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帯とけの枕草子〔五十六〕ちごは
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言 枕草子〔五十六〕ちごは
ちごは、あやしきゆみ、しもとだちたる物など、さゝげてあそびたる、いとうつくし。車などとゞめて、いだき入て見まほしくこそあれ、又、さていくに、たき物のか、いみじうかゝへたるこそ、いとをかしけれ。
文の清げな姿
幼児は、へんてこな弓、むちのような物など振り上げて遊んでいる、とってもかわいい。車など停めて、抱き入れてみたいことよ。また、そうして行くときに、薫物の香り、いっぱいに抱えているのは、とってもいい。
心におかしきところ
子の君は、あやしい弓なり、鞭か棒のような物、身ささげて楽しむ、とってもかわいい。来る間とどめて、抱き入れて見たいほどよ、また、さて、逝くときに、多気ものの火、多く抱えているのは、とってもすばらしい。
言の戯れを知り言の心を心得ましょう
「ちご…幼児…稚児…小さい子…おとこ」「ゆみ…弓…つわもの…ゆ身…おとこ」「しもと…鞭…杖…棒…おとこ」「ささぐ…差し上げる…献上する…身をささげる」「あそぶ…遊ぶ…動き回る…楽しむ」「車など…しゃ…者…もの…おとこ…来る間…果ての来る前」「など…他にも意味するものがあることを示す」「見…覯…まぐあい」「ほし…欲し」「又…それに加えて…再び」「さて…そうして…さてさて」「いく…行く…逝く」「たき物…薫物…多気者…多情者」「か…香…色香…火…情熱の炎」。
おとなの女たちの共感できる事柄を、それとは無しに書いてある。微笑みながら読んでもらえればいい。そのような文芸である。
今では、微笑むべき「心におかしきところ」が消えて「清げな姿」のみとなった。それは、言の戯れから不当と判断した意味を排除して、文の正しい趣旨を求めた結果であって、誰も間違ったとは思わない。かくして、「心におかしきところ」は失われたまま、数百年つづいている。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人しらず (2015・8月、改定しました)
枕草子の原文は、新日本古典文学大系 枕草子 (岩波書店)による