②中国のロビー活動の実態
——オバマ政権下でのロビー活動
(続きです——本講演録は、特別に許可を頂いて公表いたしております。)
チャイナ覇権の拡大——オバマ政権下でのロビー活動の急成長
さて、本題に入ります。アメリカにおける中国共産党のロビー活動。この2ですね。D.C. というのはDistrict of Columbia、アメリカの首都ワシントンのことを言う。ここにおける中国共産党政権のロビー活動について。21世紀、2000年に始まったこの中国の政府企 業による、アメリカの首都ワシントンにおけるロビー活動が本格化したのは、オバマ政権 1期目の後半、だいたい2010年頃からなんですね。
比較的最近だなと思う方が多いかもしれません。実際そうなんですね。私が2010年、すなわちオバマ政権1期目の発足から2年目を迎えた時期で、私は2010年元旦付でワシントン支局長を命じられたわけなんですけ れども、ちょうどこの時期に当たるんですね。中国のアメリカにおけるロビー活動が活発化する時期に、ちょうど当たったわけです。
当時はG2なんていう言葉がもてはやされておりました。今ではG2という言葉は死語になっていますけれども、当時は主要先進国のグループ7、G7なんてありましたけれども、アメリカではG2、すなわち世界はアメリカと中国の二大国、グループ2が動かしていくんだという、そういう誤った認識というかムードが、中国側だけでなくてオバマ政権側にも ありまして、これが中国を増長させる種をまいていたという時期に当たります。
この機に応じたのが、まさに中国共産党、習近平政権でございまして、アメリカの首都 シントンでロビー活動に大量の資金を投入し始めたのが、彼らの主張をより強くアメリカ政治に反映させる狙いがあったからだと思われます。
ワシントンにおける中国のロビー活動は、2010年頃からアメリカの大手ロビー企業と高額な専属契約を結ぶ動きを活発化させております。先の大戦前から、アメリカ国内における政界工作と言えば、日中戦争を戦っていた蒋介石総統率いる中華民国、現在の台湾のお家芸だったんですね。
中国の前例のない攻勢で、新たにこの中国ロビーが2010年以降 台頭してきたというわけでございます。それまでは長い冷戦時代だったりして、実は中国共産党政府によるワシントンでのロビー活動は、アメリカ捜査当局の厳しい監視の目もあって、なかなかしづらい状況にあったのです。
それが今申し上げたように、オバマ政権の間違った対中融和政策によって、中国ロビーが活発化し始めたのでございます。
中国政府は同時に、ワシントン北部に巨大な大使館を建造し、大量の外交官とメディア、あるいはメディアを偽装する工作員を送り込んできたのであります。例えば、中国国有石油大手の中国海洋石油総公司——CNOOCと言いますけれども――これがカナダのエ ネルギー大手のネクセンという会社を151億ドル、当時の額で約1兆1,800億円で買収する直前、中国当局はワシントンの中堅ロビー会社のウエックスラー ・アンド・ウォーカーと、 大手のヒル・アンド・ノウルトンと、それぞれ顧問契約を結んでおります。
カナダのエネルギー大手のネクセンは、ニューヨーク証券取引所に上場しておりまして、アメリカの石油権益を保有しているだけに、この買収後に予想されるアメリカ議会の激しい抵抗に備えるためのロビー契約は、合法的な懐柔工作とみられます。
このCNOOC (中国海洋石油総公司)、これが2005年にアメリカ石油大手のユノカルの買収を試みた際には、アメリカ議会カヾ安全保障上の問題があると阻止した経緯があるほど です。最近では、動画共有アプリTikTokの運営会社や、衣料品ネット販売のSHEINなど が、巨額のロビー活動費を投入し、ワシントン界隈で話題となっております。これもロビイング・ディスクロージャー ・アクト、情報ロビー活動公開法があるから明らかになった ものであります。
とりわけ、TikTokの運営会社であるバイトダンスは、秘密性からアメリカ議会の風当たりが強く、応援団としてのロビー会社の必要性を中国側は感じていたのでありましょう。
アメリカで2024年、今年なんですけれども、4月下旬に成立したTikTok利用禁止法は、運営元のこのバイトダンスカヾ、最長でも1年以内にアメリカ事業を売却しなければ、アメリカ国内での利用を禁止するという内容となっています。
アメリカ国内には1億1,000万人の TikTok利用者がおりまして、この影響力は無視できないことを懸念した結果とみられます。下院では賛成352、それでも反対は65もあったんですね。中国側を支持する反対の65 票には、中国共産党と契約したアメリカの中共ロビーの強力な働きかけがあったとみられます。
トランプ前大統領がTikTokとの提携を禁じるこの大統領令に署名した2020年には、中国はロビイストを10人に増やし、今は14人を登録しております。2021年、TikTokを運営 するバイトダンスは、2019年の10倍にあたる261万ドル、約4億円をロビー活動に投入しているということでございます。
ネット大手のアリババ集団も、2割増の316万ドル、4億9,000万円を投入しております。2020年夏にアメリカで正式にロビー活動を始めたテンセントは、125万ドル、約2億 4,000万円。これに対し、通信機器大手のファーウェイ、これは2019年よりも逆に8割も 減らしているんですね。
ファーウェイの製品にはバツクドアと呼ばれる情報の抜き取り チップの存在が指摘されておりまして、安全保障上重大な懸念を持つことからアメリカで 叩かれまくって、これも形勢不利でロビー会社を今さら雇ったところでもうこれは逆転不 可能であると。ロビー会社と契約するだけ無駄だと考えたんじやないでしょうか。
でなけ れば、8割も減らすというのは、ちょっと考えにくいことでございます。元アメリカ海兵隊の情報将校で共和党のマイク・ギャラガーという下院議員がいらっしゃるんですけれど も、彼は、「現在の所有形態が続く限り、TikTokの脅威は大きいと言わざるを得ない」と語っているんですね。
脅威の根拠とされるのは、先ほど私はバックドアと言いましたけれども、TikTokのア ルゴリズムの能力にもあるんですね。どの動画を優先的に表示するのかを決める、このアルゴリズムの詳細は非公開で、バイトダンスが中国共産党の意向を受けて、TikTokを使っ てアメリカ国民の世論に自国の有利になるような影響を行使している、と見ているためで す。
アメリカの若者の間で反ユダヤ主義が急拡大し、パレスチナ寄りの投稿がイスラエル寄りの投稿の数十倍もあったと。そんなことがあったり、香港の民主化や天安門広場などの キーワードが出てこない、この異様な状態ですね。これがやはりTikTokは危ないだろうという、そういう法律の成立を後押しした経緯がございます。
衣料品ネット販売のSHEINですけれども、これは2023年、前年の7倍以上にのぼる212 万ドル、約3億3,000万円をロビー活動に費やし、アメリカ通商代表部(USTR)の在籍経験者、USTRの元職員をロビイストとして起用し、自分の会社に有利になるような働きかけをアメリカ政府に強力に行ってきたということです。
(つづく)