帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔四十四〕とのもづかさ

2011-04-14 00:03:13 | 古典

 


                                   帯とけの枕草子〔四十四〕とのもづかさ



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


 清少納言 枕草子〔四十四〕とのもづかさ
 
 とのもづかさこそ、猶おかしき物はあれ、しも女のきはは、さばかりうら山しき物はなし。よき人にもせさせまほしきわざなめり。わかくかたちよからんが、なりなどよくてあらんは、ましてよからんかし。すこしおいて物のれいしり、おもなきさまなるも、いとつきづきしくめやすし。とのもづかさの、かほあい敬づきたらん、ひとりもたりて、さうぞく時にしたがひ、も、からきぬなどいまめかしくてありかせばや、とこそおぼゆれ。

 清げな姿 
 殿司(殿守司の女官)よりも、さらに素敵なものがほかにあるかしら。下女の程には、これほど羨ましいものはない。身分のよい人にもさせてあげたい業でしょう。若くて容姿の良さそうなのが、身なりなども良かったら、いっそう格好いいでしょうよ。少し年老いて、しきたりの例を知り、ものおじしない様子なのも、とっても相応しく、見ていて感じがよい。
 
殿司の、顔の愛嬌ありそなの一人、身内に・もって、装束は時に従い、裳、唐衣など今風にして居させたらなあと思える。

 心におかしきところ
 
門の盛りおさこそ、他に素敵なものがあるかしら。しも女のあたりには、これほど心の山のうらやましいものはない。好き人には、させたいわざでしょう。若くて容姿の良さそうなのが、成りさまも良かったら、まして快いでしょうよ。少し極まって、ものの礼を知り、ものおじしない様子なのも、とっても相応しく、見やすい。
 
門の盛り長じ、彼おの愛敬あるようなの一人、夫に・もって、装束は時に従い、おも、空来ぬなど、浮き浮きと若々しく居させられたらなあとは思える。

 言の戯れと言の心
 「とのも…殿守り…殿盛り」「との…殿…やかた…女…門の」「と…門…女」「つかさ…司…おさ…長」「うら…心」「やま…山…山ば」「なり…身なり…成り…できあがり」「おい…老い…追い…極まること…感の極み」「れい…例…しきたり…礼…礼節」「見…覯…媾…まぐあい」「かほ…顔…かお…彼お…おとこ」「あい敬(行)…愛嬌…可愛らしさ…愛ある行い…愛と敬い」「も…裳…面…もののつら…おも」「からきぬ…唐衣…空来ぬ…空しくなってしまう」「いまめかし…今風…新鮮…若々しい…浮ついている」。 


 
歌は「浮言綺語の戯れには似たれども、ことの深き旨もあらわる(古来風躰抄)」と藤原俊成(定家の父)はいう。顕われるのは煩悩。それを表現することは、即ち菩提(悟りの境地)であり正法であるという。

 歌は一義な言葉では成り立たない。これは、歌に限ったことではなく文芸はみな同じ。
 枕
草子は、おとなの女のために「聞き耳異なる女の言葉」で、おとなの女の願望ともいえる思いを描いてある。


 伝
授 清原のおうな
 聞書  かき人しらず    (2015・8月、改訂し成した)

 
  枕草子の原文は、新 日本古典文学大系 枕草子 (岩波書店)による。