海と緑とこどもたち HONDA ECOACT

地域にこどもたちと自然とのふれあいの場をつくろう!

空飛ぶ漁師カワウとヒトとの上手な付き合い方

2013-06-04 23:28:42 | 本と雑誌

 先日、枚方いきもの調査会の10周年記念行事でも紹介した本です。
 著者は水産関係の研究者、放流魚を守る立場からいやいやながらカワウの研究に携わるが、ダイバーには見えない濁り水の中でも魚を捕れる、漁師がみつけられないフナの群れをみつけるなどカワウの卓越した能力に感嘆し、敬意をいだくようになる。もちろん、そもそもの仕事は水産被害対策なので、被害も最小限にとどまるようにきっちり対策はしつつも生物多様性の理念も踏まえてカワウを滅ぼそうとはしない。さらに考えは進んで、蛇行など川の自然らしさを回復することがカワウといろいろな生物が共存するために大事との考えに至る。
 私はもちろん鳥の保護を前提に考える立場ですが、絶対保護でも絶対駆除でもない視点で冷静にものを考えるというこの本の著者の姿勢には共感をもてます。
 水産コーナーに並んでいるのでナチュラリストには目がとまりにくいかもしれませんが、一度読んでみてください。
130604_181509


渚の生物

2012-07-04 23:39:44 | 本と雑誌

 1981年刊ということで、30年前の本ですから、図書館、古本屋でないと入手できません。

 書いたのは白浜の京大実験所のメンバーを中心とした人々。内容も白浜の海での「観察」を基にしたものになっています。

 ヤドカリのオスが産卵のときにメスの体を持ち上げて卵の放出を手伝う。ただし、このオスは卵の親ではなく卵を放出したメスと次に交尾するとか、イボニシとシマレイシはどちらも潮間帯で活動する肉食の貝だが、シマレイシは餌の幅が広く、イボニシは餌の選択幅が狭い代わりに効率的に餌を食べる、など興味深い話が出てきます。

 ここに書かれている話はいずれも粘り強い観察によるもので素人にも参考になると思われます。非常に面白い本です。

Photo


オセアニア

2012-04-13 21:52:52 | 本と雑誌

 2007年に民博で開催された「オセアニア大航海展」の解説書。地球でもっとも遅く人類が到達した未踏の地が太平洋の諸島。

 フィリピンから、ヤップ、マリアナ諸島、ニューギニア、ソロモン諸島、フィジー、サモア、タヒチ、マルケサス諸島、ハワイへと、何千年もの時間をかけて、この広大な海域を移住していった人々の足跡は、遺伝学、考古学、作物の伝播、言語学などさまざまなアプローチで追跡されている。なかでも私が一番感動したことは、小さな船で行われた彼らの航海が必ずしも無謀な冒険ではなく、確固とした技術と経験により支えらていたことだった。星座を観察し、海の中の潮目にも地上と同じような「地名」をつける、島の上にかかる雲と海上の雲を区別する、島の反射波を読み取るなど自分の位置を知り目的地を探索する技術を持っていた。そして、どうしたも新たな島がみつからないときには西の方角に向けて漕いで行けば、やがてはフィリピン諸島にたどり着けることを知っていた。私が見た展示会の中でも指折りのものでした。今民博にはこのテーマのコーナーがあるらしいですが、一度行ってみたいです。

Oceania


氷壁

2012-04-04 23:24:37 | 本と雑誌

 ずっと読もうと思ってきた井上靖の「氷壁」を読んだ。有名なナイロンザイル切断事故をモデルに創作された山岳小説。読後の感想・・理系出身として読んだとき、切断されたロープの断面観察がまず第一ではないかと思うのだがそうしていない、技術的に無理だったのかどうかわからないが、このあたりの展開には不満を感じる。しかし、ナイロンザイルの切断に関する展開はもとの事件とはかなり変えている。たぶん、末尾の解説にあるように、この小説は事件そのものを中心に書かれたものではなく「恋愛小説」であり、事件と鑑定にかかわる科学者は「恋人たちの前にたちはだかる壁」として扱われているからなんだと理解した。

Hyoheki


本の紹介「天敵なんてこわくない」

2009-01-30 00:27:35 | 本と雑誌

「天敵なんてこわくない 虫たちの生き残り戦略」西田隆義 著 八坂書房

「カワリウサギが増えるのはオオヤマネコが増えたからという証拠はたくさんある。しかし、反対にカワリウサギが減る原因がオオヤマネコによる捕食という証拠はほとんどみつからなかった。なぜならオオヤマネコが食べることで死ぬカワリウサギの数を計算してみても、旺盛なカワリウサギの増殖を抑えて減らすにはほど遠いからだ。」

 よく言われる「天敵が被食者の数を制御する。」というアイデアは膨大な野外調査により否定されている。しかし、天敵によるコントロールが本当にないのか疑問に思った筆者は「被食者が天敵から受ける効果というものは、食われて数が減るだけでなく、むしろ食われないように被食者が発動する捕食回避策を媒介して間接的に働いているのではないか」と考える。

 本書の中では3例の研究が紹介されている。ひとつはインドネシアで行われたスペシャリスト捕食者であるニシダホシカメムシとダイフウシホシカメムシの例、二つ目は外来のミカン害虫ヤノネカイガラムシと寄生蜂の例、三つ目が日本の休耕田に見られるバッタ、カエル、鳥の例。これらの研究が筆者のアイデアを検証したかどうかはネタばれになるので、読んでいただくことにしたい。

 本題はさておき、研究の中で発見された様々な生態は興味深い。特に3番目の休耕田の事例は身近な題材であるだけに、里山ナチュラリストにとって興味深いと思う。カエルはバッタの主要な天敵に思えるが意外とバッタを食べていない。ヒシバッタの1種トゲヒシバッタはいかにしてカエルに食われるのを防いでいるか?チョウのビークマーク(鳥のついばみ跡)は襲われやすさを物語る?よく見られるイナゴの足の自切行動は生き残りに役立っているのか?ヒシバッタの色彩や斑紋の多型はどういう目くらまし効果があるのかなど話題満載で、これだけでも読む値打ちがある。なお、第2章の「適応をどう説明するか?」は重要な議論であるが、一般には難しい。本の装丁が児童書風で読みやすそうに見えるだけにこの章は後回しにすべきではなかったか、おせっかいながら飛ばして読むことをお勧めします。