もとは放送作家でしかもNHKがメインだったはずだ。名前だけは聞いた事があるかもしれないがNHKの
「ひょっこりひょうたん島」の脚本を担当したのが井上だ。
彼の笑いというのは、原点はが浅草のストリップ小屋で受けるような笑い、今で云えば吉本的なそれであり、
笑わせることにしばし強引なところがある。それは下品な笑いなのではないかと思っている。
上質なエスプリ、ウィット、ユーモアとは一線を画す確信犯的な笑いといえば良いのかもしれない。
そもそも孤児院で育ち(四十一番の少年)上智をでたのだから、人生の機微をいやおうにも感じてきたに
違いない。彼は直木賞作家である。直木賞とは大衆文芸に貢献したものというのが選考基準のひとつであるが
受賞するまではお世話になったはずのNHKの受信料の不払い運動に加担するなど、恩義をあまり感じない
人のような気がしてならない。自虐ネタとでもいえばいいのか、そこに笑いを乗せるような著作が多いのである。
北杜夫氏の文に「最初の頃は北氏の文を真似た」と告白している事が書かれている。
それはともかくとして、伊能忠敬をモチーフにした長編「四千万歩の男」や、国家独立をモチーフにした
「吉理吉人」などを書き上げていくにつれ、ようやく自身のスタイルを確立したのではないかと思う。
遅筆堂と自ら名乗るほど原稿の入稿がとても遅かったようだ。いいものを書けばそれは良いとしても
遅筆堂として堂々と締め切りを破るのだから編集者達はさぞかしたいへんな思いをしたと思う。
氏の訃報は、御歳から考えれば早すぎたようにおもうが、かなりの愛煙家であることを考えるといたしかたがない
ちなみに、晩年は鎌倉のさすけ稲荷の傍に住んでいたのだが、鎌倉は代々住んでいる人びとと
新参者とでは、新参者に厳しい何かがありそうだ。(みのもんたも然り)
初期のエッセイで既に7回引越しをしたと書いてあるので生涯で何度目の引越しだったのだろうか?
決して嫌いな作家ではない。そもそも私が本を集めだしたのは、井上ひさしがレール式書架にまたがっている
写真を見たからかもしれない。彼の読書の量はすさまじいものがあって、それが晩年の著書に現れている。
氏の風貌の変遷をみても、あの丸いロイド眼鏡はトレードマークであり続けた。
私も丸い眼鏡を探しているのだが殆どの眼鏡チェーンでは手に入らない。
遠近となってしまった私にはあの丸い眼鏡は一番理にかなっているように思えるのだが、これが
全く手に入らないのである。井上の事だからもしかしたら魯山人の真似をしていたのかもしれない。
良くも悪くもパクリの人生であったと思う次第だ