帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔五十〕雑色随身は

2011-04-21 00:01:50 | 古典

   



                       帯とけの枕草子〔五十〕雑色随身は 



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言 枕草子〔五十〕ざうしき、ずいじんは


 ざうしき、ずいじんは、すこしやせて、ほそやかなるぞよき。男は猶わかき程は、さるかたなるぞよき。いたくこゑたるは、ねぶたからんと見ゆ。
 
 清げな姿

雑色や隨身は、すこし痩せて、細やかなのがよい。男はやはり若いときはそのようである方がよい。ひどく肥えているのは、眠たいのだろうと見える。


 心におかしきところ

雑多な色情の付随の身は、すこし細って、少なめがよい。男は、やはり若いほとは、そのような方がよい。ひどく豊満なのは、根、塞がるだろうと見える。


 言の戯れと言の心

 「ざうしき…雑色…雑役を勤めた無位の役人」「雑…雑多…煩雑…粗雑」「色…色彩…衣服の色…色情」「随身…要人警護の役人…身に付随したもの…おとこ」「やせて…痩せて…細って」「ほそやか…細やか…少なめ…多ではない」「ほど…程…ほと…陰…おとこ・おんな」「こえ…肥え…豊満…盛ん」「ねぶたからん…寝ぶたからん…ねむいのだろう…根ふたからん」「ね…寝…根…おとこ」「ふたがらん…塞がるだろう…詰まるだろう…妨げるだろう」「見…媾…媾…まぐあひ…目ぐ合ひ…間具合ひ」。


 古事記に「身の成り余れるところをもちて、身の成り合ざるところにさし塞ぎて」とある。これを「みとのまぐはひ」という。「みと…水門…見門…身門」。

 

「やす…痩せる」という言葉は、身が痩せるという意味の他に、思いが痩せるというようにも用いられる。

 万葉集 巻第十五、新羅に遣わされる使人らが別れを悲しんで贈答した古歌。
 我がゆえに思ひなやせそ秋風の 吹かむその月あはむものゆゑ

(我のせいで、思い痩せないでくれ、秋風の吹くその月には、逢うのだから……我がゆえに、思い細らないでおくれ、飽き満ち足りる風が心に吹くそのつきに、また合うのだからね)。


 「秋風…飽き風…飽き満ち足りた風」「風…心に吹く風」「月…月人壮士…おとこ…突き…尽き」「あはむ…逢う…合う…和合する」。



 伝授 清原のおうな

聞書  かき人しらず  (2015・8月、改定しました)


  枕草子の原文は、岩波書店新 日本古典文学大系 枕草子による。

 万葉集の歌は、塙書房 萬葉集 本文篇による。