斎藤秀俊の眼

科学技術分野と水難救助、あるいは社会全般に関する様々な事象を一個人の眼で吟味していきます。

今朝の新潟日報一面

2015年12月08日 01時21分40秒 | 斎藤秀俊の着眼
今朝の新潟日報の一面の記事

びっくりしたのは、何で今頃になってこのような話題が提供されるのだろうと。米軍から大学等に対して研究費が支給されているという事実はだいぶ前から五月雨的に扱われていて、かなりしっかりと解説されているものもあります。
昨年は、東大独自ルール「軍事忌避」に反旗というタイトルで東大の例が報道されており、「そうか、東大が研究費を受け入れていたんだ」と思い込みを叩かれたようなショックを受けたものでした。研究している立場からすると、しょっちゅうこのような内容がマスメディアに取り上げられてるので、「なぜ今朝の朝刊に?」とびっくりだったわけです。

米軍と一言でくくるけれども、
合衆国陸軍(US Army)
合衆国海軍(US Navy)
合衆国空軍(US Air Force)
合衆国海兵隊(US Marine Corps)
合衆国沿岸警備隊(US Coast Guard)
からなっており、それぞれ次の研究所を抱えています。

US Army Research Laboratory (ARLと呼んでいます)
U.S. Naval Research Laboratory (NRL)
Air Force Research Laboratory  (AFRL)
Marine Corps Warfighting Laboratory
Navy and Marine Corps Corporate Laboratory
Coast Guard Research and Development Center

アメリカの大学などの研究機関では、こういった研究所から共同研究の申し込みもあるし、研究所がコンソシアムを組んでオブジェクトオリエンテッドで軍事応用研究を進めています。

私が勤務していたPennsylvania State University (PSU) でも軍研究所との共同研究が盛んでした。Materials Research Laboratory (PSUの材料研究所)は特にNRLとの共同研究が古くから盛んで、たとえば超音波ソナーの音響素子などの分野で大きな成果を得ています。日本の大学にもそれなりの金額が準備されてきているようですが、20年前に私がPSUに勤務していたころでさえ、金額が桁で違いました。

米軍研究所の研究者は、先日のMRSにもたくさん来ていました。世界中の研究者の研究情報を集めて、応用展開が期待できそうな研究を行っている研究者に接触をします。別に軍関係者じゃなくても、当たり前にみんな興味のある分野の研究者に接触しますが。共同研究でさらに発展させようというときには、軍研究所が準備する研究予算に予算申請をしてもらい、当たれば研究が始められます。もちろん、日本の科研費と同じで、採択されなければ研究費はもらえません。

日本の大学の場合には、私が知っている限りで、米国本国の研究所から在日米軍の事務所を通じて声がかかり、まず、コーディネータが調査にきます。コーディネータの調査結果と本国の要望がマッチすれば、研究予算の申請という手続きになります。

因みに、私がPSUに勤務していたときに、ある大きなプロジェクトが走っていました。私にも声がかかり、「プロジェクトに参加するなら、研究費と給料をそこから出す」といわれましたが、断りました。テーマがもろに大量破壊兵器に関することだったからです。

アメリカにいたころは、プロジェクト名からそれがすぐにわかるようにしてあるテーマが目立ちました。ある意味、その研究の意味を知ったうえで参加する、しないの意思を明確にできるようにしてあると感じていました。ここが重要だと思います。軍事関係研究といっても、平和を維持するための研究から、大量破壊兵器に関する研究まで千差万別です。自分のかかわる研究の意味を理解してから参加することが重要です。単に「研究費がほしいから」とか、「生活のためにやむを得ず」は言語道断で、軍事研究に従事するからには、その結果を想像する力が必要です。アメリカで研究生活を送り、人生の指針を作った中に、軍事研究に関する一貫した考え方を形成できたことは本当によかったと思います。

帰国してから、在日米軍のコーディネータと話をする機会が何度かありましたが、「重要な研究テーマは日本に出すわけないよ。だって日本の大学の先生は何でもペラペラしゃべちゃうから。」だと。私もペラペラしゃべってしまったほうで、米軍の研究費はいただいていません。昔の企業の方々も同じ事を申しておりました。最近だいぶ口の堅い先生が多くなってきているとは思いますが。。。





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