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7/13(火)、イオンシネマ新潟西で「1秒先の彼女」を観てきました。
予告編はこちら。
子供の頃から何をするにも人より少し早く、せっかちで生き急ぐ性格のせいか彼氏もできない女性主人公・シャオチー。
ある日素敵な男性と出会い恋に落ちるが、気付くと約束の1日が消えて24時間記憶が飛んでいた!?一体何が!?…というやや不思議な要素ありの恋愛ドラマ。
まず、最初は何をするにも人よりちょっと早いシャオチーの子供時代からの回想や、そんな主人公が仕事も恋愛もいまいちな毎日に奮闘する日常などを、テンポよくコミカルに描いていくので、それを見ているだけで結構楽しいんですよ。
主人公がせっかちだけど決して人を見下したり嫌みを言ったりしないし、いわゆるモテなくて冴えない女性ではあっても変に卑屈になったり毒づいたりしないし、子供時代に父親が失踪しているという過去があっても、前向きに楽しそうに生きているから見ていてとても気持ちいい人物です(個人的に、日本人俳優なら安藤サクラさんのイメージ)。
そんな主人公が気付くと記憶がないまま24時間が飛んでいて、その謎を追い始めると、意外な方向に話は進んでいきます。
そこで今までのさり気ない日常の中に、事件を解く鍵となる色んな伏線が込められていて繋がっていく感じは、ミステリーみたいで楽しく見ました。
その後、それまで物語にほとんど絡んでいなかったとある意外な人物が、実はもう一人の主人公として登場し、超重要人物として物凄く意外な形で絡んできて…
その先は、ああ、こういうタイプの映画だったのか!とマジで予想もできない方向に進んでいくんだけどこれ以上先はネタバレになってしまう!
しかし、ここから先こそが非常に物語の面白さの重要な部分なので、ネタバレなしで面白さが語りづらい映画なんですよね…
というわけで、ラストの結末だけは避けるという形で、ちょっとだけその終盤のクライマックスについて触れていこうと思います。
この物語の主人公、シャオチーは郵便局で働いているのですが、毎日何故か自分の窓口に手紙の配達を頼んでくる謎の男が登場します。
しかし、シャオチーはたまたま町で出会ったダンス講師の男と出会って恋に落ち、二人で「七夕バレンタイン」のイベントに出演しようとします。
この「七夕バレンタイン」、調べてみたら、台湾では七夕はバレンタインのようにカップルのイベントとして様々な催し物が開催されるそうです(個人的に、彦星と織姫が再会する日なので実際のバレンタインより恋人イベントには向いている気がする)。
この映画の中では、「七夕バレンタイン」にはカップルが出し物を披露するイベントが開催されるのですが、一緒にダンスの練習をして出場しようと家を出るも、気付くと翌日の朝になっていた…というのが、この映画の最初の不思議な出来事。
不思議な出来事に戸惑うシャオチーは、幼少期に失くした謎の鍵を発見し、それがどこかの私書箱の鍵ではないかと気付く。
そして、毎日自分の窓口に訪れる謎の男性が、手紙を送っている私書箱の鍵がそれであると気付き、そこに謎を解く鍵があるのではないかと思い至る。
しかし、その日から謎の男は郵便局に現れなくなる。
そこで、シャオチーは自力でその私書箱のある郵便局を探す旅に出るが…
ここで、物語はもう一人の主人公の視点から語られ始めます。
それは、毎日シャオチーの窓口から手紙を出している謎の男、グアタイ。
実は彼は、幼少期にとある事故で両親を失い、入院した際に、同じ病室で自分を勇気づけてくれたシャオチーを想い続け、当時の約束をずっと忘れずに生きていました。
そして、大人になってバスの運転手となった彼は、たまたまシャオチーと再会するも気付かれず、自分から言い出すことも出来ずに、彼女にとある想いを伝えるために、毎日手紙を彼女の窓口から送り続けていたのです。
しかし、そんなグアタイは、シャオチーとは対照的に、幼少期から何をするにもワンテンポ遅くて、人生を損してばかりいる人物。
だからシャオチーに想いを伝えようにもいつもタイミングを逃してしまう…正直、ちょっと共感できてしまう人物だなあと思いました。
そんなある日、予想外の事件が起こります…
はい、ここからさらにネタバレしていきますよ!
七夕の日、グアタイがいつものように家を出ると、なんと町の中のあらゆる人物や車、都市機能の動きが、まるでビデオの一時停止のようにぴたっと止まっているではないか!
何が起こっているか分からない彼は戸惑いつつも、ずっと気持ちを伝えられなかったシャオチーに会いに行きます。
しかし、当然シャオチーも時間が止まっています。
そこで、彼はバスにシャオチーを乗せ、ずっとデートしたいと夢見ていたビーチへと連れて行くのです。
ここで、物凄く下品な例え話をしてしまいますが、日本には「時間が止まる」というAVのシリーズがあります。
そのAVでは、時間が止まって女性達が動かないのをいいことに、AV男優がエロいことをやりたい放題という、下品極まりないものなのですが…(まあ、AVなのでそれは仕方ない)
そんなAVのイメージでこの映画を観ると、あまりに純朴なグアタイに心が浄化されます。
時間が止まっても決して犯罪を行ったり、シャオチーや他の女性達にエロいことをすることなく、ずっと好きだったシャオチーと憧れのデートをする。
たとえ相手の時間が止まったままだったとしても、2人でいられればそれでいい。
そんな気持ちが感じられるようで、微笑ましさの中に切なさもある場面です。
ところで、この「時間が止まる」という展開、本当に突然起こるので、映画を観ていて「え!そういう映画だったの!?」と驚くのですが、突飛な展開にもかかわらず、違和感なく観客に信じ込ませるような工夫がこの映画にはたくさんあったと思います。
例えば、シャオチーが自分の恋愛相談をラジオの生放送に電話で話すという場面があるのですが、この場面では窓の外にラジオDJが登場するという、映画というより演劇のような演出が印象的に登場します。
また、シャオチーが物語の文字通り鍵となる、幼少期にグアタイからもらった郵便局の私書箱の鍵を発見するという場面では、家の中に突然擬人化したヤモリが登場して鍵を渡すという、ヤモリは矢守、家を守るという台湾の伝説にちなんだファンタジー的な超展開が突然起こったりします。
どちらの場面も不思議な演出ではありながらも、ちゃんと見ていて引き込まれるものになっているので、後半の時間が止まるという超展開にも自然に引き込まれることが出来るのです。
この、時間が止まるという現象の謎は途中まで謎のままなんですが、途中で意外な答えが明かされます。
はい、ここからさらにネタバレをします!
グアタイが時間が止まったままのシャオチーをバスに乗せて帰る途中で、なんともう一人、グアタイのように動いている人物が登場します。
その人物曰く、世の中には時間がワンテンポ速い人間と、ワンテンポ遅い人間がいる、そしてワンテンポ遅い人間には、人よりずれた時間の分、周りの時間が止まって自分だけが動ける日が時々訪れる、というもの。
さっきも書きましたが、僕も人よりワンテンポ遅くて悩む部分があるのでグアタイには共感できる部分があったのですが、そういう人間だからこそ、この設定にはちょっと救われるものがありました。
人よりワンテンポ遅くて損ばかりの人間にも、そういう人間だけが、他の人達より得られなかった時間の分も生きられる時間がある、そう思えば、決して悪いものばかりではないなと思いました。
ちなみに、この時間の謎をグアタイに教えてくれる人物が、物語に登場するとある謎に対する伏線回収となる意外な人物なのですが…ここは書かないでおきます。
人より遅い生き方しか出来なかった人間だからこその悲しみと、そんな人間だからこそ得られた出会い…弱い人間に対する救いがあるように感じられましたね。
そして、再び時間が動き出したあと、シャオチーとグアタイの迎える結末とは…
ここも詳しくは書きませんが、あえて書くのであれば、生きる時間の速さのズレから時間が止まるというかなり突飛な設定や予想外の展開の連続のファンタジーでありつつも、その中で描かれる人間ドラマは「生き方が違っても、何度すれ違っても想い続けていればいつか分かり合える」という、素直に感動できるストレートに感動できるいい映画だったなあと思います。