はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る・改 一章 その8 論戦~対虞翻、対歩隲

2024年12月20日 10時22分07秒 | 赤壁に龍は踊る・改 一章
家臣たちは、息をつめて張昭と孔明のやり取りを聞いていたが、それが一区切りすると、またどよめきはじめた。
しかし、そのどよめきは、最初のものとはちがい、いくらか戸惑いが含まれていた。
魯粛に連れられてきた青年軍師が、物おじせずに張昭をやり込めて見せた、その弁舌に、みな驚いている様子である。


そんななか、またひとり、手を上げる者がいる。
「われは虞翻《ぐほん》、字《あざな》を仲翔《ちゅうしょう》と申す、先生におたずねしたい」
四角い小石のような顔をした男だ。
孔明は、どうぞ、とうなずく。
「ずばりお尋ねする。曹操軍は百万という数をそろえて襲ってきた。
仮にわれらが貴殿らと同盟を結び、開戦をするというのなら、貴殿らはこれにどう対処されるおつもりか」
孔明は、その質問は来るものだと思っていたとばかりの、余裕たっぷりの笑顔で答えた。
「曹操軍の実数は、せいぜい七十万から八十万にすぎませぬ。
その内容も、袁紹軍の兵と荊州《けいしゅう》の兵をあわせただけの烏合の衆。恐るるに足りませぬ」


曹操の実数と、孔明の烏合の衆ということばに反応して、家臣たちがまた騒ぎ出した。
百万からだいぶ減った敵について、動揺しているようである。


「し、しかし! その烏合の衆に、劉豫洲《りゅうよしゅう》(劉備)は敗れているではないかっ」
すると、孔明はおかしそうに声を立てて笑った。
「おや失礼。あまりに可笑しかったので。
わが軍はいわば貴重な珠のようなもの。
さきほどの粥《かゆ》のたとえではありませぬが、この貴重な珠を無造作に敵にぶつけて砕く暴挙をだれがしましょう」
「あえて逃げたというのか」
「左様。けれど、われらの軍以上の精鋭があつまっているはずの江東の方々は、なにもせぬうちから降伏しようとしておられますな。
それはどういったわけでしょう」
問われて、虞翻は言葉をなくし、むすっとしたまま、もう語らなかった。


虞翻までもが沈黙したのを見て、家臣たちは、またざわめいた。
だが、その声色は、だんだん低いものに変わりつつある。


その空気を変えようとしたのか、別の男がひとり、立ち上がった。
「孔明どの、口を慎まれよ! 
蘇秦《そしん》や張儀《ちょうぎ》の詭弁を真似てわれらを惑わせようとしても、そうはいかぬ!」
はなから喧嘩腰の男を見れば、がっしりした体形の小男が、顔を真っ赤にしていた。
しかし孔明は余裕の表情を崩さず、どころか愛想よく微笑みかける。
「失礼、貴殿の御名は?」
「歩隲《ほしつ》、字を子山《しざん》」
「では子山どの、貴殿は蘇秦や張儀をどう見ておられるのか。両人ともただの弁舌の徒ではありませぬ。
どちらも天下の経営に当たった大人物。
その蘇秦と張儀になぞらえていただけるとは光栄ですな」
「な、なにをばかな。わしは、貴殿がわれらを利用して曹操に当たらせようとしていることを憂いているのだ」
「憂うとはなぜに? さきほども申し上げた通り、曹操軍は烏合の衆にすぎませぬ。
それなのに曹操の口車にうまうまとのせられ、降伏を主君にすすめていること自体のほうがよほど憂うるべきことなのでは?」
「そ、それは」
「臆病者は黙っておられるがよいでしょう」
孔明に冷たく突き放されると、歩隲は、今度は顔を蒼くして、そのまま座り込んでしまった。


つづく

※ 「演義」でいくと、まさにちぎっては投げ、ちぎっては投げ、といったシーンですが……
さて、次回も論戦はつづく! 
どうぞお楽しみにー(*^▽^*)


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