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-四方のたより- 中原喜郎個展
この時期、例によって、中原喜郎さんの個展の案内が届いた。
会期は明日12日(火)から18日(祝)まで、場所は滋賀県立近代美術館ギャラリー。
いつものように、いつものところで、判で押したようにきっちりと持続することに、なかなかそうはいかない私など、まず敬意を表さねばならない。
「我ら何処より来たりて」と題されたシリーズも、もう7回目を迎えるというが、いつもながら感嘆させられるのは、あの広い空間を埋め尽くすだけの作品の数々を、一気呵成に描き上げる力業、その多作ぶりだ。
ネジ製品に多条ネジといういわば二重、三重になった螺旋様のものがあるが、彼の画業過程はその多重螺旋にも似て同時進行的に、幾枚ものキャンバスがそれぞれ別次のイメージに誘われながら色塗られ仕上げられていくのだろう。
今年もまた酷暑のひと夏を、大小数十枚のキャンバスを相手にそうやって格闘してきたにちがいない。
折しも、会場の滋賀県立近代美術館では、「イサム・ノグチ-世界とつながる彫刻-展」が7月から開催されており、ちょうど18日で閉幕するとか。
この企画展には、アメリカのモダン・ダンスの草分け、マーサ・グラハムのために制作した舞台装置「暗い牧場」も含まれており、初演時の映像とともに観られるという。
どうせなら時間に余裕をもって出かけたいものだ。
<歌詠みの世界-「清唱千首」塚本邦雄選より>
<秋-58>
雲まよひ木の葉かつ散り秋風の音うちしめるむらさめの空
下冷泉政為
碧玉集、秋、秋雨、侍従大納言家当座に。
邦雄曰く、秋雨のほか秋苔・秋葦・秋杉等、なかなか趣向を凝らした題詠あり、歌にもこの人独特の工夫は見える。「まよひ・かつ散り・うちしめる」と並列的に畳みかけて時雨空を描きあげる手法、尋常ではない。「秋蘋」題の「浮草の根を絶えざらむ契りをも池の心や秋に知らまし」も第四句に意を盡し、殊に一首一首に深みを作る点、記憶に値する。
おほかたの秋の空だに侘しきに物思ひそふる君にもあるかな 右近
後撰集、秋下。
生没年不詳。右近衞少将藤原季縄の女とも妹とも。醍醐天皇の皇后穏子に仕え、藤原帥輔・敦忠・朝忠らとの恋が大和物語に知られる。小倉百人一首に「わすらるる身をば思はずちかひてし人のいのちの惜しくもあるかな」、後撰集以下に9首。
邦雄曰く、詞書に「あひ知りて侍りける男の久しう訪はず侍りければ九月ばかりに遣はしける」とあり、男への恨みが、ものやわらかに、滲み出るように歌われる。白氏文集の「就中、腸の断ゆることは、是れ秋の天なり」を踏まえての「秋の空」である。まして愛する人の足も途絶えがち、涙ながらに言いつのるところを、この下句の悠長な言葉遣いは、かえってあはれを誘う、と。
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