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-表象の森- はじまりのひろがり
はじめからやりなおすことの利点。
はじまりの地点にはひろがりがある。
どの方向でもいい。最初の枝とおなじ方向にすすむとしても、
それはおなじ流れをつくらない。ちがう時間がちがう流れをつくり、
前の流れからいつかそれていく。
根から這いのぼる別な時間の樹液はそこにあった枝にかさなっていても、
いつか別な方向を見つけてあたらしい枝をのばす。
そのゆっくりとした途絶えないうごき。
うごきが見えないほどちいさくなれば、流れは全体にひろがっていく。
――― 高橋悠治「音の静寂・静寂の音」平凡社より
<歌詠みの世界-「清唱千首」塚本邦雄選より>
<秋-74>
夢かさは野べの千草の面影はほのぼのなびく薄ばかりや 藤原定家
六百番歌合、冬、枯野。
邦雄曰く、曲線を描きつつ一瞬に流れ去るような調べは、誦すほどに、味わうほどに精緻な技法を感得する。歌合では「始め五文字あまりなり。終りの「や」の字甘心せず」と、散々の不評であったが、俊成はこの難をやんわりと退けて定家の勝とした。もっとも、左の寂蓮は言わば対等以下だし、作品そのものも冴えなかったからでもある、と。
明日も来む野路の玉川萩こえて色なる波に月宿りけり 源俊頼
千載集、上、。
邦雄曰く、野路の玉川は近江草津の近くの歌枕。花盛りの萩の下枝に波がかかり、花の色は移ろうが、そこへ月のさすさま。「明日も来む」の弾むような歌い出し、「萩こえて色なる波に」あたりの、俊頼独特の、屈折に富んだ修辞、後年定家も大いに称揚した作である。詞書に見える俊忠は藤原俊成の父、権中納言に任ぜられた時は保安3(1122)年51歳だった、と。
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