「天敵なんてこわくない 虫たちの生き残り戦略」西田隆義 著 八坂書房
「カワリウサギが増えるのはオオヤマネコが増えたからという証拠はたくさんある。しかし、反対にカワリウサギが減る原因がオオヤマネコによる捕食という証拠はほとんどみつからなかった。なぜならオオヤマネコが食べることで死ぬカワリウサギの数を計算してみても、旺盛なカワリウサギの増殖を抑えて減らすにはほど遠いからだ。」
よく言われる「天敵が被食者の数を制御する。」というアイデアは膨大な野外調査により否定されている。しかし、天敵によるコントロールが本当にないのか疑問に思った筆者は「被食者が天敵から受ける効果というものは、食われて数が減るだけでなく、むしろ食われないように被食者が発動する捕食回避策を媒介して間接的に働いているのではないか」と考える。
本書の中では3例の研究が紹介されている。ひとつはインドネシアで行われたスペシャリスト捕食者であるニシダホシカメムシとダイフウシホシカメムシの例、二つ目は外来のミカン害虫ヤノネカイガラムシと寄生蜂の例、三つ目が日本の休耕田に見られるバッタ、カエル、鳥の例。これらの研究が筆者のアイデアを検証したかどうかはネタばれになるので、読んでいただくことにしたい。
本題はさておき、研究の中で発見された様々な生態は興味深い。特に3番目の休耕田の事例は身近な題材であるだけに、里山ナチュラリストにとって興味深いと思う。カエルはバッタの主要な天敵に思えるが意外とバッタを食べていない。ヒシバッタの1種トゲヒシバッタはいかにしてカエルに食われるのを防いでいるか?チョウのビークマーク(鳥のついばみ跡)は襲われやすさを物語る?よく見られるイナゴの足の自切行動は生き残りに役立っているのか?ヒシバッタの色彩や斑紋の多型はどういう目くらまし効果があるのかなど話題満載で、これだけでも読む値打ちがある。なお、第2章の「適応をどう説明するか?」は重要な議論であるが、一般には難しい。本の装丁が児童書風で読みやすそうに見えるだけにこの章は後回しにすべきではなかったか、おせっかいながら飛ばして読むことをお勧めします。