はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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地這う龍 三章 その10 無情の矢の雨

2024年01月15日 09時59分24秒 | 英華伝 地這う龍
張允《ちょういん》の甲高いわめき声を合図に、雨あられと矢が降りかかってきた。
「いかん!」
趙雲は、とっさに劉備の前に立ち、飛んできた矢を盾でかばった。
飛んできた矢の何本かが、だん、だんっ、と盾に突き刺さる。


一瞬、間が空いた。
おそらく張允の兵が矢をつがえなおしているのだろう。
兵を立て直さねばとまわりを見れば、将兵たちは手にした盾などで矢を防ぐことができたようすだ。
たが、無防備な民は悲惨であった。
かれらは大きく悲鳴をあげながら、城門の前から逃げようとしている。
荷物は崩れて踏まれ、牛や馬は混乱し、暴れた。
親の亡骸をまえに泣く子や、怪我をした家族をけんめいに抱えて逃げようとする者などもあって、冷静な者が落ち着くよう言っても、もはや誰も耳を貸さない。


「おのれっ、おなじ荊州の民をなぜ殺すっ!」
劉備は、顔を朱にして大音声で城壁のうえに呼びかける。
すると、張允は閻魔王の顔を見てしまった亡者のような顔をして楼閣の奥に引っ込んだ。
その代わりのようにしてあらわれたのは、襄陽城《じょうようじょう》の大将となっている蔡瑁《さいぼう》だった。
大けがを押しての登場である。
蔡瑁は劉備を見下ろし、それから盛大に鼻を鳴らして、叫んだ。
「ふんっ、なにがおなじ荊州の民だ! どうせ、民に偽装した新野《しんや》の兵であろうが!」
「馬鹿なっ、年寄りや子供がいるのが見えぬのか!」
「やつらも偽装よ。だいたい、逆賊を倒すのに理由などいるかっ。
その逆賊に付き従う民も逆賊ぞ!」
言いつつ、蔡瑁は傍《かたわ》らに控える兵に命じる。
「おまえたち、さあ、どんどん矢を射かけよ! そして逆賊どもをせん滅するのだ!」


蔡瑁の合図にしたがい、無情にも兵たちがつぎつぎと矢を放つ。
再び、容赦ない矢の雨が降り注いだ。
民は逃げ惑い、矢の餌食となっていく。
混乱に巻き込まれて、ろくに防備をすることもできない劉備軍の将兵も出てきた。
そこへ、さらに矢の雨が降りかかる。
どん、どすん、と鈍い音とともに、矢があちこちに突き刺さった。


これではどんな武人でも、太刀打ちのしようがなかった。
趙雲は、槍と盾でもって身辺の矢を打ち払う。
劉備に矢が当たらないよう気を配りつつ、城壁上の蔡瑁をにらみつける。
孔明は、陳到が守っていた。
横倒しになった荷車の陰に隠れて、矢をやりすごしている。
趙雲はぎりりと歯ぎしりした。
こんなことなら、襄陽城の例の騒動のとき、やつを踏み殺してしまっておればよかった。
そう思うが、もう遅い。


「襄陽城を落とすことはできないのかっ」
関羽の叫びに、陳到にかばわれながら、孔明が反論した。
「無理です、城門を開けようとしているあいだに、矢に打たれて全滅しますよ!」
「では、どうすればよいのだっ!」
関羽のいらだちの声が、状況を変えたわけでもなかろうが、だんだん、矢の雨の勢いが落ちてきた。
なんだろうと思ってみていると、城壁の部隊に、何者かが剣でもって襲い掛かっているのが見えた。
蔡瑁の悲鳴と叫び声が聞こえてくる。
「なにをする、狂ったか、文長《ぶんちょう》!」
蔡瑁の声に応じるように、野太い男の声が聞こえた。
「もとより狂っているのは貴様のほうであろう! 
皇室の後裔《こうえい》である劉豫洲に矢を向けるなど、正気の沙汰ではないぞ!」
男の声に合わせるように、ぎん、がん、と金属音が聞こえてくる。
どうやら襄陽城内部で仲間割れが起こったようだ。


ほどなく、蔡瑁の顔が引っ込み、代わりに頑固そうな風貌の男が顔を出した。
そして、爆《は》ぜた豆のような勢いで叫んでくる。
「劉豫洲どの、いまから城門を開けまする! どうぞ中へお入りくだされ!」
ところが、蔡瑁は斬られたわけではなく、まだまだ元気なようで、甲高いお馴染みの叫び声が聞こえた。
「勝手な真似をするな、文長っ! 皆のもの、こいつを斬れ!」
とたん、文長と呼ばれている男は姿を引っ込め、また激しい斬り合いの音が聞こえてきた。
矢の雨が止んだのはありがたいが、いっこうに城門が開く気配はない。
文長というあざなの男とその手勢は、蔡瑁のそれと比べて、すくないのだろう。


「わが君、いまのうちに襄陽を離れるべきです! 
あの勇士の好意はありがたいですが、どうも劣勢な様子です! 
あてにするわけにはいきませぬ!」
孔明の叫びに、劉備がうなずいた。
「仕方ないっ! みなのもの、いそいで退け! われらは江陵《こうりょう》を目指すぞ!」


蔡瑁と謎の勇士の戦いは、まだ城内でおこなわれているようであった。
だが、孔明の言う通りで、このままじっとしているわけにはいかない。
民も、けが人を助けつつ、けんめいについてくる。
あわれにも矢の犠牲になった者たちは野ざらしで置いていくほかない。
こころのなかでかれらに詫びつつ、趙雲は、劉備とともに襄陽を離れた。




つづく


※ いつもお付き合いくださっているみなさま、ありがとうございます!(^^)!
昨日はたくさんのお客さんにお越しいただき、うれしいです!
本日は文長……魏延、ちょろりと登場の回でありました。
蔡瑁どのはひどいですねー、ほんとに;

さて、ブログ開設6000日記念と、設定集の更新もそろそろと考えています。
記念作品は本日出来上がりそうです。18日に発表します(^^♪
あわせて近況報告などもさせていただくかもしれませんので、そのときはどうぞ読んでやってくださいませv

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ではでは、次回をおたのしみにー♪


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