第二
サロメ(妃ヘロヂアスの娘) 松井須磨子氏
ヘロド、アンチパス(猶太王) 倉橋仙太郎氏
ヨカナアン(預言者) 澤田正二郎氏
ナアマン (首斬役) 鎌野誠一氏
若きシリア人(近衛の大尉) 中井哲氏
妃ロヂアスの扈従 宮島又雄氏
カツパドシア人 波多●譲氏
第一の兵卒 田中介二氏
チグルリヌス(若き羅馬人) 田那若男氏
第二の兵卒 酒部良一氏
第一のナザレ人 花田幸彦氏
第二のナザレ人 渡邊秀雄氏
第一の猶太人 小川落葉氏
第三の猶太人 駒山草二氏
ヌビア人 宮路千之助氏
第二の猶太人 中田正造氏
第三の兵卒 花岡染雄氏
第四の兵卒 水野秀次郎氏
黒人 倉若梅二郎氏
同 井上清氏
同 玄哲氏
同 竹内慶雄氏
ヘロヂアス(猶太王の妃) 波野雪子氏
サロメの侍婢 小野しをり氏
同 川路歌子氏
同 松田久野氏
同 勝山御代子氏
オスカー、ワイルド作
中村吉蔵訳
第二 悲劇 サロメ 一幕
『猶太王ヘロド、アンチパスの宮殿』
ヘロド王の宮殿の高台に、衛士四五人、王が内殿に酒宴の間を見張りの態、処へ王妃と先王との間に生れた姫サロメ、王が屡々厭らしい眼を向けるのを嫌つて、酒宴の席を遁れ来て、空井戸に捕へられて居る預言者ヨカナアンの声をきゝ、それを連れて来させる、生き乍らの墳墓とも云ふべき処から出されたヨカナアンは、盛に姫の母なる王妃の悪行を罵るけれど、サロメは之に耳を假さず、預言者の奇しき美に情を動かし、放膽な言葉を吐く、ヨカナアンは之を叱して再び空井戸に入る、王、王妃を携へて登場し、サロメに舞を所望する、サロメは王より、その望むものは、例令国の半なりと與へるとの約を得て、七面紗の舞を舞ひ、終つてヨカナアンの首を所望す、王はそれだけはと、他のものと替へん事を請ふけれども、サロメは聴かず、刑吏を送つて、首を斬らせ、やがて、銀の大盤にのせて首を持ち来るや、否や忽ち其の唇に接吻す、王は怖れ、且つ怒り、『此女を殺せツ』と叫べば、兵卒突進して、盾の下にヘロヂアスの女ユデアの皇女サロメを圧殺す。
以上は、大正二年十二月の 帝国劇場 絵本筋書 の一部である。
上左の2枚の写真は、大正四年 〔一九一五年〕 六月一日発行の『淑女画報』 第四巻 第六号 に掲載されたものである。
サロメ三人(須磨子嬢ー貞奴夫人ー京子女史)
サロメ三人(其一)〔上左〕
(松井須磨子嬢の扮したるサロメ)〔写真中の右〕
新古典劇『サロメ』はイギリスの詩人オスカー・ワイルドの傑作で、材を聖書の旧約全書中から採つたもので、官能派の代表的戯曲であります。美と感覚の権化たる猶太 ユダヤ の女王サロメは、一夕預言者ヨカナァンの月のやうに冷徹した声を聞き、豊麗な肉体に魅せられて忽 たちま ちその虜となり、遂ひに王に請うて其の首を求め、官能の爛酔 らんすい の中に満足して死ぬといふのが一篇の筋であります。
〔ヨカナアン サロメ〕〔同〕
(川上貞奴夫人の扮したるサロメ)〔写真中の左〕
青い酔つたやうな月光のシムホニーの中に幻の如く点出されて来る古代ユダヤの静整 せいせい した情景を背景にして、最も近代的な悪魔のやうな女王サロメの舞ひと歌とは看客 かんきゃく を恍惚たらしめずには措 お きません。美と醜、善と悪との交錯した不可思議な幻影の中に官能の勝利に謳歌し、同時に其の敗滅に慄 をのゝ くやうな、奇しき夢に誘ひこまれるのが此の戯曲の特色であります。
サロメ三人(其二)〔上中〕
(下山京子女史の扮したるサロメ)
最近、東京に於ては京子、須磨子、貞奴の三女史が前後して此のサロメを演じてそれゞ特色を発揮しました。聞けば、木村駒子女史もサロメを演ずるとか、サロメばやりの時に当つて本誌がサロメ 人を紹介するのも意味なき事ではないでせう。
上右の1枚の写真は、矢吹高尚堂製の絵葉書のものであり、下の説明がある。
帝国劇場第五十六回興行悲劇(サロメ)ヘロツド王宮殿の高台
サロメダンス(天勝嬢演)
オスカーワイルドの傑作戯曲『サロメ』は日本でも近来に至りいろゝの人によって演ぜられ、非常に有名になりました。之は最近、有楽座に於て松旭斎天勝嬢の演じたサロメであります。
サロメは猶太王妃のつれ子で、今では王女でありますが、或る夜預言者ヨカナアンの冷徹な声を聞き、豊麗な肉体に魅せられて、忽 たちま ち其の擒 とりこ となります。処が、一方猶太王はサロメ 艶な容姿 すがた を愛し、一夕、サロメの得意なダンスを所望し、其の代りに何でも望み通りのものを與へると約します。そこでサロメは七つのヴェールの舞といふのをまって、ではヨカナアンの首を下さいといふ。-本図はサロメのダンスと窈姚たるその容姿とであります。
上の写真2枚と文は、大正四年発行の雑誌 『淑女画報』 第四巻 第八号 に掲載されたものである。
上の写真2枚は、本郷座の絵番付の一部内容である。
大正四年五月八日 午後三時三十分開幕
第一 廣津柳浪氏脚本 『目黒巷談』五幕
藝者●次 川上貞奴
第二 オスカー、ワイルド作 松居松葉氏譯 『サロメ』 壹幕
ヘロド王宮殿の一部
ヘロド王 五味國吉郎
妃の小性 木下吉之助
善きシリア人 ナラホット 山本嘉一
マナッセー 宮田八郎
オシヤス ●川菊之助
イサカデー 松本要二郎
ユダ 東辰夫
カパドシアン人 後藤良介
ローマの使者ジグラス 岩田祐吉
使者 久保田甲陽
奴隷 若松紫翠
同 石川正三
侍● 下田猛
同 竹内一陽
兵士 戸塚吉郎
音楽師 ●田松吉郎
黒奴 山田巳之助
首切役人 ナーマン 谷富一
ユダヤ人 小河幸雄
同 武村新
同 村田武郎
同 岸一夫
兵士 十五人
音楽師 六人
奴隷 七人
侍● 十人
預言者 ヨカナアン 井上正夫
侍女 一ツ橋龍子
同 原秀子
同 佐藤定子
同 川上春●●
王妃 ヘロドダス 河合武雄
王女 サロメ 川上貞奴
第三 室町明人氏作 『お國と山三』 壹幕
出雲のお國 川上貞奴
春木町 本郷座 座主 松竹合名会社
観劇料 特等 御壹名 金壹圓八拾銭 一等 同 壹圓六拾銭 二等 同 壹圓三拾銭 三等 同 金八拾銭 四等 同 金六拾銭 五等 同 金三拾五銭
初日金四拾銭均一
上左:木村駒子のサロメ 大正四年九月一日発行の『女の世界』 1巻 5号 の口絵にあるもの
上中:松旭斎天勝嬢 絵葉書のもの
上右:邦楽座、五月信子のサロメ 大正十五年十一月一日発行の『写真タイムス』 十一月号 第二巻 第十一号
日本一のバンパイヤ、吾が五月信子のサロメ、それこそ日本一です。おゝ、ヨカナアン、ヨカナアン!恋人ヨカナアンの首を抱いて狂ひ叫ぶサロメ、人の心に迫り、鬼気を呼ぶ、凄惨な狂恋の叫声、美しき瞳は裂けよと計りに恋人の首に見入るサロメ。蠢惑 こんわく 的な信子の姿態に、美しきサロメの狂態に、見物は死せる如く酔ひ、澱 よど める水の如く静まり切つてゐます。
帝国劇場 大正八年二月十五日より
サロメ 一幕 オスカー、ワイルド作 中村吉藏訳
第四 猶太王ヘロド、アンチパスノ宮殿
一 サロメ(妃ヘロヂアスの娘) 河村菊枝
一 ヘロド、アンチパス 森英治郎
一 ヨカナン(預言者) 加藤精一
一 ナアマン(首斬訳) 澤村い十郎
一 カッパドシア人 白崎菊三郎
一 第一の兵卒 小柳京二
一 チグルリヌス(若き羅馬人) 林幹
一 第二の兵卒 高木茂
一 猶太人 澤村遮莫
一 第一の猶太人 助高屋助藏
一 第二の猶太人 澤村開幸
一 第三の猶太人 澤村藤橘
一 第四の猶太人 松本治松
一 ナザレ人 尾上幸雄
一 第一のナザレ人 澤村春十郎
一 第二のナザレ人 澤村國次
一 ヌビア人 澤村宗次
一 ドレイ 尾上松藏
一 ヘロヂアス(猶太王妃) 村田嘉久子
一 廷臣 澤村宗彌
一 同 澤村小槌
一 サロメの侍婢 白井壽美代
一 同 橘薫
一 同 櫻井八重子
一 同 山崎里子
一 同 草間錦糸
一 同 瀧澤静子
一 同 櫻木花枝
帝国劇場管絃楽部員
PROGRAM 新京極 歌舞伎座
トンボ会第六回替連鎖劇
当る大正四年八月十九日正十二時開演
近代劇 実演サロメ トンボ会一行 新加入女優阪本しづ馬 出演
連鎖劇 芸者の意気地
場割
一番目 芸者の意気地
二番目 近代劇 サロメ
扮装人名
一 猶太王 ヘロドアンチパス 原田好太郎
一 預言者 ヨカナアン 國松一
一 ヘロデアスの娘サロメ 新加入女優 阪本しづ馬
歌舞伎座