3/24(金)に、ロシュディ・ゼム 監督「ショコラ~君がいて、僕がいる」を観て来ました。
ひとまず予告編はこんな感じです。
さてさてこの映画は、実在したフランス初の黒人コメディアン・ショコラと、白人コメディアン・フェティットのコンビの半生を描いた映画です。
このショコラとフェティットのコンビは、フランスでは伝説と言われるほどの人気だったらしく、この映画では、その二人がどうやって結成され、どういう人生を送っていったかが描かれます。
僕は予告編や「俺たちは、ふたりで一つだ。」というキャッチコピーを見た時に、この映画は黒人と白人のお笑いコンビが、人種差別に立ち向かいながらも、二人で力を合わせて活躍していく、ハートフルな友情サクセスストーリーなんだろうな、と想像していました。
しかし、実際に観た感想としては、確かにそういう一面もありますが、二人の関係は簡単に友情の一言で片付けられないほど複雑なものとして描かれているなあということが、印象的でした。
また二人の関係は、彼らを取り巻く時代背景の複雑さとも密接な関係にあり、決して明るいとは言えない時代に、自分たちも何が正しいのか分からないままもがきながら、苦しみ、時には傷付け合ってしまったりと、かなり暗いトーンで物語が進む場面もあります。
そのように、予告編から受ける印象と比べると、決して分かりやすい感動のストーリーにはなっていないところが印象的だったのですが、そういう深みのある人間を描いていてた部分こそがこの映画のいいところだと思いました。
まず、黒人芸人のショコラは、最初はカナンガという名前で登場するのですが、彼が黒人奴隷の息子であるという設定からして、この映画の舞台では、黒人奴隷制度の歴史がまだ色濃く残っている時代であることが分かります。
そんなカナンガは、サーカスで人食い族の役として働いており、未だに黒人差別が市民レベルで存在している時代であることが、もう最初の時点ではっきりと分かるのです。
同じサーカスで働く落ち目の白人ピエロのフェティットは、そんなカナンガと一緒にお笑いコンビを組もうと持ちかけ、カナンガはショコラと名前を変え、ショコラとフェティットのコンビはサーカスの人気者になります。
そんな二人は、ある日、パリの名門サーカス団から誘われてそこに入門し、連日満員となるほどの大人気となるのです。
と、このように書いていくと、感動のサクセスストーリーのようですが、決して物語はそんなに何もかもが順調には進んでいきません。
例えば、二人のサーカスの内容からして、実は白人のフェティットが黒人のショコラをバカにすることが笑いを生むという内容になっていて、人種の壁を超えて成功しているかのように見える二人もまた、人種差別の中にいるという矛盾がはっきりと描かれています。
また、二人が成功して売れていくに従って、二人の生活は幸せになっていくのかと思いきや、必ずしもそうではなく、例えばショコラは初めて手に入れた大金を車や酒やギャンブルに次々と使って、どんどん傲慢な性格になっていき、生活も堕落していくという、切なくなってしまう描写も登場します。
その一方で、ショコラは明らかな黒人差別の対象にも晒される一面もあり、ショコラの堕落の陰には、人気者でありながら差別の対象であるという非常に複雑な立場であるという背景が描かれます。
そんなショコラの相方のフェティットは、常にショコラを支える献身的な人間なのかと思いきや、決してそうではなく、相方であるショコラに対して「お前は俺のい言うことだけ聞いていればいいんだ」と自分の考え押し付けるような横暴な一面も登場します。
特に、二人の黒人差別的なネタに疑問を持ったショコラを、フェティットが抑え込もうとする描写は、二人の間に存在する心の壁や人種の壁を非常に際立たせるような展開だったなあと思います。
と言う訳で、この映画、予告編やキャッチコピーから感じられるような、二人の友情の物語では実はまったくなく、この映画のほとんどのシーンでは二人は実は常にすれ違い続けているのです。
正直、この映画はフェティットとショコラのコンビを、映画を観ながら思わず応援してしまうほど魅力的に描いているので、それ故に、そんな素敵な二人がずっとすれ違い続けて幸せになれない様が描かれ続けるのは、非常に観ていて切なかったです。
そんなこの映画のラスト、ネタバレを避けるために詳しくは書きませんが、ある、非常に切ない展開が登場します。
しかし、そんな切ないシーンの中で、本当にさりげない二人の演技と演出によって、あれ、もしかしてやっと二人は心が通じ合えたのかな…?と思わせる描写が登場し、僕は思わず泣いてしまいました。
何度も言いますが、予告編やキャッチコピーから感じられるような友情のサクセスストーリーを期待して観に行くと、ずっと裏切られ続けるんじゃないかと思うくらい、二人はすれ違い続けるのですが、最後の最後のほんのわずかなシーンでほんの少しだけ心が通じたんじゃないか…?とわずかに希望を持たせるさりげない演出。
それはもう、二人の人生にとって手遅れな友情なのかも知れないけれど、それでもその時の二人は、この映画の中で一番幸せそうなので、もしかしたら時間はかかったけれどやっと二人は幸せになれたんじゃないか?と思えたのです。
と言う訳で、分かりやすい友情の感動ストーリーをことごとく裏切った挙句に、最後により深みのある感動が味わえる、奥深い映画でした。
そして何より、これが実話だということに驚かされる映画でもあるので、本当に見応えがあって面白い映画でした!