赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

財務省解体論(第二回)——消費増税に反対を唱えると…

2024-11-28 00:00:00 | 政治見解
財務省解体論(第二回)——消費増税に反対を唱えると…




昨日の続きです。講演者の特別の許可を頂いて掲載しています。(なお、本講演録は岸田首相在任期間に収録されたものです。)


財務省は洗脳機関

経済成長とか、あるいは起業支援とか、あるいは景気を良くするというのは、むしろ経産省とか今はなき経済企画庁とか、そういったものの役割であって、財務省は財務省の所轄内にある国税庁も含めて、税を取って配る役所だったんですね。なるほど、それだったら経済が必ずしも分かっていないというのは、そのとおりなん だなということカヾ分かりました。

安倍さんはそれを「不思議だね」と。「彼らは、日本の将来をどうしていこうというよりも、いつも単年度の収支ばかり気にしている」と。

つまり、複数年度に渡る景気浮揚政策などは一切なくて、今年の収支が合うか合わないか、つじつまを合わせることばかり考えているということでした。

そこに至るまでは、安倍さん自身がいろいろな経験をしていたということもあると思います。

まず第2次安倍政権ができた時にどうだったかというと、その前の段階の野田首相時代に自民・民主・公明3党で、消費税を2段階に分けて5%から10% に上げるという合意がもうなされていたんですね。安倍内閣になってまずその1回 目の8%に上げるという時が来ました。安倍さん自身はそれに対して消極的ではあったのですが、政権発足まもなくそんな約束を引っくり返すようなカは、まだ当時なかったので、とりあえず8%には上げました。

そしてさらに二度目の消費税上げに関しましては、安倍さんは2回も延期しました。これは財務省の抵抗を相当押し切ることで、これが大変だったわけですね。

平 成26年II月に27年10月に予定されていた消費税増税の延期を表明した上で、衆議院解散総選挙に踏み切りました。これは財務省の増税圧力を押し切るために、解散 が必要だということでやったんですね。

財務省がなぜそんなに強いかというと、自民党と公明党という与党も民主党などの野党も、財界も、みんな根回しして財務省の論理を吹き込んで、消費税は上げなきやいけないものだというふうに思い込ませていたんですね。

これに逆らうのは相当な力技だったわけです。安倍さん自身が言っていたのは、「私は26年9月半ばか ら消費税を上げないと考えていた。

ところが財務省の洗脳がすごかった。自民党の大半も、民主党も財界も根回しされていた。」そのとおりで、当時の谷垣幹事長も 稲田政調会長も、みんな財務省に根回しされて消費税は予定どおり上げるべきだという考えで、あるいは高村副総裁もそうでした。麻生さんは財務大臣ですから、当然そう言います。もうほとんど味方がまわりにいないんですね。それでも意思を通すために、解散というカードを使ったわけです。

例えば、こんなこともあったそうです。安倍さんがある時にメガバンク3行の頭取と昼飯を食うことになっていました。昼食会場に向かうと、なぜかそこに財務省の幹部が座っている。なんだと思って「君は呼んでいないよ」と言ったら、さすがに部屋からは出て行ったけれども、その後、そのメガバンク3行の頭取たちはみん な口々に、「お客様のほとんどが消費税上げすべきだと言っています」と、増税論 を唱えた。

安倍さんがあきれて、「あなたたち、本当にそう思ってるんですか」と言ったら、みんな押し黙ってしまったと。つまり、銀行は金融庁を通じて財務省の言いなりですし、経済界もそうなんですね。そういうふうにして外堀を埋め、内堀を埋め、財務省がやってきた消費税上げのための準備を引っくり返すためには、解散までが必要だったということになります。

財務省はそれぐらい強いし、洗脳力が強い。例えば民主党政権時代には、当初、「消費税増税なんかしない」と言っていた野田さんが、熱心な消費増税上げ論者になりました。「官僚なんかバカばっかりだ」と言っていた菅直人さんは、財務大臣をやったあとは「景気を上げるためには消費税を上げるべきだ」という謎の論理を展開しました。そんなこんなで、財務省は官庁の中の官庁、最強官庁と言われているわけです。 

ただ、安倍さんは私にこう言っていました。「永田町や霞ケ関の空気と、その外の世界の実感は違う。より大事であり、選挙の結果を左右するのは外のほうだ。永田町は財務省に引きずられているが、財務省はずっと間違えてきた。彼らのストー リーに従う必要はない」。

実際、その間違えたというよりも、財務省が適当なことを言って消費税を何とか 上げさせようとしてきたことで言うと、例えば安倍さんに対しては26年4月に消費 税を5%から8%に上げた際には、こう言っていました。

「財務省はあの時、『増税の影響は一時的で、すぐに戻ります』と言っていた。財務省は当初、『27年の7月 から9月期のGDPは4%の成長となる』とも説明していた。まさかマイナス成長になるとは思わなかった。全然財務省の見通しなんかおかしいし、消費税の影響力は ないと言ったのも嘘だった」。

しかもこの時、財務省は、「その次の27年の増税を延期すれば財政健全化はできません」と安倍さんに言っていたのですが、それも延期したのに、27年度に基礎的財政収支の赤字を半減する目標は達成したんですね。その他、財務省が安倍さんに言ってきたのは、「消費税上げを延期すれば日本は 国際的信用を失い、国債は暴落する」。と。

しかし、そんなことはまったくありませんでした。「金利は手を付けられないぐらい上昇する」。そんなことはまったくなかったんですね。

財務省はさまざまなデータを示して、自分に都合の良いデータだけを示すわけです。その一方で第2次安倍内閣では、アベノミクスが奏功して非常に景気が良くなってきました。

その前の野田政権の時には株価が8,000円台まで下がったのが、 どんどん上がっていったわけですが、安倍さんは私にこう言いました。「財務省は アベノミクスで税収が伸びた際には、都合が悪いので首相官邸にその情報を伝えて こなかった。菅さん(当時の官房長官)に『ちやんと資料を出せ』と言われたら、 しぶしぶ持って来た」。

そして、安倍さんはこうも言っていました。「第2次安倍政権になってからの税収増は21兆 円で、そのうち8兆円が消費税を3%上げた分だった。だが、税率8%に上げていなければ、もっと法人税収は増えていた。本当に8%にしたのは正しかったのか。 もし上げていなければ」ということを言って、やはりそこでも非常に後悔していたわけですね。 

しかし、財務省側はアベノミクスによる税収増は安定財源にならないと繰り返すばかりだったと言っていますが、これは今もそうなんです。


モリカケにおける理財局長の罪

岸田内閣が今——これは別に岸田さんに何か手柄があるわけじゃないけども――コロナ禍が終わって税収が非常に伸びている。しかし財務省は「これは安定財源にならない」と、まったく同じ言い回しをするわけです。

じゃあ消費税だったらなんで安定財源になるのか。消費税を上げて景気が悪くなって法人税も下がってしまったら、安定しないじゃない かと。もうこれが根本的におかしいんですね。

ただし、私も含めて冒頭言ったように、財務省はエリートの中のエリートが立派な勉強をして経済を回しているはずだと勝手に思い込んでいて、そう信じていた部分があります。だけど、それはただの神話に過ぎないということを、高橋洋一さんたちが盛んに発信するようになりました。

その影響が結構あって、財務省は今相当焦っているのではないかと。岸田さんについても、言うことを全部聞いてくれると思っていたら聞かないので、いら立っているというところでしょう。

これよりもう一つ、国民の中で勘違いが横行していることがあって。官僚とかは 首相をはじめとした政治家に忖度したり、首相と大臣の言うことを聞くものだと思い込んでいる場合が多いですね。

実際、それは指揮命令系統的には首相や大臣のほうが上なのですが、しかし官僚にとって首相や大臣というのは、数年たてばいなくなる存在なんですね。それよりも自分の先輩、縦社会の中の上下関係、有力な省内の先輩方のほうがずっと怖いし、影響力があるわけです。特に財務省の場合は人事はずっと決まっていて、それを政治家がいじることは許さないという体質もありま す。

実は第2次安倍政権の時に、財務省の文書改ざん事件というのがありました。それで財務省の近畿財務局のノンキャリの職員が自殺するとか、残念な事態があったわけですが、これも新聞やテレビ、あるいは一部のジャーナリストなどは財務省が安倍さんに忖度したというような、わけの分からないことを言うわけですが、それ はまず構図としてあり得ないんですね。

例えば、近畿財務局の方が総理の立場をおもんばかって忖度するかと。そういうことがあるかという話です。

安倍さんが私に 言っていたのは、「政治評論家の田崎史郎さんと話している時に、田崎さんに『いや、そうは言っても忖度ってあるんじゃないですか』と聞かれたことがある。だから私は『田崎さん、あなた新入社員だった時に社長の思惑なんか考えましたか』『ああ、それはないですね』という返事だった」ということも聞いています。

あれははっきり言えば、状況証拠として間違いないのは、そうではなくて当時、 財務省理財局長だった佐川さんという――霞ヶ関ではパワハラ大王と言われた人で すけれども——があまりにも多忙で、ちゃんとした答弁のための資料を読み込めずに、国会で野党の追及があまりにも多かったものですから、答弁に立って事実と異 なることを幾つか言ってしまって、その答弁を訂正できないものだからそれに合わせて報告も書き直した、命令したということがはっきりしているわけ です。

そうすると、安倍さんはまったく関わっていなかったし、むしろ言っているのは 「財務省は改ざんなんかしなかったらよかったのに」と、本当に言っているわけで す。ほとんど安倍さんの名前なんか、Iカ所も出てこないし、安倍昭恵さんがちょろっと出てくるけど、それもほとんど意味がないという、それだけの文書でしたね。

(つづく)