秘
告発状
告発人 ○○市○○町○○通○丁目○○ ○○○○
被告発人 北一輝 西田税
不敬罪ノ告発
告訴ノ事実
一 〔省略〕
二 然ルニ被告人北一輝、西田税ハ欧米ヨリ輸入シタル不逞極マル民主思想ニ●ズレ「日本改造法案大綱」ナルモノヲ著シテ最モ兇悪ナル民主々義ニヨル皇国ノ革命ヲ企図スルコト既ニ十数年革命ノ手始メトシテ先ヅ天皇ノ皇軍ヲ己レニ革命奪取シ此ノ武力ヲ以テ皇国ノ兇悪民主革命ヲ為サントシ皇軍将校内ニ巧妙ニ潜入流布シ表面国家主義ヲ粧ヒテ国体観念明確ナラザル将校ヲタブラカシ宗教ニ結ビツケテ宗教的邪信ト親分乾分的契リトヲ以テ批判能力ヲ喪失シタル盲信ト順逆ニ拘不離ルベカラザル絶対服従ノ兇徒ト化シ不逞民主革命ノ使徒走狗タラシメ「汝等ヲ股肱ト頼ム」トノ有難キ御信倚ヲ辱クセル皇軍将校ヲ己レノ股肱トシ天皇絶対ニアラズシテ己レ絶対タラシメ天皇親率ノ下皇基ヲ恢弘シ国威ヲ宣揚スベキ神聖任務ニ生クル皇軍将校ヲシテ被告発人等親率ノ下皇基破壊国威失墜皇軍革命奪取ノ先陣タラシム
斯クテ天皇親率ノ皇軍内ニ被告発人ノ「日本改造法案大綱ニ依ルニ非ズンバ統帥命令ト雖モ肯ゼズ」ト狂号スル将校ヲ生ズルニ至リ而モ該書ハ今尚続々トシテ全国青年将校間ニ密送セラレソノ使徒走狗養成ニ狂走シツヽアリ
現今ニ於ケル皇軍内ノ一切ノ混乱、対立、相剋、無秩序、無軍紀ガ総テ被告発人等ノ煽動ニヨリテ起サレツヽアルハ周知ノ事実ニシテ永田中将ヲ暗殺シタル相澤中佐ノ軍法会議ニ於ケル陳述ヲ見ルモ被告発人等ガ如何ニ深刻ナル統帥破壊ノ陰謀煽動ヲ為シツヽアルカヲ認識シ得ベク而モ皇国未曾有ノ危機逼ル当今一瞬ヲ空シクシテ皇軍ヲコノ儘ニ放置センカ皇軍ハマサニ革命崩壊ニ陥ルベク皇国亦遂ニ崩壊革命ノ外ナカルベシ皇軍唯一ノ支柱タル皇軍ヲ崩壊ノ危機ヨリ救済スルハマサニ焦眉ノ急務ナリ
三 被告発人北一輝西田税ハ其ノ著「日本改造法案大綱」(北一輝著西田税発行)ニ説イテ曰ク
イ. 国民ガ本隊ニシテ天皇ガ号令者云々……十四頁
ロ. 日本天皇陛下ニノミ期待スル国民ノ神格的信任ナリ……十四頁
ハ. 日本国体ハ三段ノ変化ナセルヲ以テ天皇ノ意義又三段ノ変化ヲナセリ……四頁ー五頁
第一期ハ藤原氏ヨリ平氏ノ過度期ニ至ル専制君主国時代ナリ此ノ間理論上天皇ハ凡テノ土地ト人民ヲ私有財産トシテ所有シ生殺與奪ノ権ヲ有シタリ
第二期ハ源氏ヨリ徳川ニ至ルマデノ貴族国時代ナリ此ノ間ハ各地ノ群雄又ハ諸侯ガ各々其ノ上ニ君臨シタル幾多ノ小国家小君主トシテ交戦シ連盟シタルモノナリ従ッテ天皇ハ第一期ノ意義ニ代フルニ此等小君主ノ盟主タル幕府ニ光栄ヲ加冠スル羅馬法王トシテ国民信仰ノ伝統的中心トシテノ意義ヲ以テシタリ 此ノ進化ハ欧洲中世史ノ諸侯国、神聖羅馬法王ト符節ヲ合スルガ如シ
〔以下省略〕
四 被告発人等ハノ執筆発行ニ係ハルト思惟セラル左ノパンフレツト
「順逆不二之法門」(昭和十年配布)ニ説イテ曰ク
〔以下省略〕
五 告発人ハ畏クモ明治天皇ヨリ下シ給ヘル軍人勅諭ヲ奉戴シ挺身奉公ノ誠ヲ尽サントスル皇国軍人ニシテ被告発人北一輝、西田税ハ刑法第七十四條ニ該当スル不敬行為ナリト思惟スルモノナリ
六 「順逆不二之法門」ハ日本改造法案参考文「第三回ノ公刊頒布ニ際シテ」……一五二頁「支那革命外史序」……一八七頁ー一九〇頁等ノ記述並ニソノ文意及作文形式等ニヨリテ被告発人ノ著作及ビ発行ニ係ルコト明白ニシテ又無届出版タルヲ推知シ得ルヲ以テ出版法第三條違反ニ該当シ更ニ同第二十四條第二十六條ノ行為ナリト思惟スルモノナリ
七 皇国ノ支柱タル皇軍マサニ被告発人等ノ為メ革命崩壊ノ危機ニ瀕シ皇国ノ前途深憂ニ堪ヘザルノ時被告発人北一輝、西田税ヲ疾風迅雷的ニ御審訊ノ上厳重其ノ処分相成度此段及告発候也
證據
一、日本改造法案大綱 一
一、順逆不二之法門 一
昭和十一年二月二十四日
告発人○○○○
東京刑事裁判所検事局
検事正 猪股治六殿
上申書
○○市○○町○○通三丁目三十九番地
○○○○
東京刑事裁判所検事局
検事正 猪股治六殿
今般北一輝、西田税両名を不敬罪として告発致しました真意を申上げます
私は在郷軍人でありまして明治天皇より賜はりました勅諭を奉戴し一死君国に殉ずる覚悟を以て皇国の現状に深憂を抱いておる一人で御座います
〔以下省略〕