蔵書目録

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『朴烈文子 怪写真の真相』 (1926.11)

2018年05月10日 | 二・二六事件 3 回顧、北一輝他

 表紙には、「朴烈文子怪写真の真相」とある〔右上に「秘」の赤い角印のあるものもある。〕。18センチ、112頁。発禁処分:大正十五年 〔一九二六年〕 十一月八日。

 ・口絵 〔写真3枚〕

     

 〔上左〕

 この写真は……
 椅子に腰掛けてゐる朴烈が、予審終結決定書を読んでゐる文子を、左の膝に腰かけさせ、そして、朴烈が自分の左手で、軟らかく膨らんだ、文子の乳をいじくつてゐる所である。
 本写真原版は縦二寸五分二厘横一寸八分五厘のものを拡大されたものである。

  
 〔上中〕

 予審終結決定書(本文参照)

 〔上右〕

     註
  十月のよく晴れし日の朝まだき彼の友は逝けりギロチンの下に
  先に行つて貴君達を待つてます壁越にかく彼はいへりき
  何時なりけんふと廊下で会ひやといひて、握手交せし事もありしがその時に傍らに付いてゐた看守の可かぬゝと顔をしかめしかも
  雲出てゝ風の冷たき秋の朝空に飛び交ふ飛行機のある
  空に飛ぶ飛行機を見てふと思ふ飛行機乗りにテロはなきか

 発行の辞

 天下憂国の諸君、私はここに所謂怪文書なる一文を以て国家の重大事件を、諸君に伝へるの光栄を有す。
 諸君、先進文明国の如く我が日本に於ても、言論の自由が尊重され、正々堂々言論を以つて天下に事理曲直を正す事が出来るならば、私は敢て法律に触るるの危険を犯してまで、怪文書を発行しやうとは思はない。しかし現代の日本に於ては、政府の都合の好い事なれば論外、聊かでも政府の批政、醜悪を指摘する言論であつたならば、如何に憂国の至情に燃ゆるところの叫びであつても忽ち官憲より禁止解散の圧迫を蒙らなければならない。であるから、絶対言論の自由が許されない限り、政情を糾弾問責すべき国家の重大事を、一般国民に伝へる方法としては、この怪文書なるものに因るより他に道がないのである。
 諸君、今後怪文書が頻出して、社会秩序を紊だし、国家を毒するものがあつたとしても、それは決して発行者の罪悪でなくして言論の自由を保證せざる政府当局の責任であると断言する。
 さて、私は諸君に伝へんとする国家の重大事とは、現下天下の問題となつてゐるところの、朴烈文子の所謂怪文書に就いてである。この事件に関しては、既に政治的法理的には専門の学者によつて論議され、また各方面の権威ある知名の識者に、厳正なる批判されてもゐる。また責任ある諸君によつて政府糾弾問責演説会が屢々催され、国民大会まで開かれもした。しかし一般国民が其の何れによつてでも、そもゝこの問題の主因となつた、朴烈文子の怪写真の真相を知る事が出来ないために、怪写真に因つて曝露された国家の大事も、単なる政争のために騒ぐものとしか思はないのである。殊にこの問題に対して発した司法省の声明書及び一大期待を持つた立松前判事の声明書は、共に国民を欺瞞する虚構捏造のものであるにもかかはらず、事件の真相が解からないために、国民より看過し去られんとするは実に遺憾至極である。私は、事茲に想到して、朴烈父子の写真とは如何なるものか、そしてその写真が添附されてあつた文書には如何なる事が書かれてゐたか、このれによつて如何なる件々が誘起されたかの詳細を知らせるの必要を痛感したのである。倖にして本書により一般国民が、この事件の真相を知らされたならば、政党政派を超越して、恬然赦さぬ失政を重ね、いたく社会人心を動揺せしめながら、何等国民に謝意を表示しないばかりか、政権に恋々として国家を○○の危機に導く、斯る現怪内閣に対して、速かに引責処決を促し、国民の向ふところを明かにされるならば、邦家のため、私の本懐之れに過ぎない。以上蕪言を弄して怪文書発行の辞に代ふ。  

 今日の重大事を誘起した怪文書の原文

  単なる一片の写真である。
 此の一写真に万人唖然として驚き呆るゝ現代司法権の腐敗堕落と、皇室に対する無視無関心なる現代政府者流の心事を見ることが出来る。
 此れは大逆犯人朴烈と文子の獄中写真である。此の足袋と此の草履とは監獄だけに存する刑務所の支給品である。日本の東京の真中で、監獄の中で、人も有らうに皇室に対する大逆罪の重大犯人が、雌雄相抱いて一種の欲感を味ひつゝ斯んな写真を写せる世の中になつたのだ。日本の司法権はな斯これほど滅茶苦茶になり、司法部の役人共には皇室の尊厳も安危も一向頭になくなつてしまつたのである。
 どの室で誰が取つた写真であるかを問ふ要もなく、又誰に責任を負はせうかと調査を厳命するにも当るまい。予審判事や刑務所長や看守等の三人五人の首を切つたとて此の写真が已に不逞鮮人の各所に渡つて居り、今頃は已に露西亜政府の極東宣伝部の許に届いて居るだらうから、何事も後の祭である。成人が見たとき吃驚して此れはレニン政府が飛行機に乗つて映したのかと問うたそうな。正に是れ江木司法大臣閣下の発しそうな疑問である。
 或者は上品な春画写真だ、これならば禁止になるまいと言つたそうな、一見春画と誤られる如き風態をして恥とせざる当人同志は論外である。已に未決監にしろ、日本帝国の刑務所ではないか。正当な夫婦でも、純真な愛国関係者でも、獄窓に繋がれて居る間は男女的交渉が許さるべきものではない。而も爆裂弾を以て皇室に危害を加へんとした二人ではないか。露西亜だらうが亜米利加だらうが、刑務所長や予審判事様の御取持で、獄窓の中で鴛鴦の懽会を楽しみ得る楽園天国が何処の監獄にあるだらうか。-理由は唯一つ、則ち大逆犯人であるから刑務所でも最大特権を附與しなければならぬといふ司法省の方針が、下級官吏に伝達さるゝに従つて終に春画写真となつたのである。
 或る未決に居た一労働運動者(名を秘す)が不起訴になつて出て来た。彼は敬意か同情かを寄せて居る朴烈と文子とを彼の鐵窓より眺めることが出来た。金子文子の出入の時の如き幾人かの女看守が女王殿下に対する如き敬礼をなしつゝあるのを見た。朴烈が悠然傲然として通るのに看守等が従者の如く随つて歩いてるのを見た。彼は不幸にも司法高官の内命によることを知らず、自ら飛んでも無い信念(?)を固めた。吾々のやうな小ッポケなことでは何処に行つても馬鹿にされるだけだ。どうせやるならばデカイ事に限る。×××××××××××××××××。オレは朴烈文子を見て×××××××××××××××。オレは朴烈を見て×××××××××××××××。(何たる恐るべき影響を当時の在監者幾百人に與へたことか!)
 〔以下省略〕

 なお、もとの怪文書について、次の記述がある。

 右の文書は、巾五寸五分、長さ二尺(鯨尺)の印刷紙に、最初に巻頭一の写真を添付し、一行抜きの距離で、五号活字三十九字詰七十三行にわたって書かれたものあつた。
 これを七月二十九日の夕ー晩かもしれない、兎に角新聞の夕刊がしめ切り後ーに各所へ発送されたらしく、翌三十日の朝刊報知新聞に、二号活字三段抜きにて左の如く掲載された。

 参考

  

 :下の文は、大正十五年十月二十日発行の「法律新聞」第二千六百四号に掲載されたのものである。

 朴烈文子事件の真相発表

 朴烈文子怪写真事件に付きて司法当局は其影響各方面に重大なるものあるを以て去る十三日付左の如き内容の真相を発表せらる。

 第一 準植及文子の被告事件の顛末

 第二 準植及文子の写真を添附したる秘密出版物頒布の経過

 (一)事実の経過

 ニ 添附に係る該写真は大正十四年五月二日準植及文子等の被告事件を担任せる東京地方裁判所予審判事立松懐清が同裁判所予審第五号調室に於て撮影したる写真を拡大複製したるものに係る而して同判事が右写真を撮影するに至りたる主たる動機は同判事の始末書等に徴すれば該事件は刑法第七十三條の罪を構成すべき重大なる案件なるを以て日夜心血を●(そそ)ぎて之が審理に当り幾多の日子を費したる所漸にして事実の真相を明にすることを得其の手続終結に近きたるに因り斯る稀有の案件を再び処理するの絶無なるべきことを思ひ回想の資として自ら是を後日に残さむが為監督官其の他に何等謀ることなく専ら独自の思料に依り被告人両名の写真を撮影せむとしたるものにして先づ同人等を別異の椅子に座せしめ焦点距離を測定し将に撮影せむとするに当りて被告人文子は突如として被告人準植の椅子に移りて併座し同時に準植は其の左手を被告人文子の肩に掛けたるに因り之を制したるも同人等は之に応ぜざるに不用意にも其の儘撮影したるものなり
 三 該写真は現像の上同判事の手許に保管せられたろが其の後被告人準植を訊問せるに際し其の請に因り之を示したる所同人は隙を窺ひ巧に入手したるものとす
 四 該写真は其の後市谷刑務所内に於て同年七月七日付予審決定謄本其の他の紙片等と共に巧に監視を脱し隠密の裡に同所に収容中なりし被告人某の手に交付せらるゝに至り同人は同年十月二十九日保釈出監に際して窃に之を刑務所外に帯出したるものとす而して今般準植及文子の写真等が世上に頒布せらるゝに至りたる径路等に関しては尚取り調べ中に属す

 (ニ)前掲の事実を断定したる理由

 附記 本年九月一日の公表後取調の結果に依り該写真は市谷刑務所内に於て雑役夫小林七四郎の手を経て被告人某に交付せられたること判明したり

  第三 準植の待遇に関する事項

  第四 関係官吏の責任



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