はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る・改 一章 その14 お手紙作戦

2024年12月30日 10時24分44秒 | 赤壁に龍は踊る・改 一章



魯粛が指定してくれた客館は、掃除の行き届いた清潔な場所で、日当たりもばつぐんによく、空気が澄んでいた。
孔明は宿の主人にあいさつをすると、すぐさま筆記用具一式を用意してほしいとたのんだ。
宿の主人は心得たもので、さまざまな要望をされることに慣れているらしく、なぜと問うたり、口答えしたりすることなく、すぐさま筆記用具を用意してくれた。
孔明はそれらを受け取ると、通された部屋の机の前に座り、硯《すずり》に水を垂らして、墨をつくりはじめる。


墨をつくりながら、これから書くべき文面を考えていると、趙雲が心配そうに言った。
「疲れているだろうから、書き物は明日にしたらどうだ」
だが、孔明は墨を作りながら、首を横に振る。
「急ぐのだ。まごまごしていると、子敬(魯粛)どのらに先を越される」
趙雲が首をかしげたのが気配で分かる。
「というと、わが君に出す手紙を書くのではないのだな?」
「曹操に与せず、荊州《けいしゅう》のあちこちに隠遁しているわが朋輩たちに手紙を書くのさ。
わが君に手を貸してくれないだろうかと」
「なるほど。子敬どのの先手を打って、荊州の実効支配を強めようというわけか」
「そのとおり」


手紙のあて先を思いうかべる。
馬良《ばりょう》と陳震《ちんしん》、廖立《りょうりつ》、習禎《しゅうてい》……そのほか、曹操を嫌ってその陣営に顔を出していないとされる豪族ら、士大夫ら。
かれらに片っ端から手紙を書かねばならない。
同盟は成《な》った。
曹操は負ける、劉備につけ、と。


孔明が紙に筆を下ろすと、もう趙雲は何も言わなかった。
孔明がそれほど集中していた顔をしていたからだろう。
かれもまた、すぐそばで狸をなめした皮でもって、天下の宝剣・青釭《せいこう》の剣を手入れし始めた。


しばらく、おたがいに無言で過ごした。
孔明の筆は冴えていて、自分でもかなり調子がいいということが分かる。
曹操が負けるだろうことを説き、劉備に仕えることにいかに先見の明があるかを説き、つづいて、荊州を保つための戦略と、荊州を保持した先のことまで述べた。
さらには、相手の個別の事情を書き連ね、たたみかけるように、劉備に仕えることの利を書きつけた。


日が暗くなり、目がしょぼしょぼしてきても、手が止まらなかったので、書き続けた。
趙雲が燭台を持ってきてくれて、机を照らしてくれる。
もういいだろうと蹴りをつけたのが、夕飯の時間がとっくに過ぎたころだった。


「温かい食事を食いっぱぐれたな」
孔明は言いつつも、満足感にひたっていた。
あらかたの手紙は書き終えてしまった。
われながら、筆が早くて正確だとうぬぼれる。
この手紙に心を動かされない者はないだろう。
あとは、これを届けてくれる人間を探すだけだ。
魯粛に頼むことも考えたが、この手紙の内容は、と問われると面倒だ。
荊州に向かう商人にすべてを劉備に預けてもらい、そこからさらに各地に配ってもらうというのがいいだろう。
謝礼を弾まなければなと思っていると、どこからか琴の音が聞こえてきた。
客館の近くに繁華街があるようだ。
芸妓が客のために琴を披露しているらしく、なかなかの腕前で、しばし孔明は、琴の音に聞きほれた。


つづく


※ 同盟成立後の孔明の行動は、どう調べてもよくわかりませんでした……調べ方が足りないという可能性もありますが。
今回は、「こうしたんじゃないのかな?」というのを書きました。
今と違って連絡手段が手紙(竹簡だったと思うけれど)しかなかっただろうとも想像し、このカタチ。
さて、2024年も残すところあと1日。
悔いのない日々を過ごしたいものです。
ではでは、また明日もおたのしみにー(*^▽^*)


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