民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「日日是好日」 手を信じなさい 森下 典子 

2016年05月25日 00時12分33秒 | 雑学知識
 「日日是好日」 「お茶」が教えてくれた15のしあわせ 森下 典子 新潮文庫 2008年(平成20年)

 第二章 <頭で考えようとしないこと> 「手を信じなさい」 P-59

 しかし、なかなか、スムーズに一本の線にならない。
 流れはしょっちゅう途切れた。お点前中に「あっ」と、声を上げる。ふいに、不安が差し込んでくるのだ。ひとたび疑いが起こると、たちまち、
(えーと、こうやって、ああやって・・・)
 と、考え始める。すると、
「あー、考えない、考えない」
 と、先生が首を横にふる。
「あなたは、すぐそうやって頭で考える。頭で考えないの。手が知ってるから、手に聞いてごらんなさい」
(「手に聞け」なんていわれたって・・・)
 ところが、どういうわけか拍子抜けするほどスイスイを、お点前できる日があった。自分でもなぜなのか、よくわからない。ただ自然に、無理なくお点前がすんだ。
 武田先生が、ニコッと微笑んだ。
「ほらね、頭で考えなければいいの。もっと自分の手を信じなさい」

 森下 典子 1956年(昭和31年)、神奈川県横浜市生まれ。日本女子大学文学部国文学科卒業。大学時代から「週間朝日」連載の人気コラム「デキゴトロジー」の取材記者として活躍。その体験をまとめた「典奴どすえ」を1987年に出版後、ルポライター、エッセイストとして活躍を続ける。(中略)20歳の時から茶道を習い始め、現在も続けている。