帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔三十九〕あてなるもの

2011-04-08 00:28:52 | 古典

 



                                   帯とけの枕草子〔三十九〕あてなるもの



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言 枕草子〔三十九〕あてなるもの

あてなるもの、うす色にしらかさねのかざみ、かりのこ、けづりひにあまづらいれてあたらしきかなまりにいれたる、すいさうのずゝ、ふぢの花、梅の花に雪のふりかゝりたる、いみじううつくしきちごの、いちごなどくひたる。


  文の清げな姿

 上品で貴重なもの、薄色に白襲の汗衫。雁の卵。削り氷に甘葛入れて新しい金属の椀に入れてある。水晶の数珠。藤の花。梅の花に雪が降りかかっている。とっても可愛い幼児が苺など食っている。

 

文の心におかしきところ

 頼みとするもの(その実態)、色薄くて白々しい彼さ見、かりの子の君。削り木作りの婢に甘葛入れて新しき彼のうつわものに入れてある。水晶のすす。不死のお花。男木の花に白ゆきが降りかかっている。とっても可愛い稚児のもの、一御などがくっている。

 

言の戯れと言の心

「あて…貴て…高貴…上品…当て…頼み」「色…色彩…色情」「白かさね…白襲…表裏白の衣…白白…しらじらしい」「かざみ…汗衫…晴れ着…彼さ見…彼さ身」「さ…美称」「見…覯…媾」「かりのこ…雁の卵…かりの子…おとこ」「かり…雁…仮…刈り…狩り」「こ…卵…子…おとこ」「ひ…氷…婢…下女…ゐ…井…女」「かなまり…金椀…彼のうつわもの…女」「す…巣…洲…女」「ふぢ…藤…紫…高貴な色…不二…二つと無い…不死…逝かない」「梅の花…おとこ花」「雪…白ゆき…おとこ白逝き」「ちごの…幼子が…稚児のもの…おとこ」「の…主語を示す…のもの」「いちご…苺…一御…逸御…格別なご婦人」「御…女の敬称」「くふ…食う…くわえる」。

 


 われわれの言葉は「聞き耳」により(意味の)異なるものと宣言した上で、枕草子は書いてある。それを字義通りに読んでも「清げな姿」しか見えないでしょう。

 

枕草子を「いとをかし」または、紫式部のように「あだ(婀娜…徒)」な文芸と読む手立ては、「言の心」を心得て、男女の仲の「事の情」を知るこの時代のおとなの女たちと同じ「聞き耳」になること、それ以外に無い。



 伝授 清原のおうな

聞書  かき人しらず    (2015・8月、改訂しました)

 原文は 岩波書店  新 日本古典文学大系 枕草子による