帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔五十六〕ちごは

2011-04-28 00:11:03 | 古典

 

 

                      帯とけの枕草子〔五十六〕ちごは



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


 清少納言 枕草子〔五十六〕ちごは


 ちごは、あやしきゆみ、しもとだちたる物など
、さゝげてあそびたる、いとうつくし。車などとゞめて、いだき入て見まほしくこそあれ、又、さていくに、たき物
のか、いみじうかゝへたるこそ、いとをかしけれ。

 文の清げな姿
 
幼児は、へんてこな弓、むちのような物など振り上げて遊んでいる、とってもかわいい。車など停めて、抱き入れてみたいことよ。また、そうして行くときに、薫物の香り、いっぱいに抱えているのは、とってもいい。

 
心におかしきところ
 
子の君は、あやしい弓なり、鞭か棒のような物、身ささげて楽しむ、とってもかわいい。来る間とどめて、抱き入れて見たいほどよ、また、さて、逝くときに、多気ものの火、多く抱えているのは、とってもすばらしい。

 言の戯れを知り言の心を心得ましょう
 「ちご…幼児…稚児…小さい子…おとこ」「ゆみ…弓…つわもの…ゆ身…おとこ」「しもと…鞭…杖…棒…おとこ」「ささぐ…差し上げる…献上する…身をささげる」「あそぶ…遊ぶ…動き回る…楽しむ」「車など…しゃ…者…もの…おとこ…来る間…果ての来る前」「など…他にも意味するものがあることを示す」「見…覯…まぐあい」「ほし…欲し」「又…それに加えて…再び」「さて…そうして…さてさて」「いく…行く…逝く」「たき物…薫物…多気者…多情者」「か…香…色香…火…情熱の炎」。


 おとなの女たちの共感できる事柄を、それとは無しに書いてある。微笑みながら読んでもらえればいい。そのような文芸である。

 
今では、微笑むべき「心におかしきところ」が消えて「清げな姿」のみとなった。それは、言の戯れから不当と判断した意味を排除して、文の正しい趣旨を求めた結果であって、誰も間違ったとは思わない。かくして、「心におかしきところ」は失われたまま、数百年つづいている。


 伝授 清原のおうな
 
聞書  かき人しらず    (2015・8月、改定しました)

 
枕草子の原文は、新日本古典文学大系 枕草子 (岩波書店)による