赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

インフレを止めるトランプ氏の切り札

2024-11-26 00:00:00 | 政治見解
インフレを止めるトランプ氏の切り札




トランプ時代の到来。世界一の産油国、産ガス国アメリカの復活で、国内のインフレ退治は進み、アメリカに黄金の4年間が訪れると思われます。

同時に、それが国際社会にどういう影響を与えるのか、ロシア情勢に詳しい北野幸伯さんの分析です。特別に許可を頂いて掲載しています。


▼トランプとプーチン、根本的利害の対立

トランプさんが大統領選で勝利して、
一番喜んだのは誰でしょう? おそらくプーチンでしょう。
一番悲しんだのは誰でしょう? おそらくゼレンスキーでしょう。

なぜ? トランプは、ウクライナ支援に超消極的だからです。今年3月にトランプと会談したハンガリーのオルバン首相は、こんなことを言いました。

——『産経新聞』2024年3月12日:ロイター通信によると、米南部フロリダ州でトランプ前大統領と8日に会談したハンガリーのオルバン首相は3月11日までに、トランプ氏が大統領に返り咲けば、ウクライナ支援で「一銭も払わない。だから戦争は終わる」と述べた。
オルバン氏は「ウクライナが自力で立ち続けられないのは明らかだ」とし「米国が金を出さなければ、欧州だけでこの戦争を経済的に支えることはできない」と語った。(共同)——

これは、オルバンさんが勝手に考えたことではないでしょう。トランプさんが「それらしきこと」を言ったので、オルバンさんが公言したのでしょう。

トランプさんが勝利すれば、ウクライナに「一銭も支払わない!」これを聞いて、プーチンは歓喜したことでしょう。一方ゼレンスキーは、大いに落ち込んだことでしょう。

トランプとプーチンは、お互いの「愛」を公言してはばかりません。しかし、そんな 2人の「愛」を妨げる
【 根本的利害対立がある 】というお話をしましょう。


▼トランプ経済政策の矛盾

なぜトランプは勝利し、ハリスは負けたのでしょうか?

いろいろ理由はあるでしょうが、最も大きな理由は、おそらく【 インフレ問題 】です。
アメリカのインフレ率、ウクライナ戦争が始まった2022年には、約8%でした。2023年は4.13%。IMFの予測によると、2024年は2.99%になるそうです。

比較として日本を見てみましょう。2022年は2.5%。2023年は3.27%。IMFによると、2024年は2.27%になる予測です。アメリカと比べると、全然大したことないですね。

それでも皆さん、「ものすごく物価が上がっている」と感じていませんか? 2.5%~3.27%でもこんな感じなら、ここ3年間のインフレ率が3~8%のアメリカ人が、「大いに不満」なのもわかります。

実際、アメリカ在住の知人や読者さんに聞くと、「中産階級でも生活がとても苦しくなった」といいます。なので、現副大統領のハリスが、「インフレを退治します!」といっても説得力がありません。

「あなたは副大統領でしょう? だったら、今インフレを退治しなさい! 今できないのなら、なぜ大統領になったらできると断言できるんだ? 説得力が全然ない!」となってしまいます。だからハリスさんは負けたのでしょう。

そう、トランプさんは、「インフレ退治」をしなければなりません。ところがトランプさんは、「変なこと」を言っています。何でしょうか? 「私が大統領になったら、中国からの輸入品に一律60%の関税をかける。その他の国からの輸入にも10~20%の関税をかける!」と言っているのです。

関税を上げる、輸入品の値段が【 高くなる 】。だから、【 インフレが進む 】でしょう。【 インフレを退治しなければならないのに、インフレを進める高関税をかける? 】

関税を上げるのは公約。トランプさんは、石破さんと違って「有言実行」の人。だから、おそらく上げるのでしょう。すると、物価があがってしまい、もう1つの公約「インフレ退治」ができなくなってしまいます。トランプさんは、この矛盾をどう解決するのでしょうか?


▼トランプは石油増産でインフレを退治する

トランプさんの特徴の1つは、「環境問題に全然興味がないこと」です。思い出されるのは2017年、彼が「パリ協定からの離脱」を宣言したこと。世界的には、「温暖化を食い止めるために、なるべく石炭、石油、天然ガスの使用を減らしていこう」という方向です。

しかし、トランプさんは、そもそも「地球温暖化」自体を信じていないのです。

——『BBC NEWS JAPAN』2018年11月27日:米政府は11月23日、気候変動に関する報告書「第4次全米気候評価、第2巻」を発表した。「温室効果ガスの排出増加が歴史的なペースで継続していることを受け、米経済の分野によっては今世紀末までに年間損失額は数千億ドルに達する見通し」など、地球温暖化の悪化が経済活動に与える影響などを詳述している。
ホワイトハウスで記者団に、温暖化対策をとらなければ米経済が大混乱に陥るという報告書の指摘をどう思うか質問されたトランプ氏は、【 信じない 】と答えた。――

ここから、トランプさんが、【 関税引き上げ 】と【 インフレ退治 】という矛盾する公約を、両方実現する方法が見えてきます。

アメリカは、オバマ時代の「シェール革命」によって、世界一の産油国、産ガス国になりました。原油と天然ガスを増産すれば、物価を下げることができるでしょう。

考えてみれば、世界的インフレの直接的原因は、エネルギー超大国ロシアがウクライナに侵攻したことでした。ウクライナ侵攻で、食糧とエネルギー価格が高騰し、それが世界的インフレの原因になったのです。エネルギー価格が上がると、発電コストも生産コストも輸送コストもすべて上がります。だから、電気、ガス代だけでなく、あらゆるものが上がる。

ということは逆に、増産によって原油、天然ガスの値段が下がれば、あらゆるものの価格が下がっていくでしょう。というわけで、トランプは、原油、天然ガスの増産によって、「関税引き上げ」と「インフレ退治」という、2つの公約を同時に実現できるという話でした。


▼困るプーチン

ところが、トランプが原油、天然ガスを増産し、エネルギー価格を下げると困ってしまうのがプーチンです。なぜ?

プーチンがウクライナ侵略を開始したことで、最大顧客だった欧州は、ロシアからの石炭、石油、天然ガス輸入を大幅に減らしました。石炭、石油の輸入は止まり、天然ガスは、細々と続いている状況です。そこでプーチンは、中国とインドへの原油、天然ガス輸出を激増させました。

——『朝日新聞DIGITAL』2024年1月24日:中国税関総署によると、2023年の中国によるロシアからの原油の輸入額は前年比3.8%増の606億ドル(約9兆円)と過去最高となった。輸入先では、サウジアラビアを抜いて最大だった。ウクライナ侵攻を続けるロシアを、中国が経済面で支えている構造が改めて浮き彫りになった。
ロシアからの原油は中国の原油輸入額全体の18%を占めた。侵攻前の2021年に比べると約50%増えており、侵攻後に急速に増えている。――

とはいえ、中国もインドも、「慈善事業」でロシア産原油を買っているわけではありません。

「親プーチン派」の人は、「中国、インドがロシアの味方だから、ロシアは孤立していない」と主張します。では、なぜロシアは、弾薬を中国やインドではなく、北朝鮮から輸入しているのでしょうか?

2022年3月の国連総会で、ロシアへの非難決議に反対した国は4ヶ国しかいませんでした。ベラルーシ、北朝鮮、シリア、エリトリア。これがロシアの「友達」です。ドローンをロシアに輸出しているイランも、「友達」といえるでしょう。

何が言いたいかというと、トランプ・アメリカの増産によって原油、天然ガス価格が下がれば、中国とインドが、ロシア産原油、ガスを買う価格も下がるということです。

トランプが公約を果たそうとすれば、大好きなプーチン政権に大打撃を与えることになるのです。トランプは、プーチンや金正恩が大好きです。しかし、彼がアメリカ国民への公約を実現しようとすれば、大好きなプーチンにドロップキックをくらわせる結果になる。

そして、トランプは、有言実行の男。公約を実現しようとすれば、必然的にプーチン・ロシア経済を困窮させる結果になるのです。