先週の「江」は婚姻以来反発しあっていた江と秀忠が伏見の徳川屋敷の火事での出来事を契機に心を通わせて結ばれるというめでたいお話でした。これでドラマの流れもこれから大きく変わっていくのではないでしょうか。豊臣家の人間、しかし心は浅井家の人間である江が徳川家の人間に変わっていくのだと思います。現代人には存在感のない「家」「氏」を描く脚本家の苦心が続くのではないでしょうか。
さて、先週描かれた江と秀忠の二人の話は史実なのかというとそれは違うとどなたでも思うでしょう。夫婦二人だけの間の出来事を記録した史料などあるわけもなく、脚本家の創作に決まっています。私はそのことを問題にするつもりはありません。私が問題にしたいのは「時代の空気」が感じられないということです。たとえば、今回放送されたお話を現代劇に焼き直しても、そのまま通用してしまうと思えるのです。親の意向で無理やり結婚させられて反発しあっていた若夫婦が新居の火事での出来事を契機に心を通わせて結ばれるトレンディードラマは大いにありえるのではないでしょうか。
そんなことは気にせず、現代も四百年前も似たようなものだと納得して受け止めた方も多いのかもしれません。でも、私は現代と四百年前とでは「時代の空気」がまったく違うはずだと思います。
卑近な例では1980年代後半のバブル期です。あの時代を実感していない世代の人に、あの「時代の空気」を理解できるでしょうか。失われた10年に続いて停滞を続け、東日本大震災に見舞われて落ち込んでいる今の日本の「時代の空気」からはまったく想像のつかないものだと思います。
わずか20数年前のことでもそうです。
そう考えると四百年前の戦国時代の「時代の空気」を現代人が理解できるはずもないと思いませんでしょうか?
私はそう思っています。私は歴史の前には謙虚であるべきと思います。「燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らや」 コウノトリや白鳥のような大鳥の志をツバメやスズメのような小鳥は理解できないのです。四百年前の戦国の厳しい時代を生きていた武将の心を現代人の私たちが気軽にわかるはずがないのです。私は歴史をそのように見ています。
典型的な例をご紹介します。「信長が家康を殺そうとするはずがない!」と断言する歴史研究家がいらっしゃいますし、歴史研究家だけでなく一般の方も皆さん支持している見解だと思います。ところが、当時の光秀の兵卒たちは「京都へ行けという命令を聞いて、信長の命令で家康を討ちに行くものと皆が思った」と書き残しています。当時は「信長が家康を殺そうとするはずだ」というのが「時代の空気」だったということです。信長本人でもない現代人が「信長がやるはずがない!」と決めつけられる不遜さに私は驚き、あきれるのですが、そう思うのは圧倒的に少数派である現実が残念至極です。
われわれ現代人は戦国の世の「時代の空気」をどれだけ理解しているのでしょうか?現代人の視点で決めつけてしまうことは歴史の真実にたどり着く道を自ら閉ざすことだと思います。歴史に対して謙虚になってあらためて勉強させていただく。これが歴史捜査の基本姿勢です。
さて、江と秀忠のあの「時代の空気」がどうだったかというと、和平交渉中の日明間の交渉が破局に向かう国家の重大事が進行していた時代です。そのような中で関白秀次の切腹事件が起き、政局は混迷を深めていました。そういった「時代の空気」がまったく描かれていない先週のトレンディードラマだったように思います。
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さて、先週描かれた江と秀忠の二人の話は史実なのかというとそれは違うとどなたでも思うでしょう。夫婦二人だけの間の出来事を記録した史料などあるわけもなく、脚本家の創作に決まっています。私はそのことを問題にするつもりはありません。私が問題にしたいのは「時代の空気」が感じられないということです。たとえば、今回放送されたお話を現代劇に焼き直しても、そのまま通用してしまうと思えるのです。親の意向で無理やり結婚させられて反発しあっていた若夫婦が新居の火事での出来事を契機に心を通わせて結ばれるトレンディードラマは大いにありえるのではないでしょうか。
そんなことは気にせず、現代も四百年前も似たようなものだと納得して受け止めた方も多いのかもしれません。でも、私は現代と四百年前とでは「時代の空気」がまったく違うはずだと思います。
卑近な例では1980年代後半のバブル期です。あの時代を実感していない世代の人に、あの「時代の空気」を理解できるでしょうか。失われた10年に続いて停滞を続け、東日本大震災に見舞われて落ち込んでいる今の日本の「時代の空気」からはまったく想像のつかないものだと思います。
わずか20数年前のことでもそうです。
そう考えると四百年前の戦国時代の「時代の空気」を現代人が理解できるはずもないと思いませんでしょうか?
私はそう思っています。私は歴史の前には謙虚であるべきと思います。「燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らや」 コウノトリや白鳥のような大鳥の志をツバメやスズメのような小鳥は理解できないのです。四百年前の戦国の厳しい時代を生きていた武将の心を現代人の私たちが気軽にわかるはずがないのです。私は歴史をそのように見ています。
典型的な例をご紹介します。「信長が家康を殺そうとするはずがない!」と断言する歴史研究家がいらっしゃいますし、歴史研究家だけでなく一般の方も皆さん支持している見解だと思います。ところが、当時の光秀の兵卒たちは「京都へ行けという命令を聞いて、信長の命令で家康を討ちに行くものと皆が思った」と書き残しています。当時は「信長が家康を殺そうとするはずだ」というのが「時代の空気」だったということです。信長本人でもない現代人が「信長がやるはずがない!」と決めつけられる不遜さに私は驚き、あきれるのですが、そう思うのは圧倒的に少数派である現実が残念至極です。
われわれ現代人は戦国の世の「時代の空気」をどれだけ理解しているのでしょうか?現代人の視点で決めつけてしまうことは歴史の真実にたどり着く道を自ら閉ざすことだと思います。歴史に対して謙虚になってあらためて勉強させていただく。これが歴史捜査の基本姿勢です。
さて、江と秀忠のあの「時代の空気」がどうだったかというと、和平交渉中の日明間の交渉が破局に向かう国家の重大事が進行していた時代です。そのような中で関白秀次の切腹事件が起き、政局は混迷を深めていました。そういった「時代の空気」がまったく描かれていない先週のトレンディードラマだったように思います。
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