はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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地這う龍 一章 その11 大門での騒動

2023年12月14日 10時24分05秒 | 英華伝 地這う龍



趙雲と張著《ちょうちょ》はつれだって、食堂に向かい、ほかの兵卒たちとともに朝食を食べ始めた。
孔明の尽力《じんりょく》もあり、さいきんは兵卒たちへの食事の内容が良い。
鼻孔をくすぐる肉入りの羹《あつもの》の香りと、炊き立ての粟飯、それから野菜の漬物がいくつか。
趙雲の隣に座った張著は、言われたことを忠実に守って、朝食を猛然と食べはじめた。


素直な子供である。
もうすこし、自分の感性や感情を優先できるようになるといいなと、趙雲はすこし心配になる。
壺中《こちゅう》というのは、大人に従順でないと生きていけない場所だったらしい。
張著はいまだに、気を張り詰めていて、大人の顔色をうかがう癖が抜けないでいるのだ。


こいつを子供らしく過ごさせてやるのも、おれの責任だろうなと考えていると、やれやれというふうに、趙雲の部隊の部将たちが食堂に入って来た。
「どうした、朝っぱらから疲れた顔をしているな」
趙雲が声をかけると、部将たちは困り顔のまま答えた。
「おはようございます、子龍さま。
じつは大門のところで、ちょっとした騒ぎがあったので、今朝は貧乏くじをひいたも同然でしたよ」
「貧乏くじとは穏やかではないな。どんな騒ぎだ」
「鶏《とり》の鳴く声と同時に大門をひらくのは子龍さまもご存じでしょう。
今朝も早くから中に入ろうとする旅人が待っていたのですが、そのなかに、非常に風体の怪しいものがおったのです。
ぼろぼろの衣服をまとっているうえ、片足がないのですよ。
それだけではなく、言っていることが支離滅裂なのです。
足は戦で失くしたのかと聞いても、なにがあったのやら、だいぶ錯乱していて答えようとしない。
そのうえ、事情はすべて、叔至《しゅくし》どのにお話ししたいとの一点張り。
自分の素性を明かそうともしないのです」
叔至とは、趙雲の副将たる陳到《ちんとう》のあざなである。
「素性を明かさない?」
「はい。叔至どのに会えばわかっていただける、会わせてくれと騒ぎ出しまして。
かんたんに会わせるわけにはいかない、名乗れと諭しても、頭のいかれているやつなりに信念があるのか、頑《がん》として答えないのです。
見るからに怪しいし、追い返そうと思ったのですが、妙に必死なのが気になりまして……」
「どうした」
「いま、叔至どののところへ使いが行っております。
いまごろはそいつと叔至どのがあっているはずです。
わたしどもは交代の時間になりましたので引き上げてきましたが、あの片足のない男、もしかしたら借金取りでしょうか」
「叔至は借金を踏み倒すような男ではないぞ」


陳到はがめついところがある男で、鷹揚《おうよう》な趙雲とは対照的に、小銭をきっちり管理している。
その陳到が、よそで借金をしているとは考えづらかった。


「ではなんだったのでしょうか」
「それはおれにも想像がつかぬな。あとで叔至に聞いてみよう。
それより、早く席に就け。食事がなくなってしまうぞ」
趙雲にうながされて、部将たちは席について食事をはじめた。


片足のない錯乱した男、か。
この戦乱の世で、五体が不満足な人物と言うのはめずらしくないが、陳到を名指しして会いに来たというのは引っかかった。
あとで叔至にくわしく事情を聴いたほうがよかろうと趙雲が考えている横で、張著がぽりぽりと大きな音を立てて大根の漬物をかじっていた。







張著を兵舎に留守番に置いてから、趙雲は孔明の様子を知るため、劉備の居室に向かうことにした。
予定通りなら、孔明と劉備、そして張飛は、劉備の居室で夜通し飲んでいるはずである。
うわばみの孔明は酔いつぶれていないだろうが、張飛のほうは心配だった。
変にくだをまいて、軍師に絡んでないといいがと趙雲は思う。


自然と早足になっているなか、ふと中庭を見ると、赤子がわあわあと激しく泣いているところに行き会った。
見れば、中庭の柘植《つげ》の木の陰で、必死になって赤子をあやしている三人の少女がいる。
孫軟児《そんなんじ》と、ほかに見たことのない面長の少女と、出っ歯でリスのような顔をした少女である。


少女たちがあやしているのは、劉備の子の阿斗らしい。
生母の甘夫人の姿は見えない。
どうしたのだろうと訝しみつつ、軟児に声をかけた。
「軟児、どうした」
趙雲の声にはじかれるように、軟児はぱっと顔を上げた。
「あっ、おはようございます、子龍さま!」
しかしその元気な声に刺激されたか、腕の中の阿斗は、またわあわあと激しく泣き出した。
「もっとひどくなっちゃったわ」
と、面長の少女がぼやいた。
その大人びた様子からして、どうやら面長の少女がいちばん年長らしい。
「軟児が大きな声を出すからよ」
と、出っ歯の子がたしなめた。
軟児は、ごめんなさい、と肩をすくめる。
そして、失敗しちゃった、という顔をして、趙雲を見て、また、にっ、と笑った。


つづく

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