もう何年も前のこと、高木層、亜高木層をどこでわけるかについて議論したことがあります。相手の人は一定の高さで機械的に区切ればよいとの考え、私は高さではなく森林内での位置づけにより森林ごとに決めるべきとの考え。そんな議論をこの本「森林の生態学」を読んで思い出しました。
森林生態学は里山保全などに大きな関わりを持った分野ですが、最近の成果を読んでいないことが気になっていました。一方で読んでみたいと思わせる新たなテキストが見当たらないということもありました。しかし、この本はタイトルこそごく普通ですが、「長期大規模研究からみえるもの」というサブタイトルに目を引かれました。
読んでの感想は文字通り「勉強になりました。」
例えば先に述べた議論ですが、高木、亜高木などのことばは樹木の図鑑でもそれぞれの樹木の性質を表すために使われていて、森林生態学で使われる高木層・亜高木層とまぎらわしい。そこで最近の森林構造の調査では「林冠木(いわゆる高木層の木)、被圧木(林冠木のすぐ下で抑え付けられている木、いわゆる亜高木層)、ギャップ内個体」などのことばで樹木の位置づけを説明していることがわかりました。
こうしたトレンドというか最近の考え方の発見は他にもあります。有名な「あたたかさの指数」というものがありますが、これは月平均気温のうち5度以上の月についてそれぞれ5を引いた数値の合計のことです。私が学生のときはこの数値で植生の分布を説明することが主流でした。しかし、最近はより精密にとらえようということで、可能ならば「地表に注ぐ太陽エネルギーの総量」を量ってみようという考えになってきているようです。ただし、それは測定が難しいので現在でも「あたたかさの指数」は使われています。
かといって、森林の調査の基本は今でも、高さや胸高直径、あるいは落ちてきた種子の量やその行く末、実生の本数やその行く末など目に見えるものを数えるという行動はそれほど変わっていないように思いました。ただ、精密さとスケールの大きさが加わっているように思えました。それがサブタイトルの「長期・大規模」につながるのかもしれません。
とはいえ、長期・大規模研究は日本でははじまったばかりで先進国アメリカからは大きく遅れをとっています。この本で紹介されている事例は「長期・大規模研究」の先駆的なものといえそうですが、その中で大きく扱われているのが一斉開花一斉結実現象です。特にブナは良く研究され、メカニズムや他の生物との関連などの仮説のほかブナの一斉結実を研究するネットワーク「タネダス」「Nutwork」などが紹介されています。
紹介された事例の中で私が個人的に関心をもったのは最近話題になる「撹乱による更新」にもいろいろなタイプがあるという話でした。氾濫などによりできた立地に旺盛に実生を発生させるサワグルミ、それに対し稀に起こる大規模な撹乱によって更新するカツラは撹乱の合間を生き延びるために個体の寿命を伸ばす工夫をしているとのことでした。里山での伐木も撹乱の一種と考えられていますが、樹木の個性も見極める必要がありそうだと感じました。また、林縁に多いウリハダカエデが意外に林内で長く耐えて、林冠に達したかと思うと性転換して次世代を作り枯れていくという話にも興味をもちました。
全体に読み物となるようにまとめられていますが、一般向きというよりは学生や生物学関係の人を対象に想定していると思われ、やや難しい部分もあります。しかし、そのあたりは読み飛ばしておおよそを理解すれば良いと思います。できれば何回も読み返して線もひいて読んでみたい本ですが、お値段は高いです。私は図書館で借りました。