不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Mecenatismo

2011-07-05 23:43:00 | アート・文化

イタリアは世界的に見ても観光資源が多く、
ユネスコ世界遺産登録数も圧倒的に多い国ですが、
それゆえに常にどこかで修復が必要であり、
そうしたすべての文化遺産の保存のためには
莫大な資金も必要になってきます。

しかしここ数年、不況を理由に
文化奨励費はどんどん削減されており、
修復が滞り、打ち捨てられ放置気味の自然遺産も多く
美術館も運営資金繰りに苦労するようなところが増えています。

しかし隣の国フランスでは
同じように不況に喘ぎながらも
文化奨励維持費は聖なるものとして
1セントたりとも削らないという姿勢を貫いています。

アメリカの美術館も世界各地の美術館と同じように
経済的には苦しい状況ですが、
チケット、関連グッズの売り上げなどで賄えているのは
全費用の約20%で、
それ以外は大小様々な寄付金で補っています。
アメリカでのこうした文化への個人寄付金の多さは
完全に非課税対象となることが理由だとも言われています。

Mecenatismoとは文芸芸術に対する保護をさす言葉ですが
アウグストゥス帝時代に実存したという
符号政治家マエケナスの名前に由来するといわれるほど、
イタリアでは昔から
こうした個人もしくは一族による文芸保護が盛んです。
ローマ帝国時代で言えば、
オクタヴィアヌス帝もパトロンとして有名ですし、
ルネッサンス期のフィレンツェでは
ロレンツォ・イル・マニフィコなどをはじめとするメディチ家、
他にもモンテフェルトロ家、エステ家など
各地に歴代のパトロン・文芸保護者がたくさんいます。

国家予算の足りないここ数年では
イタリア国家として
国内外の個人投資家の資産に依存する部分も
非常に大きくなってきています。

最近では主要銀行であるSan Paolo Intesa銀行グループが
積極的にこうした文化保護に力を注ぎ、
Tod'sのオーナーであるDella Valle家は
コロッセオの修復に資金を提供しています。

しかしながら、
イタリアでの個人投資家の文化奨励や
文化保護の動きがうまく機能しないのは
ベースがきちんとできていないからなのだ
と指摘する声も上がっています。
時間をかけて大学で勉強した優秀な若者を採用せず
各美術館や文化遺産モニュメントでは
相変わらず古い知識にしがみついた
平均年齢は55歳以上とも言われる「技術者」が従事していて
新しい技術やコンセプトがなかなか導入されていません。
文化遺産保護というのは
古いものを護り続けているだけではなく
時に新しい知識を取り入れて工夫することも必要で
新しい評価も必要であるということが
国の幹部にはあまり理解されていないのが現状です。

せっかくの個人投資も、
それが十分に活かしきれないような環境では
無駄金になる可能性が高く
そろそろ何かをドラスティックに変えないと
イタリアの食い扶持である文化遺産を失いかねないのです。
なんでも不況のせいにしていてはいけないのですよね。