土曜夜には、NHKBSで、佐渡裕さんが指揮したベルリン・フィル定期演奏会を聞いた。それに先立って放送された密着ドキュメンタリーも見た。
佐渡裕さんは、阪神大震災前に私が住んでいた西宮市に創設された兵庫県立芸術文化センターの芸術監督で、佐渡さんが指揮する定期演奏会やオペラはいつもチケットが売り切れる。いつか聞きたいと思いながら、生で聞いたことがない。
ベルリン・フィルは、歴代指揮者がそうそうたる顔ぶれで、カール・ベームのあと常任指揮者に着任したカラヤンでさえ手を焼いたという伝説がある。
佐渡さんも、ファースト・コンタクトと言われる練習で、ショスタコービチの5番を、自分の解釈で演奏してもらうのに苦労したようだ。はじめは、いちいち演奏を止めて説明が入ることに、団員は戸惑っていたが、だんだん佐渡さんの意図が分かってくると、指示通りに演奏するようになる。
演奏曲目は、武満徹の「フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム」、ショスタコービチの交響曲第5番。どちらもベルリンフィル側からの希望だそうだ。
「フロム・ミー……」がすばらしかった。カーネギーホール100周年を記念して、ボストン交響楽団と小沢征爾のために委嘱された曲だそうだが、武満らしい、自然と交流しているような音楽だ。とくにパーカッションは、東北地方大震災で破壊された大地を吹き渡り、もろもろの命や人々の心の傷をやさしく癒して天に戻っていく風のようだと思った。
ショスタコービチの5番は、学生時代から聞き慣れたバーンスタイン、NYフィルの、ロシアの大地のような重厚な演奏が刷り込まれているので、最初のうちは違和感があったが、第1楽章が進み、第2楽章、第3楽章と聞くうちに、佐渡さんの演奏に引き込まれていった。
佐渡さんが、第3楽章はレクイエムだと言ったように、やはり、東北大震災とイメージが重なって、泣いてしまった。第4楽章の闘争的な音楽も、立ち上がる人々の姿が重なって、感動的だった。
団員が舞台から去っても聴衆の拍手は止まず、佐渡さんが舞台袖に出てきて挨拶していたが、聴衆も、きっと、東北大震災と演奏曲目とを重ねて聞いて、心が揺り動かされたにちがいない。
佐渡さんの心の中にも、東北大震災の被災地や人々への祈りがずっとあったと思う。
この時期に、佐渡さんがベルリン・フィルを指揮したことに、何かの意思が働いているように感じる。