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帯とけの枕草子〔五十〕雑色随身は
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言 枕草子〔五十〕ざうしき、ずいじんは
ざうしき、ずいじんは、すこしやせて、ほそやかなるぞよき。男は猶わかき程は、さるかたなるぞよき。いたくこゑたるは、ねぶたからんと見ゆ。
清げな姿
雑色や隨身は、すこし痩せて、細やかなのがよい。男はやはり若いときはそのようである方がよい。ひどく肥えているのは、眠たいのだろうと見える。
心におかしきところ
雑多な色情の付随の身は、すこし細って、少なめがよい。男は、やはり若いほとは、そのような方がよい。ひどく豊満なのは、根、塞がるだろうと見える。
言の戯れと言の心
「ざうしき…雑色…雑役を勤めた無位の役人」「雑…雑多…煩雑…粗雑」「色…色彩…衣服の色…色情」「随身…要人警護の役人…身に付随したもの…おとこ」「やせて…痩せて…細って」「ほそやか…細やか…少なめ…多ではない」「ほど…程…ほと…陰…おとこ・おんな」「こえ…肥え…豊満…盛ん」「ねぶたからん…寝ぶたからん…ねむいのだろう…根ふたからん」「ね…寝…根…おとこ」「ふたがらん…塞がるだろう…詰まるだろう…妨げるだろう」「見…媾…媾…まぐあひ…目ぐ合ひ…間具合ひ」。
古事記に「身の成り余れるところをもちて、身の成り合ざるところにさし塞ぎて」とある。これを「みとのまぐはひ」という。「みと…水門…見門…身門」。
「やす…痩せる」という言葉は、身が痩せるという意味の他に、思いが痩せるというようにも用いられる。
万葉集 巻第十五、新羅に遣わされる使人らが別れを悲しんで贈答した古歌。
我がゆえに思ひなやせそ秋風の 吹かむその月あはむものゆゑ
(我のせいで、思い痩せないでくれ、秋風の吹くその月には、逢うのだから……我がゆえに、思い細らないでおくれ、飽き満ち足りる風が心に吹くそのつきに、また合うのだからね)。
「秋風…飽き風…飽き満ち足りた風」「風…心に吹く風」「月…月人壮士…おとこ…突き…尽き」「あはむ…逢う…合う…和合する」。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人しらず (2015・8月、改定しました)
枕草子の原文は、岩波書店新 日本古典文学大系 枕草子による。
万葉集の歌は、塙書房 萬葉集 本文篇による。