民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「さとりのお化け」 小国町昔話集 2 

2013年06月20日 00時09分09秒 | 民話(昔話)
 「さとりのお化け」 小国町昔話集 2 ネットより

 むかしあったけど。

 炭焼おやじ、夜、山で退屈なもんだし、このような風に、ただいても、もったいないと思って、
『カンジキ曲げ』しったど。―カンジキって知ってござんべ―。
そして一生懸命曲げてたば、旅人ぁ来たずもな。
「こんばんわ」て来たなだ。

(こんな山の中さな、なんだべまず。何かの化けたものには相違ないな)
 と、こう思ったど。
「ほう、なんだ、おやじ、おれば何かに化けたんだと思ったべ」
 と、こういうずもの。

(いよいよもって、これは化けもんだ)
 そう思ったど。
「いや、やっぱり、いよいよもって、化けもんだと思ったな」
 こう言うずものな。

 そのうちにおやじも恐っかなくなって来たもんだから、ちと太めのカンジキ曲げっだな、
手はずして、ピンと跳ねたずも。そうすっど、その旅人どこさ、太っとい方飛んで行って、
その鼻柱のあたりビンとはじいてしまったど。

 そうしたば、キャーッと逃げて行ったど。
鼻血たらしたらし…。
まぁそうする気でないぐしたもんだから、悟れねぇがったそうだ。

 そうして夜明けてから、
「やれやれ、ええがった」
 と思って、血たらした後たどってみたど。
そしたば雪の上さポタポタと垂(た)ってだ血辿(たど)って行ってみたら、穴あったど。
そして村の衆頼んで行って掘ってみたば、古ぼけたムジナであったど。
それする気でなくしたもんだから、ふいに急所やらっで、うなっていたどこ、捕(と)らっだけど。

 むかしとーびん。
 
〈話者 川崎みさを〉

「さとりの化けもん」 稲田 和子・筒井 悦子 編

2013年06月18日 00時20分25秒 | 民話(昔話)
 「子どもに語る 日本の昔話」2 (全三巻) 稲田 和子・筒井 悦子 編 こぶま社 1995年
 「さとりの化けもん」 福島県の昔話

 ざっと、昔 あったと。
 昔むかし、山奥の一軒家に泊まって、木や竹で細工仕事をしているじいさまがあった。
秋が深くなって、山の木の葉がぽっつりぽっつり散りはじめた。
 ある日、じいさまは火を燃やしながら、
「冬の支度せねばなんねえ。今日は、かんじきでもつくるべ」と、思っていた。

 すると、そこへひょっこりと、ひひ猿というのか、猿が年とったような、不思議なものが入って来て、
「じいさま、じいさま、ちっと火にあたらせてくろや」と言った。
「ああ、いいとも、いいとも。さあ、あたれ」と、じいさまは、口では言ったものの、心の中では、
「この野郎、火にあたらせろ、なんて、言ってるが、
『おれを取って食うべ』と、思って来たんでねえか」と、思っていた。
 すると、そのひひみたいなやつは、目をギロリと光らせて、
「じいさま、じいさま、おまえが今、考えていたこと、あててみっか」と、笑いながら言った。
「おう、あててみれ」と、じいさまが答えると、
「『この野郎、火にあたらせろ、なんて、言ってるが、 おれを取って食うべと思って来たんでねえか』
と、思ったな」と、言ったから、じいさまはたまげてしまった。

 そして、「こいつ、気味の悪い野郎だ、ナタでもって、やっつけてやっか」と、考えた。
すると、そいつは、じいさまの心をそっくり読んでしまって、
「じいさま、今度は『こいつ、気味の悪い野郎だ、ナタでもって、やっつけてやっか』と、思ったな」と、言った。
 じいさまは、ますます、気味悪くなって、「こいつはいったい、なんだべ」と、考えていた。
すると、そのひひみたいなやつは、
「おれは、さとりというもんで、人の気持ちはなんでもさとることができる。
今、奥山から出てきたところだ」と、話した。

 じいさまは、このさとりにはとてもかなわんと思ったので、
「相手になるのはやめだ、なにも考えねえで、仕事すべえ」と、
火のそばで、かんじきにする竹を丸めていた。
 その時、なんの拍子か、手元がゆるんで、丸めた竹がじいさまの手を離れ、火の粉をちらしながら、
さとりの顔にパチーンと、はねてしまった。
 さすがのさとりも、これにはおどろいて、
「いや、人間ちゅうのは、おっかねえもんだ。さとりきれねえことをする」と、言って、
あたふたと、奥山へ逃げ込んでしまった。

 ざっと市が栄えた。

「さとるのばけもん」 落合 じゅんこ

2013年06月16日 00時19分30秒 | 民話(昔話)
 「日本むかしばなし」4 まぬけなおばけ  民話の研究会編 ポプラ社 1978年

 「さとるのばけもん」 落合 じゅんこ

 むかし、ひとりの炭焼きがおったと。
たったひとりで山へでかけ、小屋がけをしては、もくもく もくもくと炭を焼いておったと。

 ある日のこと。
どういうわけか、その日は朝からうす暗く、日がはやばやと落ちると、雪もぼさぼさ降ってきた。
 炭焼きはあんまり寒いもんで、たき火をこさえると、まきをぼんぼん くべはじめた。
まっ暗な空の中にすいこまれていく煙を、ぼんやりとながめているうちに、
炭焼きはなんや心細くなってきた。
(今日は昼間っから夜みたいに暗(くろ)うて、なんとも気味の悪い日でねが。
おら、こんげなさびしい山奥に、たったひとりっきりだば・・・・・。
なんや、おっかないもんでも出てこねば ええが・・・・・。)

 炭焼きが心の中で、そう思うたとたん、
「なんや、おっかないもんでも出てこねば ええが・・・・・と思うたな!」
煙の向こう側から、わらわらと、不気味な声が響いてきた。

 びっくりして炭焼きが見ていると、暗闇の中から大きな目ん玉がひとつ、
こちらをぎろっとにらんでおる。
(出たっ。ひ、ひとつ目のばけもんだ。こりゃ、どっかへかくれねば。
一体、どこさかくれたらええもんかの。)
 炭焼きがあたふたしておると、
「いったい、どかさかくれたらええもんあの、と思うたな!」
そのばけもんは、すぐに言い当てた。

 (こりゃいかん。かくれても、すぐ見つけられるぞ。
よし、そんならこのばけもん、ひとつやっつけてやるぞ。)
「このばけもん、ひとつやっつけてやるぞ、と思うたな!」
ばけもんは、またもや炭焼きの思うたことを、すぐにさとって言い当てた。

 (ありゃ、やっつけることもできんぞ。
それにしても、おらの考えていることをぴたっぴたっとさとるとは、こいつはいったい、なにもんだ?)
炭焼きがそう思うと、
「おらの考えていることをぴたっぴたっとさとるとは、こいつはいったい、なにもんだ、と思うたな!」
(そうか、こいつが話しに聞く、さとるのばけもんというやつだな。
こりゃ、ぐずぐずしてると、とって食われるぞ。)
炭焼きはおろおろしはじめた。ところがやっぱり、
「 ぐずぐずしてると、とって食われるぞ、と思うたな!」

 ばけもんに、こう かたはしから さとられたんでは、もうどうにもならん。
 炭焼きはとうとう覚悟をきめた。
(なんぼ思うても、さとるのばけもんにかかっては、しょうがない。やめた、やめた。
思うのはもうやめた。さあ、とって食う気でくるならこい!)

 覚悟をきめると、どっかと腰すえてマキをくべはじめた。
「 とって食う気でくるならこい、と思うたな!よしっ。」
ばけもんは近づいてきはじめた。

 炭焼きはもうなんも考えんで、マキをくべていく。
手にあたったまきを一本とっては、膝小僧にあて、力を入れて二つに折る。
ばけもんはたき火をまわって、じわりじわりと近づいてくる。

 とうとう、ばけもんが炭焼きにとびかかろうとした、ちょうどその時。
パチッ
大きな音がして、炭焼きの折っていたマキのこっぱがはじけちった。
はじけたこっぱは、ばけもんの目ん玉の中にとびこんだ。
「あちい、あちい、あちちちち。」
ばけもんは、目ん玉かきむしってわめきちらし、どたんばたんと大騒ぎ。

 そのうち、
「人間というやつは、まったく、思いもかけんことをするもんだ。おっかない、おっかない。」
こう叫ぶと、山の奥深く、ころげるように逃げて行ってしまったと。

 こんで、これっきり。


「さとる」(さとりの化け物) ミヨキさんのざっと昔

2013年06月14日 00時57分37秒 | 民話(昔話)
 「さとる」(さとりの化け物)「ミヨキさんのざっと昔」野上千恵子・堀之内裕子・小熊延幸 編著
 ざっと昔あったと
 山へ炭焼きしてるじさがあったって。
山へ小屋かけて、そこ泊まって炭焼きしてたども、秋になって雪がどんどん降ってきたんだんが、
「明日下げよ。早く炭背負(しょ)って家(うち)もどろ」
と思って、どんどんどんどんと火燃(も)して、かちき(かんじき)がねぇんば行がんねぇんだんが、
山竹取ってきて、かちき こしょう(作ろう)と思っていたら、そこへ一つ目の化け物(もん)が
入(へぇ)ってきて、そのどんどん燃(も)した火のとこへ当たってってんがの。

「まぁ、この一つ目の化け物は気味(きび)が悪(わ)りくて」
と思って、じさ見ていたら、ほしっと、その化け物が、
「じさじさ、お前(めぇ)の言(よ)うこと、思ったこと、おれが全部当てて、話してっからのんし」
 そう言う。
「まぁ、はて、この化け物は気味が悪りくていやだなぁ」
と思ったら、その化け物が、
「じさじさ、お前、今、この一つ目の化け物、気味が悪りくていやだなぁ、と思ったのんし」

 ほしっと、こった(今度)じさ、
「いやだなぁ、この一つ目の化け物な、どうしてくりょ」と思ったら、その化け物が、
「じさじさ、今、この一つ目の化け物な、どうしてくりょ、と思ったのんし」
じさの思ったこと、みんな、化け物が言うと、
「あぁ、山ん中入っと、人の思ったことみんな判じる、さとるっていう化け物がいたってあったが」
そ思ったら、またその化け物が、
「じさ、今、さとるという化け物があって、人の思ったことみんな判じるって話だ、そう思ったのんし」
ほしっと、じさが、「この化け物な、どうしてくれたがいいな」と思った。
ほしっと、「じさじさ、今、この化け物の、どうしてくりょ、と思ったのんし」
じさの思ったことみんな当てっと。

 ほしっと、かちきこしょう(作ろう)と思って、どんどん火燃(も)しった。
そこで竹切ってたんだん、竹を輪っかにしてたがん、どうした拍子だか、輪っから手が離れてあったと。
ほしっと、その輪っかが竹らんだんが、熱(あ)っちぇおきと熱灰(あつばい)がその一つ目の化け物に
飛びついたってんがの。
「あぁ、熱(あっ)ちぇちぇ」と思って、
「人間っていう者(もん)は、まぁ、おれが判じらんねぇこともしるから、
こんげんとこは長居はしらんねぇ。早く逃げよ」と思って、飛び出して逃げたって。
ほしっと、「昔は、さとるという化け物が山の奥へいてあったそうだ」
ってこと、じさ思って、ども、化け物の逃げたんだんよかったと。

 いきがさけもうした。なべんしたがらがら。

「さとりの化け物」 稲田浩二・和子 

2013年06月12日 00時03分33秒 | 民話(昔話)
 「さとりの化け物」 日本昔話百選  稲田浩二・和子  三省堂  2010年版

 ざっとむかしあったと。

 じいさまが夜なかに山小屋で、たったひとり火に当たっていらしたと。

 すると何かが音をさせないではいってきて、火のはたへ寄って来たから、
「これは性(しょう)の知れない化け物だな」と思っていらしたと。

 そうしたれば化け物が、
「われは、性の知れねえ化け物だな、と思っているな」
と言うて、じいさまの思ったことを、そのまんまぴたりと当てたんだと。

 じいさまは、たまげて、
「人の心の中を見透(みとお)すから、これは悟りの化け物であんべえ」
と思っていると、
「われは、人の心の中を見透(みとお)すから、これは悟りの化け物であんべえと思っているな」
と言ったと。

 -----悟りの化け物をごぞんじか。
人間の思うことをみんな悟ってしまう化け物で、もとは奥山にいたもんだと。

 ----- ま、しょうがねえ。
火でもたいて当たらせべえと思って柴(しば)を折ると、
それがはね飛んで、化け物の鼻柱のあたりをピンとはじいてしまったと。

「いや、人間ちゅうがん(やつ)は、考えもつかねえことをする。おっかねえもんだな」
と言って、悟りの化け物は、山へこそこそと逃げ込んでしまったと。

 いちが栄えもうした。

                        ----- -----福島県南会津郡 -----