で倒れているシアーシャを見て、「こんなところに住んでいてはいけない!」と、父コナーを非難し、ベンとシアーシャには一方的に自分の意見を押し付けて、なかば強引に街にある自分の家へと連れ出します。
しかし、強引に連れて来られたベンとシアーシャは、こっそりお祖母さんの家を抜け出し、元の家へと帰ろうとするのですが、その道中に様々な妖精たちや魔女が現れ、幼い兄妹の大冒険が始まります。
妖精たちと魔女の目的とは?シアーシャ、そして母ブロナーに隠された秘密とは?そして彼らが迎える結末とは?…と、徐々に様々な謎が明かされていき、ドラマティックに盛り上がっていく…そんな感じの物語です。
この物語の冒頭では、まだシアーシャが生まれる前、まだ生きていた時のブロナーが息子のベンに昔話を語っていたり、また、成長したベンが母シアーシャから聞いた昔話をシアーシャに語って怖がらせていたりと、彼らの住む世界では昔話というものが非常に身近な存在であることが印象付けられます。
どんな昔話かと言うと、この世界には人間や妖精の感情を奪ってしまうマカという魔女がいて、魂を奪われると石にされてしまうとか、マカの息子の巨人マクリルは悲しみをマカに奪われたために巨大な島になったとか、セルキー(海の妖精みたいなもの)が歌うと妖精たちの魂は救われるとか、そういう不思議な物語が登場します。
先程も書きましたが、この映画に登場する昔話は、アイルランドの伝説をもとに作られているので、日本に住んでいる自分にとっては、ちょっと馴染みがないもので不思議な気持ちになったりもしましたが、その一方で、初めて触れる昔話はとても新鮮で、非常にわくわくしたりしました。
アイルランドにはアイルランドの、日本には日本の神話や伝説や昔話があるように、その土地に伝わる物語は、そこ暮らす人間の生活習慣や文化や歴史と密接に関係しているものなんだなあ、ということが感じられたのも面白かったです。
そんな昔話とともに育ったベンとシアーシャの兄妹ですが、二人が物語の中盤、お祖母さんの家を抜け出して家に帰るために冒険するシーンでは、まさに昔話に登場していた魔女や妖精たちが次々と登場してくるのです。
映画の前半では昔話だと思われていた出来事が、途中から実際に登場してくる展開は非常にわくわくしましたし、また、何気ない会話の内容が実は物語の根幹に深く関わっているという構成は、伏線回収という意味でも、非常によく出来ていたと思います。
また、この映画の面白いところは、妖精や魔女や巨人の登場するように、ファンタジーな部分は物凄くファンタジーなのですが、その一方で、「自分の意見を押し付けるばかりで過保護な祖母の傲慢さ」、「男手一人で子供を育てる父親の孤独」、「妹に素直になれずにいじめてしまう兄」など、人間ドラマの部分は、現代社会を反映しているかのように、とても現実的で生々しいものとして描かれていたところです。
やっぱり、優れたSFやファンタジーはただ突飛なだけでなく、物語の基盤となる「人間」をしっかり丁寧に描いたものであるんだなあということを実感しました。
個人的には、ベンとシアーシャという子供のキャラクターの気持ちを丁寧に描くこと、子供の目線から物語を描くことを大切にしていたところが、本当にとても良かったです!
昔から思っているのですが、どんな人間にとっても子供の時の気持ちやその時の感覚というものは、その人の基盤となる大切な部分を構成していると思っているので、子供の気持ちを大切に描いた作品は、絶対に人を感動させることが出来ると思っています。
特に自分は、子供の時から変わらずに残っている部分が人に比べてすごく大きいんだろうなという自覚があるんですけど、それだけに子供たちに対して(特に兄のベンに対して)とても感情移入してしまいました。
と言うのも僕自身、弟のいる長男なので、最初は妹をうとましく思っていたけれど最終的には妹のために頑張るベンの姿が、まるで自分の子供時代を見ているようで本当にぐっときてしまいました。
そして、そのような「人間臭さ」を丁寧に描いているのは、人間のキャラクターだけではなく、妖精や魔女などのファンタジーの世界の登場人物にも言えることで、特に魔女のマカは、ただの単純な悪役ではなく、彼女には彼女の考え方があって魔女になってしまったという背景までしっかり描かれ、大切な一人の愛すべきキャラクターとして登場していたところが本当に良かったです。
先程、すべてのシーンから一枚一枚丁寧に描かれた絵本のような優しさを感じると書きましたが、恐ろしい魔女からさえもそのような優しさを感じるのは、絵が可愛らしいからという理由ももちろんありますが、そもそもストーリーそのものが、「誰も悪者にしない」という優しさで成り立っているのだなあと思いましたし、これもまた「スタジオジブリ」的な魅力、特に「千と千尋の神隠し」を思い出したりしました。
ところで、インターネットで発見したある人の感想に、自分の考えを押し付けてしまうお祖母さんと、人間の感情を奪って石にしてしまう魔女のマカは、どちらも決して悪意ではなくあくまで「相手のために」という気持ちで行動しているけれど、そのやり方が間違ってしまっているという、同じ方向性のキャラクターとして描かれているという説を発見しました。
そのブログによると、当てのためと思ってを子供や孫に気持ちを押し付ける過保護なお祖母さんと、自分の気持ちから逃げる父のコナーの親子関係と、相手のためと一方的に思って感情を石にする魔女と、それによって島にされてしまった巨人のマクリルの親子関係は、基本的には同じものとして描かれていて、また声優さんも同じだというのです。
これには、まさに目から鱗というか、なるほど!ととても感動させられてしまいました。
このように、ファンタジーをただの絵空事ではなく、私達の暮らすこの現実世界と地続きのものとして描いたことが、この映画がファンタジーとして優れている点なのだろうと思いました。
ちなみに、こちらのブログです。
「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた (Song of the Sea) ネタバレあり感想 受け入れてく、全部。 - きままに生きる 〜映画と旅行と、時々イヤホン〜」
と言う訳で、感想を色々書いてきましたが、最終的に人様のブログに便乗したところで締めくくろうと思います。
他にも、海の中を泳ぐ描写が物凄く美しいとか、登場する動物のキャラクターが物凄く可愛い(特にアザラシ)とか、妖精たちの歌が物凄く楽しいとか、クライマックスが物凄く感動的だとか、書きたいところは色々あるのですが、取り敢えずあとは自分の目で確かめてくれ!(もうレンタルもしてるので)ということで、ひとまず僕が感想を書くのはここまでにします。
最後に、非常に個人的な話ですが、僕が一番好きなアニメ映画が、杉井ギサブロー監督の「銀河鉄道の夜」で、何年経っても古くならずに、何歳になっても感動してしまうという、本当に永遠の名作アニメ映画だと思っているのですが、今回の「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」は、それに匹敵するくらい素晴らしいアニメ映画だったと思います!
と言う訳で、これを映画館のスクリーンで観るという体験ができて本当に良かったです!