12/4(金)、ユナイテッド・シネマ新潟で「滑走路」を観てきました。
新潟市内では、ユナイテッド・シネマ新潟のみでの上映。
予告編はこちら。
非正規雇用など現代の生きづらさなどを詠み、32歳で亡くなってしまった歌人、萩原慎一郎さんの歌集「滑走路」を映画化。
ある男女の、中学時代のいじめ、大人になってからの仕事や家庭のつらさなどを交互に描き、やがて、一人の少年の自殺が浮かび上がってくる…という物語です。
中学時代、いじめられっ子の少年、鷹野を助けた学級委員長は、今度は彼がいじめの標的になってしまいます。
そんな彼に密かに心を寄せていた翠は、少しずつ仲良くなっていきます。
一方、大人になった鷹野は、厚生労働省の職員となり、翠は絵描きとなっていました。
鷹野が自殺者について調べていた時、それがかつて自分を助けてくれた学級委員長だと気付きます。
いじめっ子を助けたら今度はいじめの標的になってしまう残酷な現実や、いじめの被害に遭い生きづらい学校生活の中で理解者の存在の大きさ、また、いじめの被害者が今度は加害者となる負の連鎖に巻き込まれてしまう悲しみ、その中で本当は好きな人を傷つけてしまった後悔などが中学パートでは描かれます。
一方、大人パートでは、自殺防止対策を激しく求める住民の気持ちを理解しつつも、上司からのプレッシャーの中で機械的に仕事を処理せざるを得ずに板挟みになる厚生労働省の若手官僚や、夫婦仲が冷めている中で妊娠してしまう女性など、大人ならではの生きづらさも描かれます。
要するに、子供も大人も生きづらい世の中であることが、とにかく痛烈に描かれるわけです。
中でも、若手官僚の鷹野が仕事中に、中学時代にいじめられた自分を助けてくれた委員長が自殺していたことを偶然知る、という場面は、子供の生きづらさを大人になったあらためて実感するという場面で、こういうことって実際あるよなあと思いました。
そこで鷹野は、自分が原因で学級院長は自殺に追い込まれてしまったのでは、と後悔し、亡くなった委員長の家族に会いに行くのですが、そこで「あなたは一生忘れずにいなさい」と言われる場面がすごく強烈に印象に残りました。
要するに、大人になれば子供時代のつらい過去はなくなるわけではなく、周りが忘れても誰かの中でずっと残るもの、続いていくものである、という意味であり、同時に亡くなってしまった人は二度と帰ってこないという意味でもあるなあと思いました。
一方、画家になった翠は、離婚寸前の夫との間にできた子供を堕ろそうか悩みます。
自殺と堕胎って、考えてみれば人間が生きる中でふと出会ってしまう可能性のある「死の選択」の代表的な2つであると思うし(本来、出会いたくはないものだけど)、その2つをあえて際立たせて、物語の中で描いているのかなと思いました。
また、中学時代にいじめっ子に言われて仲の良かった翠を傷付けてしまった委員長が、謝れないまま離れ離れになってしまいそうになるんだけど、その前に謝りに会いに行く、という場面も出てきて、そこも強く印象に残りました。
この映画では、自殺や堕胎など「人間の死」という決してやり直せない現実を描いていますが、同時に、生きている限りは人生をやり直せる可能性があることも描いていたのかなと思い、だからこそ、この場面は数少ない希望を感じる場面になっていました。
しかしこの映画が印象的なのは、物語が時系列に沿って進むのではなく、中学時代の回想シーンと大人になった現代を、交互に描いていきます。
こういう過去と現代を行ったり来たりする映画では「佐々木・イン・マイマイン」と似ていますが、「佐々木~」は現代で終わるから素直に感動しやすいラストなのに対して、この映画では中学時代という過去の回想シーンで終わるのです。
だから、一見希望を感じさせるラストも、実は物語の時系列では中学時代という過去の回想シーンに過ぎないわけです。
しかも、軽くネタバレになってしまいますが、一度は翠を傷付けてしまったけれどもう一度分かり合えた委員長というのも、時系列的にはそのあとで自殺してしまうことになっているので、感動していいのかどうなのか、正直どういう気持ちになればいいか分からなくなる映画なんですよ。
でも、思い返してみるとあのラストは、亡くなった人にもしっかり生きた時間があった、という意味だったのかなと思ったりもしました。
それは、自殺してしまったこの映画の原作者である歌人、萩原慎一郎さんへの追悼も込めてなのではないかと思いました。
そんなわけでいい映画だったので、原作である萩原慎一郎さんの「歌集 滑走路」が気になって買って読んだんだけど、こっちも想像以上に素晴らしくて、感動して泣いてしまったほどだったので、その感想はまたあらためて書いていきます。
それにしてもよく歌集から映画を作ったよ!そして新潟の本屋、映画化ドラマ化コーナーにどうして「滑走路」を置かないんだ!ジュンク堂でやっと見つけたけど、もっと目立つところで売ってくれ!