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帯とけの枕草子〔三十九〕あてなるもの
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言 枕草子〔三十九〕あてなるもの
あてなるもの、うす色にしらかさねのかざみ、かりのこ、けづりひにあまづらいれてあたらしきかなまりにいれたる、すいさうのずゝ、ふぢの花、梅の花に雪のふりかゝりたる、いみじううつくしきちごの、いちごなどくひたる。
文の清げな姿
上品で貴重なもの、薄色に白襲の汗衫。雁の卵。削り氷に甘葛入れて新しい金属の椀に入れてある。水晶の数珠。藤の花。梅の花に雪が降りかかっている。とっても可愛い幼児が苺など食っている。
文の心におかしきところ
頼みとするもの(その実態)、色薄くて白々しい彼さ見、かりの子の君。削り木作りの婢に甘葛入れて新しき彼のうつわものに入れてある。水晶のすす。不死のお花。男木の花に白ゆきが降りかかっている。とっても可愛い稚児のもの、一御などがくっている。
言の戯れと言の心
「あて…貴て…高貴…上品…当て…頼み」「色…色彩…色情」「白かさね…白襲…表裏白の衣…白白…しらじらしい」「かざみ…汗衫…晴れ着…彼さ見…彼さ身」「さ…美称」「見…覯…媾」「かりのこ…雁の卵…かりの子…おとこ」「かり…雁…仮…刈り…狩り」「こ…卵…子…おとこ」「ひ…氷…婢…下女…ゐ…井…女」「かなまり…金椀…彼のうつわもの…女」「す…巣…洲…女」「ふぢ…藤…紫…高貴な色…不二…二つと無い…不死…逝かない」「梅の花…おとこ花」「雪…白ゆき…おとこ白逝き」「ちごの…幼子が…稚児のもの…おとこ」「の…主語を示す…のもの」「いちご…苺…一御…逸御…格別なご婦人」「御…女の敬称」「くふ…食う…くわえる」。
われわれの言葉は「聞き耳」により(意味の)異なるものと宣言した上で、枕草子は書いてある。それを字義通りに読んでも「清げな姿」しか見えないでしょう。
枕草子を「いとをかし」または、紫式部のように「あだ(婀娜…徒)」な文芸と読む手立ては、「言の心」を心得て、男女の仲の「事の情」を知るこの時代のおとなの女たちと同じ「聞き耳」になること、それ以外に無い。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人しらず (2015・8月、改訂しました)
原文は 岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による